【恋異世】ベンジャミン【4期】
■企画:恋をするなら異世界で!【illust/78513489】――4期【illust/83932632】
■ベンジャミン 享年21歳(+幽霊歴125年)/男性/180cm/幽霊/モーヴレイニータウン所属
一人称:僕 二人称:君、呼び捨て 特技:冷感、透過、騒霊
1期【illust/79993910】、2期【illust/81352103】、3期【illust/82959996】
+『グラズ』についてはこちら【illust/81797396】
□性格 ぼんやり幽霊
◇◆素敵なご縁を頂きました◆◇
カデットブルーラグーンのミサさん【illust/84249317】
掃除の報酬にお茶を貰い、いつもの東屋に座る。
ホワイトタウンの図書館で借りた本を開き、人通りを眺め、雨音を聞く。
毎日がその繰り返し。霧が掛かったようなぼんやりとした意識で過ごす、変化のない日々。
これで良い。
以前の幽霊生活は確かに楽しかったが、全ては過ぎたことだった。
時折、同席する人々と他愛のない会話を交わすこともある。
人と話すのは好きだった。
訪問者には楽しいひと時を。
この町への愛着と、紫雨の旗手と"もふもふ"の友への親愛の情と、少しの寂しさがそうさせた。
ほど良い距離での一時の関係が、「終わり」を待つだけの幽霊には相応しい。
だから"彼女"もその多くの内の一人に過ぎず、いずれは人波の中へと還り、見えなくなる。
それで良いと思っていた。
「雪崩で死んだ人間だよ」
昔の話を聞きたいという彼女に軽く自己紹介をする。
「僕の話が君の糧になるのなら」
100年独り言を喋り続けただけあって、言葉はすらすらと出てくる。
老人の話は長い。そして現在より過去のことをよく覚えている。
彼女は熱心で、実に楽しそうな笑顔を見せながら老人の長い昔話に相槌を打っていた。
「またいつでもおいでよ」
軽い気持ちで言った言葉を後に悔やむことになる。
東屋から遠ざかる彼女の後姿にいつまでもちかちかと残る光を錯覚した。
(……眩しいな)
+++
――ジャンブルランドの変遷の話。
見慣れぬ人々。広がる価値観。移り変わる町。
記憶を持たない当時の若い幽霊には楽しいものでも、今を生きる若者にとって歴史の勉強にはなれど楽しさとは結びつかぬものではないだろうか。
しかしこの少女は今日も変わらず、それは楽しそうに耳を傾けている。
「君は聞き上手だね」
――セメタリーマーケットの新商品の話。
元はこの少女が東屋に来るまでの間に見つけたものを報告してくれたのがきっかけだった。
他の町ならばともかく、この紫雨の町まで僕よりもこの少女の方が楽しみ方を知っているではないか。
せめてマーケットのことぐらいは意識しておかなければ。
「今日のこのお茶、試作品なんだって。君の感想も聞けたらきっとお店の人も喜ぶよ」
+++
――ホワイトタウンへの"恋"の話。
「ここだけの話ね、生きてた時の僕はホワイトタウンに住んでたんだ。誰にも内緒だよ?」
特に隠していたわけではないけれど誰に話す機会もなく、ふと、もし秘密の話をしたら君はどんな反応をするだろうかと想像して……楽しくなってしまって。
だからこれは今から僕と君の間だけの秘密の話になったんだ。
――"相棒"と出会った話。
「あの頃は毎日一緒にあちこち出掛けたなあ……QSはお父さん似だね」
QSは君のブラッシングがすっかりお気に入りになって、今もこうして君の膝の上で気持ち良さそうで……少し妬けた。
誰に、何に対してだったのかは考えないようにした。
――ブルーベリータルトを作った話。
「なかなか上手にできたんだよ。今思えば生前にお菓子を作ったことなんてなかったのに」
君が持ち込んでくれるお菓子のおかげでこのティータイムも随分豪華になった。
今度は僕が作ったお菓子を君に振舞うのも――……
……いや、やめておこう。
過去だけでなく、現在と、未来の話をしている自分に気付いてしまった。
僕はこの時間を楽しむべきではないというのに。
+++
――生前の自分。両親の死。こうありたかった自分。相棒との別れ。
