僕の隣の席はたこ焼き屋の娘

その大きな蛸は大層彼女がお気に入りらしく、いつも彼女にまとわりついていた。
うねうねと動く腕と大きな吸盤で、いつも愛おしげに彼女に吸い付いている。

そんな彼女は、場所を取るからと窓際の一番後ろに割り当てられた席で、今日も持参したたこ焼きを食べていた。

教室に充満する香ばしいソースのおかげで、通学路の途中にある彼女の実家のたこ焼き屋は大繁盛らしい。

僕はそれがうっとおしくないのかと聞いた。
そのべたべたとまとわりつく大蛸のことも、食欲を刺激するソースの香りのことも、その上でひらひら踊るかつおぶしのことも。

毎日毎日彼女のまわりを否応なしに取り囲むものを。
全てを。

そうしたら彼女はちょっとだけ、
わからないくらい口の端を持ち上げた。

それから僕に一つ、たこ焼きを差し出したのだ。

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2020-06-06 18:42

 春永 およぐ


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