【PFMOH】夜天の褥に眠る竜
赤い山の上、竜の乙女が住みつき大地を温めた。
竜は山で咲き誇る花を愛でながら、花以外には慈悲も無く人や花はがねを弄んだ。
白虹の毛並みに朝焼けの瞳、奔放残酷な竜は気ままな災いとして君臨していた。
凄惨な遊戯のお終いは、一つの恋。
竜は羊歯の精を愛した。愛は慈悲を彼女へ宿らせた。
やがて羊歯の精を夫とし子を生んだ。
竜が子を育てる間に、山には花はがねの玉の樹の群落と人の村が幾らか生まれていた。
竜の夫はどちらも虐げぬよう優しく説いた。竜は少しずつ、人の子と花はがねの子も慈しむようになった。
しかしある日、人の子が玉の樹の枝を折ってしまった。過ちは諍いへ繋がり、双方を止めようとした竜の夫が裂き殺された時には全て遅く。
僅かに残った亡骸は、竜を怒り狂わせるには十分だった。
彼女は災厄になり果てた。
花はがね達を瞬く間に玉の樹ごと爆ぜ殺し、人の子らも熱い大水で煮潰した。
地脈は出鱈目に掻きまわされ、山肌は火を噴き、遍く灼熱の灰礫が走り、断層を跳ね上げ大波は海の果てまで。
地に根付かぬ宿り木の子が左眼を潰して、彼女はようやと正気に戻った。
愛する我が子等も、獣達も何処かへと去り、花園も灰の下。
黎明の竜は失望と怨嗟を湛え、夜天のような輝石で身を包み眠りについた。
氏族の系譜も彼女以外は絶え果てる。
今となっては知るものは居ない、山の主の名前はカソーネ。
代が重なり、混ざりは竜ですらなくなる。
竜であったことも忘れかけた血は容易に人に交わりて人に。
父たる緑の肌も薄茶に枯れて、葉も芽生えぬまま。
母たる竜の巨躯も失われ、角も頭蓋に埋まり、虹光を湛えた髪は銀に褪せた。
唯一つ残った大地を律する双眸も───
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「うちの氏族にも記録があまり残ってない。ただ先生の話を聞くに、彼女らは我々と"方向"が真逆って感じるんだ」
───考古学者の問いに対する装甲騎竜の証言
カソーネ【Cussone】
性別:女
種族:地脈騎竜
氏族:グローム氏族
年齢:不明(自己封印期間を含めれば5000年超、肉体年齢は200年超と思われる)
全長:72m(※尾を含む)
槍の山の奥に眠る、赤の山脈の大地脈に君臨していた竜。
伝承に残る彼女及び彼女の属していた氏族の情報は極めて断片的なものであり
その所在と残滓の正体は刃の氏族内ですら秘匿されている。
【地脈騎竜(ラ・ガリータ)】
別名「火浣竜」とも。
装甲騎竜の近縁と見られる種。今は休眠状態のカソーネを除き姿を消した。
リュウタイは背面のみ装甲鱗があり、他の部位は鉱物質の体毛が生えている。
体長は大きくとも30m前後だが、尾が長く、全長は100mを超える者も少なくなかった。
動きは遅く、体表は熱には強くとも脆く、遺物として残存する装甲鞍も武装は無く操作水晶盤のみ搭載。「肉体的」戦闘能力においては小型雄装甲騎竜にすら劣ったとされる。
彼女達の真骨頂は雌竜に備わる地脈操作術にあった。視覚で土地を流れる地脈を解析し、支配。地殻そのものを自在に操る。
地中鉱物を集積生成した防壁、地質現象の操作、地脈を介した転移、即ち、地脈系の大地全てが彼女達の武器だった。
支配地脈のない個体は十人足らずの汎人族にすら容易く制圧され、一方大地脈に至れば、地脈操作で引き起こされる破壊は三叉角に比肩するとされ脅威度は支配した地脈の規模に依存した。
魔力解析に長け、地脈外の通信を視覚から傍受できる個体すら居たという。
ただし、その目に狂化の異能があったとする記録は何処にもない。
地脈依存種には抗う術なき脅威。支配地脈を避けた者もいれば、温和な個体に恭順し地脈操作の恩恵を得る者も居たという。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■「近縁種だし矛先がよそに行かないなら多少盛ってもいいと思った」と容疑者は供述しており。
■地脈騎竜がカソーネしか居ないのはあくまでMOH内です。
■???【illust/88156512】
■お借りしました
花頭【illust/87866158】
装甲騎竜【illust/49697309】
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村跡の外れ、隠れ棚へ続く洞穴の隠されたもう一つの道。
赤い花影を連れた紫の花影が、幾重の封印を開けては下へ。施された魔術は華頭外のものを含む複数系統の巧妙な物。既知でなければ暴くことは叶わないだろう。魔術に長け、幾度も隠れ棚に通った赤い花影──ミレニアですらこの道の存在に気付かなかったのだから。
