ルドルフシックを起こしたルドトレのとある1日

寮を飛び出て無我夢中で学園へ向かう。
大して離れていない距離なのに、何故かとても遠く感じる。
言葉にしてしまうのが怖いからか？
まだ、意味の無い矜恃が邪魔をするからか？
冷え込んできた10月の暮れの空気が徐々にその思考を落ち着かせてくれる。

ぐるぐると駆け巡る思考がゆっくりと止まっていくにつれて、1つの答えへと道が拓ける。
そう、何も飾る必要の無い単純な思いだった。
初めから何も変わらない。

俺は気付いていたんだ、あの子の妙な不調に。
だけど原因も分からず、本人も気にしていないように見えたから口には出さなかった。
だって、それはもしかしたら俺がその時に抱えていたものと同じなのではないかという、幼稚で傲慢な考えがあったから。
あの子が俺みたいな幼稚な考えや悩みを持つはずが無い。
それは、きっとあの子が1番俺に思って欲しくない事だろう。
気丈に振舞っても、あの子はまだ学生の身で、俺よりも歳下の女の子なんだからさ。

大人の沽券？矜恃？恥ずかしいだのなんだの…どうだっていいじゃないか…まったく。
笑われたって、ジョークにしてやるくらいの度量を見せるのが大人だろう。

言おう、聞こう、話そう。
君の胸の内にあるものをとか、俺の抱える思いとか、そんな格好のいいものじゃなく、とても単純で…飾り気のないものを…

そう考えているうちに生徒会室の扉の前にまで辿り着いていた。
まだチラホラと生徒達がいる中、生徒会室の中はやけに静まり返っているようだ。
中には少なくとも三人は居るのでは無いのか？
と、そこでドアノブを掴もうとした手が止まった。
そうだ、話すにしても…他にメンバーが…
そしてまた思考の中にモヤが掛かりそうになった時…

ドアが、開いた。

そこに居たのは、いつもの彼女だった。

何故此処に？帰ったはずでは？何故息を切らしているのか？
そんな当然の問答を何一つ気にしていない様子で彼女はドアの前に立って此方を見つめ、軽く微笑む。
まるで此方の事を全て見透かしているかのように。
そして彼女の顔を見た途端に…思考のモヤは綺麗に消えていった。

あぁ、やっぱりそうだ。
やっぱり、単純なものじゃないか。

「お疲れ様、ルドルフ。その、今度の休み…なんだけど…」

「あぁ、その事だね。丁度良かった。私も相談したい事があったんだ」

一緒に出掛けないか？何処か、二人で…