「悠久の時を共に」

その村では生贄の儀式が行われていた。
選ばれたのは少年だった、白髪紅眼の容姿は村の人々からは疎まれ唯一の身内である父を亡くしただ独り数年間のあいだ呆然と毎日を過ごす日々だった。
その日を境に何も感じる事が出来なくなり贄と選ばれるも恐怖さえ覚えることもなかった。
「ようやく終われる」そう考えが頭をよぎる、月が満ち夜風が肌を撫でると背後に気配を感じた神が迎えにきたのだ、自分は神の伴侶となるのだ。
少年の名を呼ぶ声がした、振り返るとそこには自分の知ってる父がいた、その姿はまさしく父親に間違いなかった白い髪に紅い瞳。
言葉よりも先に父の肩を掴み、その瞳を一心に見つめる、嬉しさと寂しさと今まで孤独の中で耐えた感情が溢れ涙が止まらない。
父は泣くな泣くなと低く優しい声で宥めると抱擁をした、その腕で、この身体に確かに感じる体温は温かく気持ちも安らいでいく。
「ごめんな…独りにさせちまって、もう大丈夫だこれからはずっと一緒だからな」
少年は知っていた、それが本当の父親でないことをだがもうそんな事はどうでも良かった。
それが形だけでも愛する父親である事にかわりないのだから、こうして再会しこれから二人悠久の時を過ごせるのだから。