ニンジンさんの贈り物講座　４

　１ヶ月後。
　怪異対策課オペレーター室に届けられた「贈り物」を並べ、蓮実主任は無言になった。

　第１週には、「胡桃（クルミ）と棗（ナツメ）の実」
　第２週には「桑の実（乾燥、小分け済み）」
　第３週には「桑の葉茶（ティーパック入り）」
　そして今週は生のライチ。「本日中にお召し上がり下さい」の食べ方メッセージ付き。
　小分けにされて食べやすく、分量的にも頻度も申し分ない。
　お裾分けされたオペレーター達も、このごろお肌やお通じの調子が良くなったと好評である。

「最近のこの品揃え…あの賢者殿、まさか中華物産展を丸ごと買い占めでもしたのでしょうか？」
　可愛らしいパックに詰めたドライマルベリーを眺めつつ、掲示板監視班長の樒（シキミ）が言う。
　いくら忠告しても押せ押せ物量作戦を止めなかったあのデリカシー皆無の脳筋ゴリラに、何があったのだろう、と彼女は訝しむ。
　あまりにもやらかしが酷すぎて、主任への恋路を応援することは無理だと樒は早々に匙を投げたのに。いったい誰があの戦馬鹿の「森の賢者」を調教したのだろうか。　
「さあ…」
　蓮実は言葉少なに、目を伏せて軽い吐息を漏らす。

　──いっそ、本当にそうだったらよかったのに。あの優しい人が傷つかずにすみますから。

　脳裏に浮かぶのは、「今度は何を教えますかな」と思案する白衣の医者の姿。

　どこまでも純粋で、献身的で、優しい人。
　彼と自分、両方に幸せになってほしいと願う気持ちに嘘はなくて。
　だからこそ痛々しい。
　彼の気持ちには応えられないとはっきり断ることは容易いけれど、それだけではあのひとは幸せになれないだろう。

「ままならないものですね……」
　窓の外を二羽の鳥が羽ばたいていく。
　蓮実は左手の薬指に嵌めた指輪で、そっと唇に触れる。亡き夫に贈られた初めての贈り物。
　ライチを愛した楊貴妃を詠った有名な漢詩がある。唐の玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋の詩。「比翼連理」の故事のもとになったその一節。

　在天願作比翼鳥　在地願為連理枝
　天長地久有時尽　此恨綿綿無絶期
（天にあっては、願わくは比翼の鳥となり　地にあっては、願わくは連理の枝となりたい。
　天地はいつまでも変わらないが、いつかは尽きる時がある　しかしこの悲しみは綿々と、いつまでも絶えることがないだろう。）
　　　
──賢者さん。私の「皇帝」はあなたではないし、あなたの「貴妃」は、私ではないでしょう。いつそれに気付くのですか。

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小ネタ漫画、ラストは主任さん視点です。
この時点でもう森の賢者さんの恋が叶う可能性はほぼゼロですね。
頑張って恋の応援しているニンジンさんには悪いですが、主任さんの唯一はとっくに決まっていて、覆すのは天地をひっくり返すくらいの難事です。
諦めの悪いゴ●ラはしぶとくアタックしてきますが、ニンジンさんの手を借りれば借りるほど残念度が上がって好感度がダダ下がりするんですよね……。自分で自分の墓穴掘ってるのと同じだって、気づくのはいつのことやら。┐(´д｀)┌ ヤレヤレ