何故か、歩みを勧めるごとに畏れのようなものをミレニアは感じていた。 己の何もかもが無意味になるような、無条件に頭を垂れなければならないような、恐ろしいものの気配が強くなっていく。
やがて開けた場所に出ると、床がざらついた砂岩から硝子のような滑らかなものへ変わる。足下は青く透けて星空めいた輝きを湛えていた。
夜天鉱───驚くことに床、壁全てがそれで構成されている。集めて貼り付けたというよりは、巨大な夜天鉱そのものを掘って空間を作った様に見受けられた。
美しい光景のはずなのに酷く怖気がして、しゃりしゃりと全身の葉が小さく鳴る。
足下には大きな影が輝石の中に臥していた。
「初代族長である末の王女ベルファが見つけてから、我々と槍の山の民のごく少数で代々“彼女”を秘匿してきた」
獣のような竜であった。角は貝のように巻かれ、片目は大きな傷で潰れている。尾に比して小さな体躯は策を弄せば倒せる大きさ。けれど一方ミレニアの中の何かが「これはどうにもできないものだ」「逃げろ」と叫んでいた。
「装甲騎竜……違う……これは………!」
「そう、私達の天敵だった者だ」
「で、でもだからってこれが今回の件と一体何の関係があるんですか」
里に戻ったのは歴史の講義を受けるためではない。友の復讐の代行を申し出に来たはずが、こんな良く分からない場所に連れてこられてしまった。だがその苛立ちも、驚愕に押し流されることになる。
「あるとも。女王が槍の山の民の祖であるなら、彼女は女王の祖。朝焼けの瞳全ての祖、この山脈の真の主……いずれ対話か討伐をすべき御方」
「な……対話……まだ生きてるんですかこれ!? そもそもヒヨシャ達は汎人族でしょう?」
「王女が狂いの瞳を使わぬよう右目を潰したことは蕾の頃に習ったな?」
───対話ならば欠けた朝焼けを、討つのであれば宿り木の剣を。尚叶わぬなら地の果てまで。
遠い昔、葉角隻眼の王女は白い「土竜」と刃腕の「蝙蝠」───二人の花はがねに選択を委ねた。
「その後の話をしよう。彼女の体に何が起きたか……女王が生まれるより前、“朝焼けの瞳”とは何を指したのか」
竜は山で咲き誇る花を愛でながら、花以外には慈悲も無く人や花はがねを弄んだ。
白虹の毛並みに朝焼けの瞳、奔放残酷な竜は気ままな災いとして君臨していた。
凄惨な遊戯のお終いは、一つの恋。
竜は羊歯の精を愛した。愛は慈悲を彼女へ宿らせた。
やがて羊歯の精を夫とし子を生んだ。
竜が子を育てる間に、山には花はがねの玉の樹の群落と人の村が幾らか生まれていた。
竜の夫はどちらも虐げぬよう優しく説いた。竜は少しずつ、人の子と花はがねの子も慈しむようになった。
しかしある日、人の子が玉の樹の枝を折ってしまった。過ちは諍いへ繋がり、双方を止めようとした竜の夫が裂き殺された時には全て遅く。
僅かに残った亡骸は、竜を怒り狂わせるには十分だった。
彼女は災厄になり果てた。
花はがね達を瞬く間に玉の樹ごと爆ぜ殺し、人の子らも熱い大水で煮潰した。
地脈は出鱈目に掻きまわされ、山肌は火を噴き、遍く灼熱の灰礫が走り、断層を跳ね上げ大波は海の果てまで。
地に根付かぬ宿り木の子が左眼を潰して、彼女はようやと正気に戻った。
愛する我が子等も、獣達も何処かへと去り、花園も灰の下。
黎明の竜は失望と怨嗟を湛え、夜天のような輝石で身を包み眠りについた。
氏族の系譜も彼女以外は絶え果てる。
今となっては知るものは居ない、山の主の名前はカソーネ。
代が重なり、混ざりは竜ですらなくなる。
竜であったことも忘れかけた血は容易に人に交わりて人に。
父たる緑の肌も薄茶に枯れて、葉も芽生えぬまま。
母たる竜の巨躯も失われ、角も頭蓋に埋まり、虹光を湛えた髪は銀に褪せた。
唯一つ残った大地を律する双眸も───
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「うちの氏族にも記録があまり残ってない。ただ先生の話を聞くに、彼女らは我々と"方向"が真逆って感じるんだ」
───考古学者の問いに対する装甲騎竜の証言
カソーネ【Cussone】
性別:女
種族:地脈騎竜
氏族:グローム氏族
年齢:不明(自己封印期間を含めれば5000年超、肉体年齢は200年超と思われる)
全長:72m(※尾を含む)
槍の山の奥に眠る、赤の山脈の大地脈に君臨していた竜。
伝承に残る彼女及び彼女の属していた氏族の情報は極めて断片的なものであり
その所在と残滓の正体は刃の氏族内ですら秘匿されている。
【地脈騎竜(ラ・ガリータ)】
