【ウマ娘】病膏肓に入る/サクラバクシンオー
コンコン、と規則正しい音色が響く。
突然私の耳に入ってきたそれは、小さな世界とその外側が繋がっていることを思い起こさせてくれた。
私は呆然と眺めていた天井の鉄格子から視線を外し、長い溜息を止める。
ベッドから立ち上がると、私の頭はズキリと痛んだ。内側の痛みを外から抑えながらヨロヨロとドアまで歩いていき、暖房は付いていてもなおも冷たいままのドアノブを捻る。
「こんにちは、ブルボンさん」
「…こんにちは、バクシンオーさん」
そこには陽春が────バクシンオーさんが立っていた。
私は春光に当てられるように目を細める。彼女の突然の訪問を嬉しく思いながら、相好を崩して挨拶を返した。
私の顔を見るや、彼女は次いで「お邪魔してもいいですか」と訊いてきたので招き入れる。あたたかさが無機質な部屋に入ってきた。
「お昼休み中でしょう。わざわざお見舞いに来てくれてありがとうございます」
調子は悪くてもそれに勝る気持ちは、私の身体に負荷をかける。忘れていた頭の痛みは、足音を私の鼓動に合わせるようにして増してきたのでベッドに腰を掛けた。
「いえ、ブルボンさんのことが気になってしまって…」
えへへとバクシンオーさんは朗笑する。
彼女はよく、クラスで欠席をしてしまった人のもとに毎回手空きの時間を作っては足を運んでいた。
床に臥す者の様子を確認したり、薬や食事を届けたりと短い間のやり取りではあれど、特に昼中の時間となれば自分の分の食事や午後のトレーニングに向けての準備があったりするので忙しくなる。そんな中にあってもクラスメイトを心に留めては気遣う姿勢は、私が愛する桜の大木の美しさだった。
「ブルボンさんはご飯は食べましたか?」
バクシンオーさんが手に持っていた何かはコトっと音を立てて机の上に置かれた。
私はそれを尻目にバクシンオーさんに応える。
「…朝食は寮長が備えてくださいました。昼食はまだです」
起床した時点で久しぶりに感じた頭の重さを寮長に伝えると、彼女は朝の食事を用意してくれた。けれど彼女もまた忙しなくしているため昼食は自分で用意をせざるを得なかった。
私の返事にバクシンオーさんは「そうですか」と言って嬉々として机に腰を下ろしていた包みを私に差し出す。私はそれを受け取って解いた。
するとそれは弁当箱であり、その中身にはサンドウィッチが入っていた。
「昼食……これはバクシンオーさんの手作りですか」
彼女はサンドウィッチを得意としていた。どこか不格好なのは、時間のない中、彼女が一生懸命に作ってくれたことの表れだった。私はそのサンドウィッチに愛情を感じる。
しかし、そのサンドウィッチは一人が食べるには多い量がぎっしりと詰まっており、何故かと思って私は彼女を見上げた。
「もしよろしければ一緒に食べませんか?」
.
私とバクシンオーさんでサンドウィッチを食べ終えると、彼女は広げられたそれらの片づけをしてくれた。
バクシンオーさんが持ってきた薬を服用し、すっかり眠くなってきた私は彼女の後姿を見ながらベッドに横になる。あくびを噛み殺していると、ふと壁に掛けてある備え付けの時計が目に入る。
無機質なそれは、淡々と足音を刻みながら彼女がトレーニングに向かうための時間に近づいていた。
「バクシンオーさん、そろそろ時間になります。トレーニングに向かわれないと…」
私の声に反応して一緒になって時計を確認するバクシンオーさんは、時間に追われる素振りも見せずにこちらに近寄ってくる。静かな足音は心地よい音色だった。私のベッドの縁に腰を下ろす。
すると陽和な春日のような温かい手が私の髪に触れた。彼女はゆっくりとした優しい手つきで頭を撫でる。
頭の痛みが和らいでいくのは薬のゆえかその温もりのゆえか、微睡んでゆく私には分からなかった。
「…ここまでは学級委員長としての役目です」
「ここからはあなたの恋人として…お側にいますね」
バクシンオーさんの手からすり抜けて沈んでゆく私の意識に残ったのは、彼女の唇の触れる音だった。
突然私の耳に入ってきたそれは、小さな世界とその外側が繋がっていることを思い起こさせてくれた。
私は呆然と眺めていた天井の鉄格子から視線を外し、長い溜息を止める。
ベッドから立ち上がると、私の頭はズキリと痛んだ。内側の痛みを外から抑えながらヨロヨロとドアまで歩いていき、暖房は付いていてもなおも冷たいままのドアノブを捻る。
「こんにちは、ブルボンさん」
