一流太郎という生き方

愛知県ですか。また、なぜ。

太郎は、本社から子会社、冷蔵庫製造株式会社に
転勤したばかりだった。
　愛知に投資する計画がありましてね。
　自動運転とか、電気自動車とか、とういった部分なんでしょうが、
　詳しくはわかりません。

本社からの司令だったが、詳しくわからない。
しかし、そういったことはよくあったし、
調べておかないと、叱られるというパターンだった。
太郎はよく知っていた。

へえ。愛知県ですか。わたしも詳しくないですよ。

さっそく、太郎は寿司の西山へ行き、
西山大将に相談してみた。

　愛知っていえば、トヨタくらいしかないんじゃないすか。
　しかし、トヨタは全国区でしょう。いや
　世界でも知っている人は多いはずですよ。
　　そうですよね。だから、トヨタ以外を
　　調べた方がはやいかもしれんですね。
　　テレビ局には、CBCというのが
　　あるそうです。
　　　なんや。アメリカの放送局みたいやね。
　　　　ええ。ただ、情報が少ないですから。
　　　　冷蔵庫の営業は、応援が来るそうですから、
　　　　わたしは、それをすればいいのです。
　　　　　松平氏の父親は、そば屋だったと思うよ。
　　　　　田舎から出てきたんじゃない。
　　　　　　ええ。山形ですね。あの人たち、
　　　　　　山形なんですよ。愛知じゃないのです。

　　　　　　困ったな。ま。わしのお客さんで
　　　　　　詳しいのがいたら、そっちまわすよ。
　　　　　　　助かります。なんかデカみたいですが、
　　　　　　　しょうがないのです。妻も
　　　　　　　本社に戻るのを期待してますし、本社に
　　　　　　　貢献しておかんとね。
　　　　　　　　太郎は、あさりの味噌汁を残して、
　　　　　　　　足早に帰宅した。

愛知県ですか。
　太郎の妻は、学生時代、愛知県ですごした。
　４年間だけだったが、太郎よりも詳しいはずだ。
やっぱり、トヨタ系が強いんじゃない。
わたし、あそこで就職するつもりなかったから、
情報集めなかったのよ。
　でも、俺より詳しいだろう。
　協力してくれよ。成功したら、
　本社に戻してもらえるかもしれん。
　冷蔵庫の営業も悪くないが、もう一花咲かせて
　くれよ。
妻は、のり気でなかった。
たしかに、夫の仕事を手伝うなぞ聞いたことがない。
　太郎はとりあえず、ネットで調べはじめた。
　入ぐちとしては、トヨタ系、テレビ局はCBC。
　百貨店もあるし、電車は名鉄。名鉄は
　テーマパークも経営しているらしい。
球団に投資しているんじゃなくて。
そうった、優良企業なら、野球を応援しているはずじゃないかしら。
　ドラゴンズに知り合いがいれば、電話するところだが、
　知人がいなかった。
　　愛知や名古屋というのは、どれくらいの規模の経済だろうか。
　　単純に人口を比較すれば、経済規模が割り出されるだろうか。
　　　松平から、冷蔵庫の調子が悪いと
　　　電話があったが、太郎は後輩の連絡先を教え、
　　　冷蔵庫関連に関わるのをやめてしまった。
　　　本格的に、愛知県について調べ始めたのである。

妻をたよるわけにいかなかったから、太郎の調査ははじまった。
Ａというトヨタ系の企業。資本金が４５０億円。
本社は、刈谷市。
従業員は、４万人。
　これじゃ、まるで軍隊じゃないか。
　４万人。
愛知機械。資本金８５億円。
従業員数、約１５００人。
売上で８００億とあるが、不明。
工場は４つ。

とりあえず、太郎の手元に引き寄せられた資料はこれだけだった。
愛知機械さんが、工場４つ。会社概要を見ていけば、
会社の規模は、およそ検討がつく。
従業員の数を数えていけば、愛知県の人口と比較することで、
なにか見えてくるかもしれない。
もちろん、専業主婦は、従業員に数えられないだろうし、
学生もそうだ。
愛知機械の４工場、約１５００人の従業員というのは、
太郎にとって最初の指標になった。

太郎は、昼間は冷蔵庫の営業をしつつ、
時間があれば、愛知県について調べはじめた。
サガミ　売上２００億円　従業員７２００人

飲食店の売上が２００億だから、愛知機械の売上８００億というのも
ありえるのだろうか。愛知県全体の経済規模は、どうなっているのか。
　最初、見当がつかなかった太郎だが、
　身近な企業を調べると、愛知といった地場のイメージがえがけるのであった。

愛知県の人口　７５０万人
労働人口　　　４５０万人
３００万人は、学生か専業主婦、高齢者、赤子、ということになる。
赤子は当然、働かないだろう。
このうちの４万人がＡ精機に占められいている。
単純に計算すると、残りの４４６万人が、愛知県のどこかの会社、企業に
所属する計算になるだろう。また、名古屋の人口を考えれば、
名古屋に人口が集中しているのも、いうまでもないとなる。

太郎の妻は、ＡＩだった。だから、彼らには
子供がなかったのだ。
最近、太郎は、寿司の西山から遠ざかっていた。
仕事で忙しかったからである。

しばらく西山と会ってなかったが、
電話がかかってきた。
　その後どうですか。わしも
　気になって調べとりますが、手ひいた方がええ
　ですよ。トヨタ系の独断場に見えますからね。
　一流さんの身に、何かあったら奥さん心配するでしょう。

　ありがとうございます。わざわざ。

　たしかに太郎は、この任務の危険性を感じていた。
　西村は、愛子がＡＩであるのを知らなかった。
　太郎は、しばらくこの件を愛子に任せて、
　自身は、冷蔵庫の営業に専念しようと、考えを変えたのだった。

西山にいわれて、愛知県のことは
しばらく忘れることにした。
　松平さんて、山形出身なんでしょ。

　太郎は、メガ盛りといったラーメンを好まなかったが、
　たまたますいていたので、松平のカウンターにすわった。
　　ええ。父が山形なんす。だから、
　　そばをうつんですよ。わたしは最初、
　　反発してパン屋になりましたが、父が
　　パンをやるんだったら、ラーメンの方がいいと
　　言うもんですから。調度、若い子が
　　パンに興味を持っていたから、機材はあげたのです。
　　パン屋は、若いうちですね。
　　　町からベーカリーが消滅したと
　　　ファンはなげいたが、それは消費者の勝手だった。
　　　消費者は、自分の都合しか考えない。
　　　経営者は、経営できるものにしか手を出さない。
　　　経営に失敗すれば、店がなくなるだけである。
　　　記憶の中に店は残るかもしれないが、現実世界からは
　　　消滅する。

　　　お父様は、山形なの。今。
　　　　ええ。まだ仕事してるんじゃないかな。
　　　たまには、会ってあげればいいじゃないですか。
　　　　ええ。そのうち。店が忙しいので。
　　　　メガ盛りなんてすると、行列ができちゃうんです。

　　　太郎のところには、本社から
　　　例の件について催促がはいったが、
　　　太郎はすべて、愛子にまかせてしまっていた。
　　　気が向いたときに、すこしずつ調べればいいさ。
　　　太郎は、高をくくっていたのだ。
　　　松平も、愛子がAＩであることに気づいてなかった。
　　　客の中にも、AＩがいるはずだが、