五月の幻影

  一週間ほど前から、左の耳に栓でもされたような違和感があった。
 頭がボーッとしている変な感覚が続き、彼女は不安になった。母に相談すると耳の病気だという。家系的によくなるのだと。「あんたもそんな歳になったのね、ちょっと浮遊感もあるでしょう?」などと、なんでもない事のようにいう。

 彼女は母にいわれた隣町の耳鼻科で診てもらった。そこのおじいちゃん先生は妙に親しげであった。調子が悪いのは左なのに、右耳から治療をしてくれた。「これで良くなったろう?」確かにそんな気がした。涼しいベットで横になって点滴をされながら、耳というのは左右で繋がってるのかな、と思った。

 病院を出ると、何か頭も身体も軽くなった気がした。ちょっと遠回りして帰ろう、彼女は思った。忘れていたが、今は五月。五月晴れだ。こんな日なら、ずっと遠くまで感じることができそうだった。未来も、そして過去の誰かも。

 この絵は五月に描きました。だからこんなタイトルなんです。

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2024-06-30 06:31

 アオキ


Comments (6)

J7 2024-07-01 00:38

素敵な画伯の絵と物語から、凄く懐かしい気がしました😊👍 女の子の回復を切に願います😄✨

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ケン 2024-06-30 16:46

女の子と踏切、切ない雰囲気が素敵ですね(^^) かわいいです!

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Gale 2024-06-30 08:32

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