勇者と魔族③勇者暦117年。
勇者と魔族③勇者暦117年。
王都(中央)から魔王の森までの街道。
勇者パート。
少女「もし私が魔族だったら、私のことも殺す?」
また意味のわからないことを。
勇者「何言ってんだよ。肌の色だって同じだろ?」
魔族、魔獣もそうだけど、肌が黒いから一目でわかる。
少女「もしだよ!もし!ねえ、君は、私の肌の色が変わったら、私のことを殺す?」
勇者「…魔族と人間は違うだろ。一緒には生きられない」
少女「そうだよね!魔族は人間を殺すわけじゃないけど、悪いことをさせたり傷つけたりするもんね。そんなやつらに生きてる価値なんて、ないよね。生きてるだけで、誰かを不幸にするだけだもんね」
何故だろう。まるで自分か自分の近くに魔族がいるような、そんな言い方だ。でも
勇者「お前は違うだろ!だから、そんな顔するなよ!」
時々見せる悲しそうな顔が、俺は嫌だった。
少女「ありがとう」
何度か戦ってみて、守りながらの戦いにも少し慣れてきた。それでも夜の魔獣とは戦いたくない。夕暮れに俺は少し焦る。
少女「私もちょっと邪魔にならなくなってきたわね!」
勇者「そうだな」
少女「魔獣は、何のために生まれたんだろうね。殺されるために生まれたのかな」
勇者「勇者を殺す為にだろ」
少女「でも、勇者は何度でも復活するけど、魔王だって倒されればそれで終わりなんだよね」
勇者「勇者には選定の神の加護があるからな」
どうして勇者が敵みたいな言い方。ふと、レクスさんと話した時の足元がぐらぐらする感覚がよみがえる。疲れてるのか?
少女「与えられた役割が、勇者で良かったね」
勇者「…そう、だな。でも、どうだろうな」
俺は自分が勇者であることに不満なんかない。でも、それは俺の話だ。今まで会った勇者。見てきたもの。みんながこの役割を喜んでいたか?
勇者「色んな勇者がいる。勇者になって夢を諦めるしかなかった人。何度も死ぬことに耐えられなくなった人。同じように生きられなくて好きな人と別れた人」
勇者をしながらだって他のことは出来る。でも、勇者であることは辞められない。それに
回想。
レクス「絶対に死なないよう気を付けたって死ぬ時は死ぬ。だからこそ、死なない作戦を立てる。それでも数回死んでるんだけどね。百回以上死んでも平気そうにしてるシギさんが特別で、死ぬのは誰だって嫌だと思うよ。慣れる必要はないと僕は思う」
俺もいつか死ぬのか…。
少女「どうして別れるの?」
勇者「勇者は、魔王を倒すまで死ねない。病気とか、人間に殺されれば死ぬけど。どこかで時間が止まったように、極端に成長が遅くなるから」
少女「そっか…。あっ!」
勇者「また魔獣」
少女の視線の先には戦ったことのない魔獣がいた。でも、あれは知ってる。確か魔法じゃないと倒せないやつだ!俺は自分の使える唯一の魔法を使う。これで駄目なら逃げる!
少女「えっ?嘘!」
悲鳴に似た声に驚くけど、今は魔獣の方をちゃんと見ないと。水の初級魔法はちゃんと効いている。ただ、俺の魔法で俺自身も濡れてるけど。魔法は苦手だ。魔獣が消えたことを確認して少女の方を振り返る。
勇者「だいじょう…」
何となく気付いていた。でも、そんなわけないって。だって肌の色が
少女「近づかないで」
水に濡れた部分だけが黒い。魔族の黒だ。
少女パート。
クリーム落ちちゃった。あーあ。
少女「さよなら」
逃げるように街道とは逆へ走る。
これからどうしよう。今更気付いたけど、私は魔族だから魔獣には襲われないみたい。もしかしたらそうなんじゃないかなってわかってたけど。ひとりぼっちになりたくなかった。楽しかったのになぁ。もう真っ暗。星も月も見えない。今頃、どうしてる…かな。
…まさか、私を捜したりしてないよね?今頃ちゃんと町に着いて、ご飯を食べて…。私のことなんて忘れて…。
でも、もし。万が一。そんなことあり得ないけど。でも、わからない。逃げてしまったから。私は大丈夫だけど、もし魔獣に襲われて何かあったら。
少女「…どうしよう」
次会ったらどうなるかわからない。魔族として見られて、それだけでも心は砕けそう。でも
「俺がちゃんと守るから。俺から離れるなよ」
そう言ってくれた。悲しみに酔うのは後。会って後悔するのも後。今は進む。
水に濡れてはいけない病気。ずっとそういうことにしていた。でも、今日みたいにクリームが取れてしまった。また町を出ることになった。その前にどうしても伝えたいことがあって、私はある人に会いに行った。
少女「いない…よね。いないでよ」
私が一歩近づくと、彼はびくりと肩を動かした。ああ、そうか。この人、私が怖いんだ。もう彼にとって、私は女の子じゃないんだ。こんな思いをしなきゃならないなら、もう二度と恋なんてしない。好きな人なんていらない。そう思った。
少女「何で」
勇者「やっぱり戻ってきた」
少女「何でいるの?」
勇者「離れるなって言っただろ」
少女「一緒には生きられないって言ってたじゃない」
勇者「一緒にいられないとは言ってない」
少女「あ!それよりこんな所にいたら危ない!早く町に行かないと!」
暗くてよく見えないけど、少し怪我をしているように見える。
勇者「お前は大丈夫なのか?」
少女「うん」
まだ、私の心配してくれるんだ。
勇者「なら、先に町まで走れ。俺はあいつら片付けながら行くから」
遠くに何か見える。魔獣よね?