聞いていて愉快ではないだろうに、それでもミサは心から真剣に聞き入ってくれる。
自分自身の話が増えた。ミサが聞きたがったからではない、僕が聞いてほしかったのだ。
やめるべきだと、思う。
――死の瞬間の寒さ。孤独。
口に出す前に踏み止まった。
深入りし過ぎたんだ。
……もう、「終わり」にしよう。
「僕はもう行かなきゃいけない」
「QSを飼い主の元に返してくるよ」
「祠の扉の話はしたよね。もし扉の先で生まれ変われるのだとしたら……僕は、君みたいになりたいな」
ミサならばこの別れも糧にしてくれるだろう。
彼女に見送ってもらえるのならそれは幸せなことだ。
だから、お互いにとって良いこと。
未来ある少女は、「終わり」を待つだけの幽霊に縛られるべきではない。
+++
触れられないはずの身体を掴まれた。
僕は不誠実だ。
自分の気持ちを伝えずに逃げる形を選んで、彼女の気持ちは置き去りで。
ミサはいつだって僕の話を真摯に聞いてくれていたというのに。
ミサの手で自分が今此処に居る事実をどうしようもなく突きつけられる。
彼女の言葉と思いに沸き立つ感情を抑え切れなくなる。
全身にまわる熱に己の身体の冷たさも忘れ、夢中で彼女を抱き締めていた。
僕も君ともっと一緒に居たい。これからもずっと。隣に。
言葉にするまで随分長い時間が掛かったが、最後まで彼女は僕の声を聞いてくれた。
ああそうだ、君は初めて会った時から、そうだったね。
霧の晴れた先に見えた輝きは何よりもあったかくて、少し泣いてしまった。
***
『グラズ』の尾と鬣で作られたブラシを白いリボンで飾り、銀の鈴をふたつ。
「今の僕に贈れるものはこれくらいしかないけれど」
これからたくさんの楽しい思い出を、未来の君と僕とふたりで。
「愛するミサへ。これからも僕とずっと一緒にいてください」
===
確認等何かありましたらお気軽にご連絡ください
キャプションは随時編集します
何か不備・問題等ございましたらお手数ですがお知らせください
■ベンジャミン 享年21歳(+幽霊歴125年)/男性/180cm/幽霊/モーヴレイニータウン所属
一人称:僕 二人称:君、呼び捨て 特技:冷感、透過、騒霊
1期【illust/79993910】、2期【illust/81352103】、3期【illust/82959996】
+『グラズ』についてはこちら【illust/81797396】
□性格 ぼんやり幽霊
◇◆素敵なご縁を頂きました◆◇
カデットブルーラグーンのミサさん【illust/84249317】
掃除の報酬にお茶を貰い、いつもの東屋に座る。
ホワイトタウンの図書館で借りた本を開き、人通りを眺め、雨音を聞く。
毎日がその繰り返し。霧が掛かったようなぼんやりとした意識で過ごす、変化のない日々。
これで良い。
以前の幽霊生活は確かに楽しかったが、全ては過ぎたことだった。
時折、同席する人々と他愛のない会話を交わすこともある。
人と話すのは好きだった。
訪問者には楽しいひと時を。
この町への愛着と、紫雨の旗手と"もふもふ"の友への親愛の情と、少しの寂しさがそうさせた。
ほど良い距離での一時の関係が、「終わり」を待つだけの幽霊には相応しい。
だから"彼女"もその多くの内の一人に過ぎず、いずれは人波の中へと還り、見えなくなる。
それで良いと思っていた。
「雪崩で死んだ人間だよ」
昔の話を聞きたいという彼女に軽く自己紹介をする。
「僕の話が君の糧になるのなら」
100年独り言を喋り続けただけあって、言葉はすらすらと出てくる。
老人の話は長い。そして現在より過去のことをよく覚えている。
彼女は熱心で、実に楽しそうな笑顔を見せながら老人の長い昔話に相槌を打っていた。
「またいつでもおいでよ」
軽い気持ちで言った言葉を後に悔やむことになる。
東屋から遠ざかる彼女の後姿にいつまでもちかちかと残る光を錯覚した。
(……眩しいな)
+++
――ジャンブルランドの変遷の話。
見慣れぬ人々。広がる価値観。移り変わる町。
記憶を持たない当時の若い幽霊には楽しいものでも、今を生きる若者にとって歴史の勉強にはなれど楽しさとは結びつかぬものではないだろうか。
