アラカン婆のクリスマス
師走。現世ではクリスマスソングが流れ、恋人がサンタクロースだったり、ケーキにプレゼントにクリスマス商戦もたけなわな時期である…が。
クソッタレにも年中無休な歴史修正主義者のせいで、時間遡行軍と戦う審神者&刀剣男士もまたこの季節の風物詩といえば「連隊戦」だったりする。
何の因果か刀剣男士石切丸に成り代わったアラカン婆こと私と、同じく過去から攫われてきて霊力タンクからの審神者コースを歩まされた孫ふたり、更にその子らを追いかけて時間を越えてきた我が息子が一同に揃って本丸で迎える初めてのクリスマスなのに、殺伐にもほどがあるよ。
日の当たらぬ地下牢で、季節行事もへったくれもない暮らしを何年も強いられてきた孫達の為にも、今でなきゃできないイベントを、めいっぱい愉しませてやりたいじゃないか。
「で、クリスマスか。もちろん持てる者は与えなければ、ね」
「頼りにしてるよ」
なにせ、うちの本丸の連中ときたら大半が酷使系ブラック本丸産なせいで、現世のイベントには全然知識も関心もない戦馬鹿だらけ。特命調査イベントでやってきた政府刀剣以外は、ほとんど壊滅的といっていい。
元監査官の山姥切長義こと青藍が私の助手になるのは当然の成り行きだった。
せっかく人の姿を得たんだから、みんなももっと刃生を楽しんで欲しいものだね?
戦は仕事だからサボるわけにはいかない。しっかりこなしながら、並行してクリスマスらしい「イベント気分」をまずは演出。
幸いにも万屋街ではクリスマスをやる審神者達の為に、セールの真っ最中だ。
孫達を連れてお出かけすれば、赤と緑のクリスマスカラー、サンタやトナカイのキャラがいっぱいの飾り付けが目を引く。
「そっか…もうすぐクリスマスなんだね」
「サンタさん…」
おや? なんだかかなしそうだね。
「萌黄、本丸にはサンタさん、来ないんだよね」
「おばあちゃんといたときには来てくれたのに、あそこでは…ずっとずっと、来なかった」
「おれたちが悪い子だったからかな。あの女はいつも言ってた。さいしょのひろさんがおれたのは、おれたちのせいだって…」
「お兄ちゃんのせいじゃない、花秋葵が悪い子だから…」
ああそうか。地下牢に「サンタ」なんて来るわけがない。子ども達の世話をしていた山姥切国広だって、あのクソ女の監視下では最低限飢え死にしないだけの食事を用意するのがやっとだった。クリスマスケーキどころかおやつの甘味すらロクに与えられなかったんだ。
だから「本丸にはサンタは来ない」「自分たちは悪い子だからサンタさんは来てくれなかった」と思い込んだのか。あのクソ女、自分で初期刀の山姥切国広を折っておきながら子ども達になすりつけた上、罪悪感を植え付けるとは。
こみあげる怒りを抑え込んで、子ども達を両腕で抱きしめ、私は優しく言う。
「違うよ。あんな地下に隠されてたから、サンタさんもふたりを見つけられなかったんだよ。紅葉葵も花秋葵もいい子だ。今年はきっと、サンタクロースは来てくれるさ」
身長195センチのサンタさんがね。
出陣遠征の合間、手の空いている連中を動員し、本丸中をクリスマスカラーに飾り付けた。
「燭台切、歌仙、小豆。料理とケーキの試作に付き合ってもらうよ」
「オーケー、主の為に格好良く作りたいね」
「けーきならまかせてくれ」
「こ、こんな色の菓子を作れと…? 僕にできるかな…」
「大丈夫、私が教える。それに、子どもにウケる料理即ち主が喜ぶ料理だ。努力のしがいがあるだろう?」
うちの歌仙兼定は少々のうき…雅な料理より戦闘力に振り切ってるタイプなんだよねぇ…。本丸に男士は多くても、料理ができる男士が圧倒的に足りないのは問題だ。
「つりーの木を山からとってきたぞー」
「肉もこんだけありゃ足りるかぁ?」
山に向かった連中にはクリスマスツリーになる木や、料理用のお肉を頼んだ。
「デコレーション用のセットはそこの箱に買っておいたから、乱加州、頼むよ」
「はーいっ。可愛くデコっちゃうよっ」
