夏の肖像(漫画106話)
木々の間をぬって坂を上る。それが車での速さであっても、ハンドルを切りアクセルを踏み込む度に空が近づく感覚は、空へと続くあの丘への階段を駆け登った幼い日々を蘇らせるものだった。◆◆
子供の頃に、ソフィと2人でよく訪れた丘の上の公園。丘の上に立つと、そこへ駆け上がって来る風がソフィと巧の心を裸にしてくれた。その丘「みどりヶ丘公園」には、もう、ずいぶん長い間訪れていない。巧が最後に丘へ上ったのは、「Bitter Mocha」への加入が決まった時に、Jazzバンドがやれることが嬉しくて、師・ミハエルに報告する代わりに訪れた時。それだって、巧ひとりで行ったのだから、ソフィと昔のようにそろって丘へ登ったのは、いつが最後か。2人が高校を卒業し、ソフィが音大進学の為に上京する、別れの日だったか。「Bitter Mocha」の活動で、ほぼ毎週、顔を合わせている巧とソフィだけれども、その活動以外では、忙しさにかまけて2人で何か、ということはまず、ない。「丘」の話も何故かいつの間にかしなくなった。2人にとって大切な場所であり、想い出のはずなのに。仕方がないのかもしれない。お互い仕事を持っているし、何よりも東京と名古屋の距離だ。遠距離恋愛…恋愛?…いや…もっと、ふたりの関係を言いあらわすのにふさわしい言葉はないだろうか。もう、お互いに、想い人は互いだということは、とっくにわかっている。幼馴染の延長線上なのかもしれないが、お互いにとって、巧にとってはそれ以上の存在だ。ソフィの存在は。ただ…―――。◆◆
―――…ただ、いつまでもこのままではいられるわけがないよな。時間は、流れているんだし。確かめないといけないのかもしれない。「丘」ずいぶん行っていない。…うん。こんど晴れた日に、ふたりで「丘」へ登ろう。
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◆次回の第107話は、2/13(日)に更新の予定です(ほぼ14日に変わる頃ですが…)。よろしくお願いします。
★BGM★
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子供の頃に、ソフィと2人でよく訪れた丘の上の公園。丘の上に立つと、そこへ駆け上がって来る風がソフィと巧の心を裸にしてくれた。その丘「みどりヶ丘公園」には、もう、ずいぶん長い間訪れていない。巧が最後に丘へ上ったのは、「Bitter Mocha」への加入が決まった時に、Jazzバンドがやれることが嬉しくて、師・ミハエルに報告する代わりに訪れた時。それだって、巧ひとりで行ったのだから、ソフィと昔のようにそろって丘へ登ったのは、いつが最後か。2人が高校を卒業し、ソフィが音大進学の為に上京する、別れの日だったか。「Bitter Mocha」の活動で、ほぼ毎週、顔を合わせている巧とソフィだけれども、その活動以外では、忙しさにかまけて2人で何か、ということはまず、ない。「丘」の話も何故かいつの間にかしなくなった。2人にとって大切な場所であり、想い出のはずなのに。仕方がないのかもしれない。お互い仕事を持っているし、何よりも東京と名古屋の距離だ。遠距離恋愛…恋愛?…いや…もっと、ふたりの関係を言いあらわすのにふさわしい言葉はないだろうか。もう、お互いに、想い人は互いだということは、とっくにわかっている。幼馴染の延長線上なのかもしれないが、お互いにとって、巧にとってはそれ以上の存在だ。ソフィの存在は。ただ…―――。◆◆
―――…ただ、いつまでもこのままではいられるわけがないよな。時間は、流れているんだし。確かめないといけないのかもしれない。「丘」ずいぶん行っていない。…うん。こんど晴れた日に、ふたりで「丘」へ登ろう。
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◆次回の第107話は、2/13(日)に更新の予定です(ほぼ14日に変わる頃ですが…)。よろしくお願いします。
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2022-01-24 02:06
Comments (12)
斎藤さんはこっちの姿のほうが胡散臭げ
View Replies麦わら帽子を被ったソフィさんの姿が夏の光と併せてとても眩しいです!爽やかな風が吹く夏の高原で、巧くん(怪我が完治したようで何よりです)の心の中には沢山の「疑問符」が溢れているようですね...。変わり行く「感情」と「環境」、その中でどのような答えを見つけて行くのでしょうか...。
View Replies(続き)いったい自分にとって何なのか……むろん私は更なる「進展」を期待してしまいます。………というか斎藤さんサラッと何言ってんだよ!!(笑)。
View Repliesひとまず音楽人生に関わるケガでなくて何より(汗)。緑に抱かれた、どことなく「つま恋」を思わせるステージの上でふと想いを巡らす巧くん。制服姿で歩いた駅、セッションの最中、思い出の丘、どんな時も自分の目の前で当たり前のように輝いていた彼女は、
View Replies巧くんが無事で安心しました。
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