梨穂子と上京同棲日記 #1

平成14年3月18日

東京へ向かう特急列車の中、梨穂子は少し、悲しそうな顔をしていた。
昨日の今頃は、二人でこれからの大学生活にいろいろな妄想を膨らませていたが、
両親と別れたことで、故郷を去る悲しみを感じ始めているのだろう。
僕も同じ気持ちだった。住み慣れた景色が窓の外を通り過ぎてゆくのを見て、胸の中に
こみあげてくる気持ちを必死で抑える。
自立を経験した人間は、すべからくこの感情を味わっているのかもしれない。

「ほら、駅の売店で買ってきたよ。」

「うん、ありがとう。」

受け取った缶コーヒーのぬくもりを感じながら、梨穂子は少し微笑んでいた。

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2021-09-16 23:24

 変太郎


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