もしもエレンが進撃によるネタバレを受けていなかったら
―――天と地の戦いと呼ばれたあの日から7年が過ぎた。
『10年目の結婚前夜』
「よぉ。ミカサ久しぶりだな」
「……ジャン」
あれから俺は連合国大使として連合国とエルディア国を行き来する生活を送っている。
そして島に戻る度、エレンの墓に見舞い、それからミカサを訪ねるのが俺のルーチンとなっていた。
「……それで、あの時はあいつがよ……」
「ジャンはエレンといつも喧嘩していた。止めるのは僕なんだからとアルミンがいつも愚痴ってた」
大体話すのは訓練校時代の思い出が多い。次に調査兵団だった時代の思い出。
話題の中心はいつもあの大馬鹿野郎。たまにマルコやサシャやコニー達になることもあるが、大体いつも俺とミカサの共通の話題は、あの頃いけすかねえと思っていたエレン・イェーガーの話だった。
……最初はもっと痛みを覚えたものだ。けれど、いつしか懐かしさが勝り、あいつの話題を出しても、ミカサの中では喜びが勝るようになったのだとその微笑みを見る度実感する。
俺は26になった。心の中にいつまでも住まう親友はいつまでも少年のまま、そしてあいつは永遠の19歳だ。月日の流れは傷を癒す。それは俺だけじゃねえ、ミカサも一緒だった。
そしてたわいない会話の終わりに彼女は言った。
「……ジャンは、忘れるべきだと思う?」
黒い眼に寂しさを宿しながら、ミカサが続ける。
「私は忘れたくないと思った。「オレを忘れて、自由になってくれ」とそれがエレンの願いだとしても叶えたくないと……でも本当は叶えるべきだったのかな」
「なんだそりゃ」
随分と身勝手な話だと思った。同時にあの野郎らしいとも思った。
「忘れる必要なんてないだろう。いや、忘れるべきじゃねえ。あいつだけじゃない。マルコやハンナ、フランツ、サシャにエルヴィン団長、ピクシス司令、誰一人忘れるべきじゃねえ。それを覚えているのは、生き残った俺達だけだ、そうだろう? 忘れた時人は本当に死ぬ。俺たちが忘れなければ、あいつらはみんな俺達の中で生きている。だからミカサ……忘れなくていいんだ。いや、忘れないでくれ」
気付けば懇願するような音色になっていた。
「俺達は背負って生きていくしかないんだ。それは生き残った俺達にしか出来ない。だけど……ミカサ、俺はおまえの荷物を半分背負いたいと、そう思ってる」
「え?」
「ミカサ、俺は……お前のことが好きだ。ずっと昔から、お前のことが好きだった。だから俺にもお前の荷物を半分背負わせちゃくれないか? 俺と家族になってほしい。俺と結婚してくれ」
言った。とうとう言ってしまった。そう思いつつ後悔は微塵もなかった。ミカサはどこか戸惑いを覚えた表情をしながら、一呼吸おいて言葉を返す。
「ジャン、私は……今までジャンのことをそういう風に見たことがない」
「ああ……知ってる」
「だから……待ってほしい。今はどう返せばいいのかわからない。だけど、必ず答えは出すから」
「ああ……急がなくていい。いつまでも待ってる」
* * *
エレン・イェーガーの死から10年が経った。
「よぅエレン」
俺は持ってきた酒をエレンの墓石にかけながら、報告を放つ。
「俺さ、明日ミカサと結婚することになった。半年前に漸く2年ごしにプロポーズの返事がもらえてな。本当はもっと早く報告するべきだったんだろうけどよ。どうにもふんぎりがつかなくてよ……」
ガリガリと頭をかきながら、俺は続ける。
「……お前さ、本当はミカサの事、お前も好きだったんだろ。そういう意味でよ。……本当、お前はバカ野郎だ……ッ、帰ってきたら、俺にミカサを取られることもなかったってのによ……ッ」
気付けば目じりが熱い。ぽたりと、涙が一筋こぼれた。
「いや、わかってるよ。お前には出来なかったんだよな。それに……どっちにしろあのままじゃ俺達に先はなかった。お前の寿命だって、そんなに残ってなかったもんな」
涙で視界が霞む中、くしゃくしゃに歪む顔を笑顔に修正する。不格好なのはわかってた。それでも泣き顔ではなく笑顔を手向けたかった。
「俺はさ、ミカサを幸せにする。ミカサだけじゃねえ、俺も、子供が出来たらその子供も。みんなで幸せになる。誰よりも長生きして、ああ良い人生だったって言って終わってやるから、覚悟しとけよ。そっちにいった時には沢山土産話用意しとくからよ」
忘れない。
忘れたくはない。
俺もミカサもあいつを忘れないままに未来に歩いていく。
だって、俺達は生きていた。
生き急ぎ死んだこの世界で一番の律儀なクソバカ野郎の願いの通りにきっと、長く幸福な人生を送る。
きっと。
そして話そう。
いつかまた会えた日にはそれまでの人生の物語を。
