腐敗の大樹

生命ある者は皆、いつかは死に、
そしてその遺体は他の生あるものによって分解され
土となり、また別の生命を育む仕組みをもつ
特別な世界があった。

その世界で、草の獣として生を受け、死んだ一つの命があった。
その命はその肉体が腐敗することしか許されなかった。

なぜ・・

草の獣は、それ自身の命を恐ろしく思った。
何故、次の命のための土となれないのか、悲しみ、後悔した。

「君はちっとも悪くない」
かつてハザマの王だった少年は、
その腐り落ちて土になれない草獣だったものに語りかけた。
「君はただ、草獣だったものだ。
今はただ腐り落ちただけ。
こうして、この庭の、この土の上にあればいいんだ」
草獣は安心して、その腐った根っこで土の上に立つことが出来た。

大切な王様がいなくなっても
草獣は、そのどろどろに腐り落ちた自らの顔を、ただ一人だけ自分に居場所をくれた王の顔に似せて、
何年もかけて形成した。

暗い森の世界でもっとも危険で、多くの命を飲み込む「腐敗の大樹」はもっとも心優しく
もっとも温厚であった。
ゆえにそれは安全であった。

その大切な「顔」がそこにある限り、腐敗の大樹は周りのものをその根っこに絡めとることなく、
ただそこに立ち尽くし、優しい思い出に浸っているだろう。

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2021-11-25 20:44

 舵守浄


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