別名「火浣竜」とも。
装甲騎竜の近縁と見られる種。今は休眠状態のカソーネを除き姿を消した。
リュウタイは背面のみ装甲鱗があり、他の部位は鉱物質の体毛が生えている。
体長は大きくとも30m前後だが、尾が長く、全長は100mを超える者も少なくなかった。
動きは遅く、体表は熱には強くとも脆く、遺物として残存する装甲鞍も武装は無く操作水晶盤のみ搭載。「肉体的」戦闘能力においては小型雄装甲騎竜にすら劣ったとされる。
彼女達の真骨頂は雌竜に備わる地脈操作術にあった。視覚で土地を流れる地脈を解析し、支配。地殻そのものを自在に操る。
地中鉱物を集積生成した防壁、地質現象の操作、地脈を介した転移、即ち、地脈系の大地全てが彼女達の武器だった。
支配地脈のない個体は十人足らずの汎人族にすら容易く制圧され、一方大地脈に至れば、地脈操作で引き起こされる破壊は三叉角に比肩するとされ脅威度は支配した地脈の規模に依存した。
魔力解析に長け、地脈外の通信を視覚から傍受できる個体すら居たという。
ただし、その目に狂化の異能があったとする記録は何処にもない。
地脈依存種には抗う術なき脅威。支配地脈を避けた者もいれば、温和な個体に恭順し地脈操作の恩恵を得る者も居たという。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■「近縁種だし矛先がよそに行かないなら多少盛ってもいいと思った」と容疑者は供述しており。
■地脈騎竜がカソーネしか居ないのはあくまでMOH内です。
■???【illust/88156512】
■お借りしました
花頭【illust/87866158】
装甲騎竜【illust/49697309】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
村跡の外れ、隠れ棚へ続く洞穴の隠されたもう一つの道。
赤い花影を連れた紫の花影が、幾重の封印を開けては下へ。施された魔術は華頭外のものを含む複数系統の巧妙な物。既知でなければ暴くことは叶わないだろう。魔術に長け、幾度も隠れ棚に通った赤い花影──ミレニアですらこの道の存在に気付かなかったのだから。
何故か、歩みを勧めるごとに畏れのようなものをミレニアは感じていた。 己の何もかもが無意味になるような、無条件に頭を垂れなければならないような、恐ろしいものの気配が強くなっていく。
やがて開けた場所に出ると、床がざらついた砂岩から硝子のような滑らかなものへ変わる。足下は青く透けて星空めいた輝きを湛えていた。
夜天鉱───驚くことに床、壁全てがそれで構成されている。集めて貼り付けたというよりは、巨大な夜天鉱そのものを掘って空間を作った様に見受けられた。
美しい光景のはずなのに酷く怖気がして、しゃりしゃりと全身の葉が小さく鳴る。
足下には大きな影が輝石の中に臥していた。
「初代族長である末の王女ベルファが見つけてから、我々と槍の山の民のごく少数で代々“彼女”を秘匿してきた」
獣のような竜であった。角は貝のように巻かれ、片目は大きな傷で潰れている。尾に比して小さな体躯は策を弄せば倒せる大きさ。けれど一方ミレニアの中の何かが「これはどうにもできないものだ」「逃げろ」と叫んでいた。
「装甲騎竜……違う……これは………!」
「そう、私達の天敵だった者だ」
「で、でもだからってこれが今回の件と一体何の関係があるんですか」
里に戻ったのは歴史の講義を受けるためではない。友の復讐の代行を申し出に来たはずが、こんな良く分からない場所に連れてこられてしまった。だがその苛立ちも、驚愕に押し流されることになる。
「あるとも。女王が槍の山の民の祖であるなら、彼女は女王の祖。朝焼けの瞳全ての祖、この山脈の真の主……いずれ対話か討伐をすべき御方」
「な……対話……まだ生きてるんですかこれ!? そもそもヒヨシャ達は汎人族でしょう?」
「王女が狂いの瞳を使わぬよう右目を潰したことは蕾の頃に習ったな?」
───対話ならば欠けた朝焼けを、討つのであれば宿り木の剣を。尚叶わぬなら地の果てまで。
遠い昔、葉角隻眼の王女は白い「土竜」と刃腕の「蝙蝠」───二人の花はがねに選択を委ねた。
「その後の話をしよう。彼女の体に何が起きたか……女王が生まれるより前、“朝焼けの瞳”とは何を指したのか」
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2021-11-15 03:34
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