少女「っ」
ここにいても何も出来ないけど、置いて行くなんてもっと出来ない。
勇者「死んでもまた、ここまで戻ってくるから。絶対もう一度会って話そう」
少女「復活するからって、そんな風に言わないで」
勇者「早く行け」
少女「でも」
私が躊躇っていると、後ろから魔獣に向かって真っすぐに風が吹いた。
勇者「シギさん?」
少女「もう、大丈夫なの?」
勇者「あの人の技が当たったなら、もう大丈夫だと思う」
すごく複雑な顔。シギって人は勇者よね?
少女「あっ!」
私、クリーム塗りなおしてない!!シギって人は少しずつ近付いてきている。
勇者「お久しぶりです。魔王討伐してるはずのシギさん」
シギ「…邪魔したみてえだな。生きてんだから文句言われる筋合いはねえか」
勇者「は??…ばっ!違いますから!!!そういうんじゃない!」
ん?よくわからないけど、私のこと見えてないのかな?シギという人はそのまま何も言わずに行ってしまった。
勇者「俺、あの人に殺されそうになったことあるから苦手なんだよな」
少女「え!」
勇者「でも、何で斬られそうになったのかわかった気がする」
少女「何でなの?」
勇者「ムカついたんだろ。それより早く町までって、まず、それどうにかしないと」
少女「そうそう!クリーム!あ、暗くてよく見えない!あー!やって!」
勇者「えっ!」
少女「大体でいいから!町の近くで、自分で鏡見て直すから!」
王都(中央)から魔王の森までの街道。
勇者パート。
少女「もし私が魔族だったら、私のことも殺す?」
また意味のわからないことを。
勇者「何言ってんだよ。肌の色だって同じだろ?」
魔族、魔獣もそうだけど、肌が黒いから一目でわかる。
少女「もしだよ!もし!ねえ、君は、私の肌の色が変わったら、私のことを殺す?」
勇者「…魔族と人間は違うだろ。一緒には生きられない」
少女「そうだよね!魔族は人間を殺すわけじゃないけど、悪いことをさせたり傷つけたりするもんね。そんなやつらに生きてる価値なんて、ないよね。生きてるだけで、誰かを不幸にするだけだもんね」
何故だろう。まるで自分か自分の近くに魔族がいるような、そんな言い方だ。でも
勇者「お前は違うだろ!だから、そんな顔するなよ!」
時々見せる悲しそうな顔が、俺は嫌だった。
少女「ありがとう」
何度か戦ってみて、守りながらの戦いにも少し慣れてきた。それでも夜の魔獣とは戦いたくない。夕暮れに俺は少し焦る。
少女「私もちょっと邪魔にならなくなってきたわね!」
勇者「そうだな」
少女「魔獣は、何のために生まれたんだろうね。殺されるために生まれたのかな」
勇者「勇者を殺す為にだろ」
少女「でも、勇者は何度でも復活するけど、魔王だって倒されればそれで終わりなんだよね」
勇者「勇者には選定の神の加護があるからな」
どうして勇者が敵みたいな言い方。ふと、レクスさんと話した時の足元がぐらぐらする感覚がよみがえる。疲れてるのか?
少女「与えられた役割が、勇者で良かったね」
勇者「…そう、だな。でも、どうだろうな」
俺は自分が勇者であることに不満なんかない。でも、それは俺の話だ。今まで会った勇者。見てきたもの。みんながこの役割を喜んでいたか?
