島村鰐

この物語に登場するワニは、たいそう年取ったワニであった。悲しいかな、とても体の調子がいい日でさえ、関節はぎしぎしとなり、しっぽのつけねはぎいぎいと音を立て、ずっと餌にしてきた動物たちに近寄ることなど、もう、とてもできなくなった。ナイル川にすむ生き物たちは、遠くの方から、ワニの気配を聞きつけて、口々に叫ぶのだった。「おーい、ワニのじいさんが来たぞ」みんな、別にあわてるようすもなく、逃げ散ってしまい、ワニを鼻で笑った。年をとったワニの献立は、貧しくなるいっぽうだった。もう、全然、なまの肉なんか口に入らない。岸に打ち上げられた死骸の肉で、満足するほかなかった。こんな粗末なメニューが、気に入るはずはない。

心の底から、いやけがさしたとき、ワニは、家族の誰かを食べようと決心した。

オリウマ娘 works (12)