腐敗の大樹
生命ある者は皆、いつかは死に、
そしてその遺体は他の生あるものによって分解され
土となり、また別の生命を育む仕組みをもつ
特別な世界があった。
その世界で、草の獣として生を受け、死んだ一つの命があった。
その命はその肉体が腐敗することしか許されなかった。
なぜ・・
草の獣は、それ自身の命を恐ろしく思った。
何故、次の命のための土となれないのか、悲しみ、後悔した。
「君はちっとも悪くない」
かつてハザマの王だった少年は、
その腐り落ちて土になれない草獣だったものに語りかけた。
「君はただ、草獣だったものだ。
今はただ腐り落ちただけ。
こうして、この庭の、この土の上にあればいいんだ」
草獣は安心して、その腐った根っこで土の上に立つことが出来た。
大切な王様がいなくなっても
草獣は、そのどろどろに腐り落ちた自らの顔を、ただ一人だけ自分に居場所をくれた王の顔に似せて、
何年もかけて形成した。
暗い森の世界でもっとも危険で、多くの命を飲み込む「腐敗の大樹」はもっとも心優しく
もっとも温厚であった。
ゆえにそれは安全であった。
その大切な「顔」がそこにある限り、腐敗の大樹は周りのものをその根っこに絡めとることなく、
ただそこに立ち尽くし、優しい思い出に浸っているだろう。
そしてその遺体は他の生あるものによって分解され
土となり、また別の生命を育む仕組みをもつ
特別な世界があった。
その世界で、草の獣として生を受け、死んだ一つの命があった。
その命はその肉体が腐敗することしか許されなかった。
なぜ・・
草の獣は、それ自身の命を恐ろしく思った。
何故、次の命のための土となれないのか、悲しみ、後悔した。
「君はちっとも悪くない」
かつてハザマの王だった少年は、
その腐り落ちて土になれない草獣だったものに語りかけた。
「君はただ、草獣だったものだ。
今はただ腐り落ちただけ。
こうして、この庭の、この土の上にあればいいんだ」
草獣は安心して、その腐った根っこで土の上に立つことが出来た。
大切な王様がいなくなっても
草獣は、そのどろどろに腐り落ちた自らの顔を、ただ一人だけ自分に居場所をくれた王の顔に似せて、
何年もかけて形成した。
暗い森の世界でもっとも危険で、多くの命を飲み込む「腐敗の大樹」はもっとも心優しく
もっとも温厚であった。
ゆえにそれは安全であった。
その大切な「顔」がそこにある限り、腐敗の大樹は周りのものをその根っこに絡めとることなく、
ただそこに立ち尽くし、優しい思い出に浸っているだろう。
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2021-11-25 20:44
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