しかしこの少女は今日も変わらず、それは楽しそうに耳を傾けている。
「君は聞き上手だね」
――セメタリーマーケットの新商品の話。
元はこの少女が東屋に来るまでの間に見つけたものを報告してくれたのがきっかけだった。
他の町ならばともかく、この紫雨の町まで僕よりもこの少女の方が楽しみ方を知っているではないか。
せめてマーケットのことぐらいは意識しておかなければ。
「今日のこのお茶、試作品なんだって。君の感想も聞けたらきっとお店の人も喜ぶよ」
+++
――ホワイトタウンへの"恋"の話。
「ここだけの話ね、生きてた時の僕はホワイトタウンに住んでたんだ。誰にも内緒だよ?」
特に隠していたわけではないけれど誰に話す機会もなく、ふと、もし秘密の話をしたら君はどんな反応をするだろうかと想像して……楽しくなってしまって。
だからこれは今から僕と君の間だけの秘密の話になったんだ。
――"相棒"と出会った話。
「あの頃は毎日一緒にあちこち出掛けたなあ……QSはお父さん似だね」
QSは君のブラッシングがすっかりお気に入りになって、今もこうして君の膝の上で気持ち良さそうで……少し妬けた。
誰に、何に対してだったのかは考えないようにした。
――ブルーベリータルトを作った話。
「なかなか上手にできたんだよ。今思えば生前にお菓子を作ったことなんてなかったのに」
君が持ち込んでくれるお菓子のおかげでこのティータイムも随分豪華になった。
今度は僕が作ったお菓子を君に振舞うのも――……
……いや、やめておこう。
過去だけでなく、現在と、未来の話をしている自分に気付いてしまった。
僕はこの時間を楽しむべきではないというのに。
+++
――生前の自分。両親の死。こうありたかった自分。相棒との別れ。
聞いていて愉快ではないだろうに、それでもミサは心から真剣に聞き入ってくれる。
自分自身の話が増えた。ミサが聞きたがったからではない、僕が聞いてほしかったのだ。
やめるべきだと、思う。
――死の瞬間の寒さ。孤独。
口に出す前に踏み止まった。
深入りし過ぎたんだ。
……もう、「終わり」にしよう。
「僕はもう行かなきゃいけない」
「QSを飼い主の元に返してくるよ」
「祠の扉の話はしたよね。もし扉の先で生まれ変われるのだとしたら……僕は、君みたいになりたいな」
ミサならばこの別れも糧にしてくれるだろう。
彼女に見送ってもらえるのならそれは幸せなことだ。
だから、お互いにとって良いこと。
未来ある少女は、「終わり」を待つだけの幽霊に縛られるべきではない。
+++
触れられないはずの身体を掴まれた。
僕は不誠実だ。
自分の気持ちを伝えずに逃げる形を選んで、彼女の気持ちは置き去りで。
ミサはいつだって僕の話を真摯に聞いてくれていたというのに。
ミサの手で自分が今此処に居る事実をどうしようもなく突きつけられる。
彼女の言葉と思いに沸き立つ感情を抑え切れなくなる。
全身にまわる熱に己の身体の冷たさも忘れ、夢中で彼女を抱き締めていた。
僕も君ともっと一緒に居たい。これからもずっと。隣に。
言葉にするまで随分長い時間が掛かったが、最後まで彼女は僕の声を聞いてくれた。
ああそうだ、君は初めて会った時から、そうだったね。
霧の晴れた先に見えた輝きは何よりもあったかくて、少し泣いてしまった。
***
『グラズ』の尾と鬣で作られたブラシを白いリボンで飾り、銀の鈴をふたつ。
「今の僕に贈れるものはこれくらいしかないけれど」
これからたくさんの楽しい思い出を、未来の君と僕とふたりで。
「愛するミサへ。これからも僕とずっと一緒にいてください」
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確認等何かありましたらお気軽にご連絡ください
キャプションは随時編集します
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2020-09-14 17:31
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