旅人と黒い月
脱出に成功した私は、旅人さんと一緒に世界中を見て回った。始めの頃は、追っ手に捕まって連れ戻されてしまう夢にうなされたけど、それもすぐに見なくなった。 ■私は、広い世界のありとあらゆる側面を見た。いい所も、悪い所も。籠の中の小鳥じゃ、絶対に分からないことだらけだった。目をそむけたくなるような現実もたくさんあったけど、私は、貪欲に全てを見続けた。 ■私が旅にもだいぶ慣れた頃、旅人さんがある砂漠へ案内してくれた。ほとんど名前も知られていない小さな砂漠だったけど、珍しいものが見られるというので、私は心躍らせた。 ■旅人さんは、訪れた土地土地で民族衣装を買い、それを好んで着ていた。「その土地の気候に合わせて作られているから、快適だよ」とよく言っていた。 ■「そろそろかな」という旅人さんの言葉を聞いて、私は空を見上げた。すると、にわかに空が陰り始めて、黒い三日月がぽっかりと浮かんだ。 ■「・・・すごい」 私はそれしか言えなかった。旅人さんが言うには、ある一定の条件を満たさないと見られないらしく、なぜこういう現象がここだけで起こるのか、まだ解明されていないそうだ。 ■たくさん旅してきた中で、どこか1つを紹介しろと言われると、私は決まってここを紹介している。それほど印象に残った光景だった。 ●連作シリーズ第二弾です。ラスト(illust/8380320) 前(illust/8254901)
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2010-01-19 18:16
Comments (3)
もしこの少女が旅に出たばかりだとしたら、黒い月を見て、多分「すごい」とは言わずに「こわい」と言うでしょうね~。
>猫柳ゆねさん ありがとうございます! 普通は黒い月というのは有り得ないですが、だからこそ逆にあってもいいんじゃないかと思います。前回は、まだ少女が狭い了見でしか世界を見通せていなかったので明るかったですが、今回の絵は、旅人と共に幾度も旅を重ねてきた少女のイメージです。
2作目 ちゃんと見に来ましたよー♪ 今回もちゃんと絵と連動して「外の世界」のお話ですよね 黒い月がいったいどんな意味と捉えるかで ずいぶん印象が変わるかなと思います 個人的には絵の色使いとテーマ自体が以前より少し暗めで 何か関係あるかな?とか思っちゃいました