サイバー被疑者高口悦子その７

身に覚えのない殺人事件の容疑のために捕まった少女が、一時的に自由の身になるために、意識と記憶を機械体に転送される『サイバー被疑者・被告人システム』でロボット化されるという設定の物語です。
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恋人と大喧嘩をして恋人のマンションを飛び出した高口悦子は、すぐに後悔して頭を下げて謝ろうと部屋に戻ってきたのですが、そこにあったのは背中に包丁を突き立てられた姿で息絶えた恋人の姿でした。気が動転してあと先考えず包丁を引き抜いた悦子は、まるでそれを待っていたかのように部屋に侵入してきた警官たちに現行犯逮捕されてしまい、そのまま警察に連れて行かれてしまったのでした。
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「その名前は聞いたことがあるな…ストーカー規制法…いや、銃砲刀剣類所持等取締法違反だったかな。確か好きになった男にしつこくつきまとって包丁を持って家のまわりをうろうろしているところを１度捕まっているはず」
裁判所に所用でやって来た高口悦子の弁護人と雑談をしていたその書記官は、弁護人の口から原田珠代という名前を聞くとそう反応しました。
「ありがとう。相変わらずそういう記憶力はいいわね」
「自慢じゃないけれどこの地域で３年以内に犯罪被疑者になった人間の名前は大体頭の中に入ってるよ」
「どうしてその記憶力が司法試験には役に立たなかったのかしら…」
「ほっとけよ。同じロースクール出にこういうこと言うのもなんだけれど公務員の方が気楽だよ」
「負け惜しみ言っちゃって」
「ふん。あんまりそういう情報は俺の口から聞いたっていうなよ。敵同士なんだから」
「裁判所と弁護士は敵じゃないわよ」
「利害が対立することだってあるだろ。どうしても情報ソースが誤魔化せない時は、たまたま書記官同士が雑談しているのを耳にしたことにしとけよ」
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「先生も青臭い理想ばっかり追ってないでもっと事務所の経営を考えてくださいよ。高邁な正義だけじゃ飯は食えないんだから」
「わかってるわよ。それより調べものの成果はあがってる？」
「元彼女のSNSへの投稿内容の中で重要そうなやつを時系列順にまとめてレポートにしておきました。そこのフォルダに入ってます」
「ありがとう」
「ところで元彼女と被害者の関係なんですけれど…アレでした」
「ああ、やっぱりアレなの」
「先生、知ってたんですか？」
「こういう事件にはありがちなことなのよ…ずっと隠しておくわけにもいかないし、被疑者にどのタイミングで打ち明けようかしらね…」