「じゃあ、またなエレン」
そう背を向ける俺の頭上を一羽の鳥が見守る様に旋回していた。
了
……って感じの本編最終回でジャンミカがくっつくまでを考えてみたネタがおりてきたんだが、小説で書くべきか漫画で描くべきか、わからなかったので、とりあえずキャプションで描くことしたおいらです。ばんははろ。
わいは進撃は最初っから最後までミカエレ派で、ジャンミカに萌えるか?と聞かれたら別に萌えないし、興味があるか?と聞かれたら特になかったんですが、最終回でジャンらしき男と結婚して子供や孫に囲まれながら老婆まで生きたミカサの生涯を見て素直に良かったなあと思ったので、じゃあいかにして結婚したのだろうかと考えた経緯が上のSSの内容になりますね。
ぶっちゃけジャンも大概エレン大好きだし、ジャンの場合ミカサにエレンを忘れろなんて絶対言わないと思うんだよな。寧ろ一緒に背負おうとすると思うし、そうでなかったら一緒に墓参りしたりしないだろうし、ミカサが死ぬときまでマフラーを許すとも思えないので。エレンが大切なミカサごと愛してたんだろうなと思ったのである。
そしてミカエレ大本命でジャンミカ興味ないくせに良かったなあと思えた理由に、なんだかんだミカサは一生エレンを引きずってたなとか、ジャンも大概エレンのこと大好きやん、寧ろミカサやアルミンよりエレン理解してんじゃねえかお前と思ってたこととか、ジャンは最初っからずっとミカサを一途に好きだったわけだしなとか、ミカサは元々家族に拘る子なわけで、子や孫に囲まれた生涯は彼女にとっては良いことだろうと大体そのへんが理由なので、あのジャンらしき男がジャンだとしたら素直に祝福できるね。おめでとー。萌えはしなくても本当に良かったと思ってるよ。
PS、アンケ結果が漫画と小説拮抗してたので、一番描きたいシーンだけ漫画描いてあとは小説で加筆修正して投稿しました。アンケご協力ありがとうございました。→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15745195
『10年目の結婚前夜』
「よぉ。ミカサ久しぶりだな」
「……ジャン」
あれから俺は連合国大使として連合国とエルディア国を行き来する生活を送っている。
そして島に戻る度、エレンの墓に見舞い、それからミカサを訪ねるのが俺のルーチンとなっていた。
「……それで、あの時はあいつがよ……」
「ジャンはエレンといつも喧嘩していた。止めるのは僕なんだからとアルミンがいつも愚痴ってた」
大体話すのは訓練校時代の思い出が多い。次に調査兵団だった時代の思い出。
話題の中心はいつもあの大馬鹿野郎。たまにマルコやサシャやコニー達になることもあるが、大体いつも俺とミカサの共通の話題は、あの頃いけすかねえと思っていたエレン・イェーガーの話だった。
……最初はもっと痛みを覚えたものだ。けれど、いつしか懐かしさが勝り、あいつの話題を出しても、ミカサの中では喜びが勝るようになったのだとその微笑みを見る度実感する。
俺は26になった。心の中にいつまでも住まう親友はいつまでも少年のまま、そしてあいつは永遠の19歳だ。月日の流れは傷を癒す。それは俺だけじゃねえ、ミカサも一緒だった。
そしてたわいない会話の終わりに彼女は言った。
「……ジャンは、忘れるべきだと思う?」
黒い眼に寂しさを宿しながら、ミカサが続ける。
「私は忘れたくないと思った。「オレを忘れて、自由になってくれ」とそれがエレンの願いだとしても叶えたくないと……でも本当は叶えるべきだったのかな」
「なんだそりゃ」
随分と身勝手な話だと思った。同時にあの野郎らしいとも思った。
「忘れる必要なんてないだろう。いや、忘れるべきじゃねえ。あいつだけじゃない。マルコやハンナ、フランツ、サシャにエルヴィン団長、ピクシス司令、誰一人忘れるべきじゃねえ。それを覚えているのは、生き残った俺達だけだ、そうだろう? 忘れた時人は本当に死ぬ。俺たちが忘れなければ、あいつらはみんな俺達の中で生きている。だからミカサ……忘れなくていいんだ。いや、忘れないでくれ」
気付けば懇願するような音色になっていた。
「俺達は背負って生きていくしかないんだ。それは生き残った俺達にしか出来ない。だけど……ミカサ、俺はおまえの荷物を半分背負いたいと、そう思ってる」
「え?」
「ミカサ、俺は……お前のことが好きだ。ずっと昔から、お前のことが好きだった。だから俺にもお前の荷物を半分背負わせちゃくれないか? 俺と家族になってほしい。俺と結婚してくれ」
言った。とうとう言ってしまった。そう思いつつ後悔は微塵もなかった。ミカサはどこか戸惑いを覚えた表情をしながら、一呼吸おいて言葉を返す。