「…こんにちは、バクシンオーさん」
そこには陽春が────バクシンオーさんが立っていた。
私は春光に当てられるように目を細める。彼女の突然の訪問を嬉しく思いながら、相好を崩して挨拶を返した。
私の顔を見るや、彼女は次いで「お邪魔してもいいですか」と訊いてきたので招き入れる。あたたかさが無機質な部屋に入ってきた。
「お昼休み中でしょう。わざわざお見舞いに来てくれてありがとうございます」
調子は悪くてもそれに勝る気持ちは、私の身体に負荷をかける。忘れていた頭の痛みは、足音を私の鼓動に合わせるようにして増してきたのでベッドに腰を掛けた。
「いえ、ブルボンさんのことが気になってしまって…」
えへへとバクシンオーさんは朗笑する。
彼女はよく、クラスで欠席をしてしまった人のもとに毎回手空きの時間を作っては足を運んでいた。
床に臥す者の様子を確認したり、薬や食事を届けたりと短い間のやり取りではあれど、特に昼中の時間となれば自分の分の食事や午後のトレーニングに向けての準備があったりするので忙しくなる。そんな中にあってもクラスメイトを心に留めては気遣う姿勢は、私が愛する桜の大木の美しさだった。
「ブルボンさんはご飯は食べましたか?」
バクシンオーさんが手に持っていた何かはコトっと音を立てて机の上に置かれた。
私はそれを尻目にバクシンオーさんに応える。
「…朝食は寮長が備えてくださいました。昼食はまだです」
起床した時点で久しぶりに感じた頭の重さを寮長に伝えると、彼女は朝の食事を用意してくれた。けれど彼女もまた忙しなくしているため昼食は自分で用意をせざるを得なかった。
私の返事にバクシンオーさんは「そうですか」と言って嬉々として机に腰を下ろしていた包みを私に差し出す。私はそれを受け取って解いた。
するとそれは弁当箱であり、その中身にはサンドウィッチが入っていた。
「昼食……これはバクシンオーさんの手作りですか」
彼女はサンドウィッチを得意としていた。どこか不格好なのは、時間のない中、彼女が一生懸命に作ってくれたことの表れだった。私はそのサンドウィッチに愛情を感じる。
しかし、そのサンドウィッチは一人が食べるには多い量がぎっしりと詰まっており、何故かと思って私は彼女を見上げた。
「もしよろしければ一緒に食べませんか?」
.
私とバクシンオーさんでサンドウィッチを食べ終えると、彼女は広げられたそれらの片づけをしてくれた。
バクシンオーさんが持ってきた薬を服用し、すっかり眠くなってきた私は彼女の後姿を見ながらベッドに横になる。あくびを噛み殺していると、ふと壁に掛けてある備え付けの時計が目に入る。
無機質なそれは、淡々と足音を刻みながら彼女がトレーニングに向かうための時間に近づいていた。
「バクシンオーさん、そろそろ時間になります。トレーニングに向かわれないと…」
私の声に反応して一緒になって時計を確認するバクシンオーさんは、時間に追われる素振りも見せずにこちらに近寄ってくる。静かな足音は心地よい音色だった。私のベッドの縁に腰を下ろす。
すると陽和な春日のような温かい手が私の髪に触れた。彼女はゆっくりとした優しい手つきで頭を撫でる。
頭の痛みが和らいでいくのは薬のゆえかその温もりのゆえか、微睡んでゆく私には分からなかった。
「…ここまでは学級委員長としての役目です」
「ここからはあなたの恋人として…お側にいますね」
バクシンオーさんの手からすり抜けて沈んでゆく私の意識に残ったのは、彼女の唇の触れる音だった。
ウマ娘プリティーダービー
Uma Musume Pretty Derby
ウマ娘
horse girl
サクラバクシンオー(ウマ娘)
Sakura Bakushin O (Uma Musume)
バクブル
bakuburu
キャプションも本編
kyapushonnmohonnpenn
ウマ娘プリティーダービー1000users入り
Uma Musume Pretty Derby 1000+ Bookmarks
901
1109
14425
2022-03-24 00:00
Comments (12)
尊…
もう小説書いた方がいいんじゃない?ってレベルでキャプションが凄え
絵もキャプションも最高ですっ!! あったけぇ……
View Replies凄く尊いですね!
View Replies尊すぎて涙が出てきた···。この2人をずっと見守り続けていたい···。
View RepliesShow More