勇者「色んな勇者がいる。勇者になって夢を諦めるしかなかった人。何度も死ぬことに耐えられなくなった人。同じように生きられなくて好きな人と別れた人」
勇者をしながらだって他のことは出来る。でも、勇者であることは辞められない。それに
回想。
レクス「絶対に死なないよう気を付けたって死ぬ時は死ぬ。だからこそ、死なない作戦を立てる。それでも数回死んでるんだけどね。百回以上死んでも平気そうにしてるシギさんが特別で、死ぬのは誰だって嫌だと思うよ。慣れる必要はないと僕は思う」
俺もいつか死ぬのか…。
少女「どうして別れるの?」
勇者「勇者は、魔王を倒すまで死ねない。病気とか、人間に殺されれば死ぬけど。どこかで時間が止まったように、極端に成長が遅くなるから」
少女「そっか…。あっ!」
勇者「また魔獣」
少女の視線の先には戦ったことのない魔獣がいた。でも、あれは知ってる。確か魔法じゃないと倒せないやつだ!俺は自分の使える唯一の魔法を使う。これで駄目なら逃げる!
少女「えっ?嘘!」
悲鳴に似た声に驚くけど、今は魔獣の方をちゃんと見ないと。水の初級魔法はちゃんと効いている。ただ、俺の魔法で俺自身も濡れてるけど。魔法は苦手だ。魔獣が消えたことを確認して少女の方を振り返る。
勇者「だいじょう…」
何となく気付いていた。でも、そんなわけないって。だって肌の色が
少女「近づかないで」
水に濡れた部分だけが黒い。魔族の黒だ。
少女パート。
クリーム落ちちゃった。あーあ。
少女「さよなら」
逃げるように街道とは逆へ走る。
これからどうしよう。今更気付いたけど、私は魔族だから魔獣には襲われないみたい。もしかしたらそうなんじゃないかなってわかってたけど。ひとりぼっちになりたくなかった。楽しかったのになぁ。もう真っ暗。星も月も見えない。今頃、どうしてる…かな。
…まさか、私を捜したりしてないよね?今頃ちゃんと町に着いて、ご飯を食べて…。私のことなんて忘れて…。
でも、もし。万が一。そんなことあり得ないけど。でも、わからない。逃げてしまったから。私は大丈夫だけど、もし魔獣に襲われて何かあったら。
少女「…どうしよう」
次会ったらどうなるかわからない。魔族として見られて、それだけでも心は砕けそう。でも
「俺がちゃんと守るから。俺から離れるなよ」
そう言ってくれた。悲しみに酔うのは後。会って後悔するのも後。今は進む。
水に濡れてはいけない病気。ずっとそういうことにしていた。でも、今日みたいにクリームが取れてしまった。また町を出ることになった。その前にどうしても伝えたいことがあって、私はある人に会いに行った。
少女「いない…よね。いないでよ」
私が一歩近づくと、彼はびくりと肩を動かした。ああ、そうか。この人、私が怖いんだ。もう彼にとって、私は女の子じゃないんだ。こんな思いをしなきゃならないなら、もう二度と恋なんてしない。好きな人なんていらない。そう思った。
少女「何で」
勇者「やっぱり戻ってきた」
少女「何でいるの?」
勇者「離れるなって言っただろ」
少女「一緒には生きられないって言ってたじゃない」
勇者「一緒にいられないとは言ってない」
少女「あ!それよりこんな所にいたら危ない!早く町に行かないと!」
暗くてよく見えないけど、少し怪我をしているように見える。
勇者「お前は大丈夫なのか?」
少女「うん」
まだ、私の心配してくれるんだ。
勇者「なら、先に町まで走れ。俺はあいつら片付けながら行くから」
遠くに何か見える。魔獣よね?
少女「っ」
ここにいても何も出来ないけど、置いて行くなんてもっと出来ない。
勇者「死んでもまた、ここまで戻ってくるから。絶対もう一度会って話そう」
少女「復活するからって、そんな風に言わないで」
勇者「早く行け」
少女「でも」
私が躊躇っていると、後ろから魔獣に向かって真っすぐに風が吹いた。
勇者「シギさん?」
少女「もう、大丈夫なの?」
勇者「あの人の技が当たったなら、もう大丈夫だと思う」
すごく複雑な顔。シギって人は勇者よね?
少女「あっ!」
私、クリーム塗りなおしてない!!シギって人は少しずつ近付いてきている。
勇者「お久しぶりです。魔王討伐してるはずのシギさん」
シギ「…邪魔したみてえだな。生きてんだから文句言われる筋合いはねえか」
勇者「は??…ばっ!違いますから!!!そういうんじゃない!」
ん?よくわからないけど、私のこと見えてないのかな?シギという人はそのまま何も言わずに行ってしまった。
勇者「俺、あの人に殺されそうになったことあるから苦手なんだよな」
少女「え!」
勇者「でも、何で斬られそうになったのかわかった気がする」
少女「何でなの?」
勇者「ムカついたんだろ。それより早く町までって、まず、それどうにかしないと」
少女「そうそう!クリーム!あ、暗くてよく見えない!あー!やって!」
勇者「えっ!」
少女「大体でいいから!町の近くで、自分で鏡見て直すから!」
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2021-11-02 21:59
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