「ジャン、私は……今までジャンのことをそういう風に見たことがない」
「ああ……知ってる」
「だから……待ってほしい。今はどう返せばいいのかわからない。だけど、必ず答えは出すから」
「ああ……急がなくていい。いつまでも待ってる」
* * *
エレン・イェーガーの死から10年が経った。
「よぅエレン」
俺は持ってきた酒をエレンの墓石にかけながら、報告を放つ。
「俺さ、明日ミカサと結婚することになった。半年前に漸く2年ごしにプロポーズの返事がもらえてな。本当はもっと早く報告するべきだったんだろうけどよ。どうにもふんぎりがつかなくてよ……」
ガリガリと頭をかきながら、俺は続ける。
「……お前さ、本当はミカサの事、お前も好きだったんだろ。そういう意味でよ。……本当、お前はバカ野郎だ……ッ、帰ってきたら、俺にミカサを取られることもなかったってのによ……ッ」
気付けば目じりが熱い。ぽたりと、涙が一筋こぼれた。
「いや、わかってるよ。お前には出来なかったんだよな。それに……どっちにしろあのままじゃ俺達に先はなかった。お前の寿命だって、そんなに残ってなかったもんな」
涙で視界が霞む中、くしゃくしゃに歪む顔を笑顔に修正する。不格好なのはわかってた。それでも泣き顔ではなく笑顔を手向けたかった。
「俺はさ、ミカサを幸せにする。ミカサだけじゃねえ、俺も、子供が出来たらその子供も。みんなで幸せになる。誰よりも長生きして、ああ良い人生だったって言って終わってやるから、覚悟しとけよ。そっちにいった時には沢山土産話用意しとくからよ」
忘れない。
忘れたくはない。
俺もミカサもあいつを忘れないままに未来に歩いていく。
だって、俺達は生きていた。
生き急ぎ死んだこの世界で一番の律儀なクソバカ野郎の願いの通りにきっと、長く幸福な人生を送る。
きっと。
そして話そう。
いつかまた会えた日にはそれまでの人生の物語を。
「じゃあ、またなエレン」
そう背を向ける俺の頭上を一羽の鳥が見守る様に旋回していた。
了
……って感じの本編最終回でジャンミカがくっつくまでを考えてみたネタがおりてきたんだが、小説で書くべきか漫画で描くべきか、わからなかったので、とりあえずキャプションで描くことしたおいらです。ばんははろ。
わいは進撃は最初っから最後までミカエレ派で、ジャンミカに萌えるか?と聞かれたら別に萌えないし、興味があるか?と聞かれたら特になかったんですが、最終回でジャンらしき男と結婚して子供や孫に囲まれながら老婆まで生きたミカサの生涯を見て素直に良かったなあと思ったので、じゃあいかにして結婚したのだろうかと考えた経緯が上のSSの内容になりますね。
ぶっちゃけジャンも大概エレン大好きだし、ジャンの場合ミカサにエレンを忘れろなんて絶対言わないと思うんだよな。寧ろ一緒に背負おうとすると思うし、そうでなかったら一緒に墓参りしたりしないだろうし、ミカサが死ぬときまでマフラーを許すとも思えないので。エレンが大切なミカサごと愛してたんだろうなと思ったのである。
そしてミカエレ大本命でジャンミカ興味ないくせに良かったなあと思えた理由に、なんだかんだミカサは一生エレンを引きずってたなとか、ジャンも大概エレンのこと大好きやん、寧ろミカサやアルミンよりエレン理解してんじゃねえかお前と思ってたこととか、ジャンは最初っからずっとミカサを一途に好きだったわけだしなとか、ミカサは元々家族に拘る子なわけで、子や孫に囲まれた生涯は彼女にとっては良いことだろうと大体そのへんが理由なので、あのジャンらしき男がジャンだとしたら素直に祝福できるね。おめでとー。萌えはしなくても本当に良かったと思ってるよ。
PS、アンケ結果が漫画と小説拮抗してたので、一番描きたいシーンだけ漫画描いてあとは小説で加筆修正して投稿しました。アンケご協力ありがとうございました。→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15745195
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2021-07-24 13:02
Comments (3)
初めまして。キャプションの小説で泣いてしまいました。とても解釈一致で…加筆部分のジャンミカはそういう経緯があって一緒になれたのだなあと…ジャンはエレンにも激重感情持ってるというのも、ミカサの中のエレンごと愛する感じもすごくわかります…!素敵なイラストと小説ありがとうございます!!
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