翠雨

『翠雨』

見慣れたいつもの森が、違う景色に見えた。

少し先にある筈の木でさえ霞み、深く霧雨の色にとけ込んでいる。
すぐ傍にある大きな木にそっと触れると、手のひらにはしっとりとした苔の感触が伝わってきた。それはふわっとして弾み、少しだけひんやりしていた。

……あ

ふと目の前が明るくなって、サンは空を見上げた。

薄雲の消えそうなところから、陽がうっすらと顔をのぞかせている。
朧月の様に、その姿は雲の向こうに見え隠れした。

間もなく雲が切れて、さあっと陽が照らした。
その眩しさに一瞬だけ瞼を閉じ、開けてみる。

霧雨が陽から降り注いでいるのが見えた。
光の粒となって、絶え間なく森へとゆっくり落ちてくる。

何て美しいのだろう。

木々が枝葉でそれを受け止める様に、サンは両手を差し出した。
雨は肌を濡らし、程なくしてそれは小さな流れをつくり、滴り落ちていく。
濡れた肌は陽に照らされ、小さく輝いていた。

雨はいつもこんな風にして、森を潤しているんだね。

そんな事を思いながら、サンは空を見上げ続けた。

雨は降り続ける。

その翠雨は淡く、静かに森と少女を包み込んだ。

<おわり>

ぱるきさん( user/37426209 )が、とても素敵な物語を書いてくださいました。
こんなにも美しい物語が、私の描いたイラストから紡がれたこと、本当に嬉しくて胸がいっぱいになりました。物語とイラストと、双方併せて楽しんで頂ければ幸いです!

タイトルを「霧雨のなか」と「翠雨」で迷ったのですが、アンケートを実施し「翠雨」に決まりました。
翠雨(すいう)というのは、草木の青葉に降る雨の事です。
恵みの雨を全身に受けたサンの表情、私なりに込めた想いはあるのですが、どのように見えるか、気になる所でもあります。
雨はクーピーで表現してみました。

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2021-11-08 21:21

 琴咲 なお


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