「ボクにおまかせっ」
「花秋葵もやりたい…」
「おっ、いいねいいねっ」
楽しげにお洒落番長達と花秋葵がツリーをデコり始める。
「っと、誰か踏み台持って来てー」
「あ、てっぺんの星は主に付けさせてやっておくれ」
子どもの特権だよね。
「それじゃぁ、主。アタシが抱き上げるから、お星様を飾っとくれ」
ほんのり頬を染めながら、次郎太刀に抱き上げられて、金色の星をツリーの最上部に乗せる花秋葵のなんと可愛いこと。
「おれもやりたい」
「あー、じゃあ俺が抱っこすっか~」
もう一本のツリーを見上げて言う紅葉葵をひょいと抱き上げたのは緑の槍。
「俺、刺すことしかできないけど、背丈はあっからな」
「すごい!高い!」
キラキラと顔を輝かせながら、星を飾っているふたりを見ていたら、昔を思い出した。…そういや、クリスマスパーティで星を飾るのはアイツの役目だったっけ…。
本丸大広間をパーティー会場に、ツリーも料理もケーキも完璧。
主達の歌うクリスマスソングに、刀剣男士達も拍手喝采。余興に踊り出す緑の打刀達とか、ケーキのクリームで口の周りを白くしてしまった平安爺達が大笑いされたりとか、楽しいクリスマスパーティとなった。
そして、いよいよ聖なる夜最後のイベント。
「主、お風呂に入ったら早く寝るんだよ? いつまでも起きていたらサンタさんも来られないからね」
「サンタさん、来るの?」
「ほんとに来るの?」
「もちろんだよ。主達の居場所がわかるように、ちゃんと俺達がクリスマスツリーを飾ったんだし」
胸を張る青藍。
庭にデカデカとそびえ立ち、電飾でピカピカと光っているクリスマスツリー?は元々庭にあった桜の木を男士達が総出で飾ったものだ。あれ、刀剣男士の身体能力があってこそだね。
なんか短冊やら色紙でつくった飾りまでぶら下がっていて、七夕かな?という状態になっているのはご愛敬だけど。
「うん、みんなでがんばってくれたもんね」
「サンタさんも空から見えるよね」
「きっと見えるさ。さあ、良い子はもう寝る時間かな」
青藍に頭を撫でられて、子ども達は部屋の布団に入っていく。
二人枕を並で、こそこそお喋りしながらサンタを待っている…。
さあ、出番だよサンタ。
「……アンタなぁ……こんな格好までする意味あんのか?」
「グダグダ言うんじゃないよ。なんなら私がやってもいいんだよ?」
「俺の立場盗らないでくれよ、おふくろ!!」
赤い服に白いヒゲをつけ、プレゼントの入った大きな袋を肩にかけた息子がぼやく。コスプレが恥ずかしいとか言うんじゃないよ。あの子達が万一起きてて見るサンタが父親だってわかったら、夢を壊すじゃないか。
やるからには完璧に。
6年分のプレゼントを渡すんだ、羞恥心なんか捨てちまえ。
待って待って、待ち続けたあの子達の夢を、叶えておやりよ。
クリスマスツリー?の光に薄らと照らされるサンタの背を見送り、私はそっと囁く。
「ああ、よい夜だね。メリークリスマス」
・・・
・・
可愛いクリスマスの絵を頂いたので小話にしました。ささやかなクリスマスプレゼントですドーゾ( *'∀')っ畄
クソッタレにも年中無休な歴史修正主義者のせいで、時間遡行軍と戦う審神者&刀剣男士もまたこの季節の風物詩といえば「連隊戦」だったりする。
何の因果か刀剣男士石切丸に成り代わったアラカン婆こと私と、同じく過去から攫われてきて霊力タンクからの審神者コースを歩まされた孫ふたり、更にその子らを追いかけて時間を越えてきた我が息子が一同に揃って本丸で迎える初めてのクリスマスなのに、殺伐にもほどがあるよ。
日の当たらぬ地下牢で、季節行事もへったくれもない暮らしを何年も強いられてきた孫達の為にも、今でなきゃできないイベントを、めいっぱい愉しませてやりたいじゃないか。
「で、クリスマスか。もちろん持てる者は与えなければ、ね」
「頼りにしてるよ」
なにせ、うちの本丸の連中ときたら大半が酷使系ブラック本丸産なせいで、現世のイベントには全然知識も関心もない戦馬鹿だらけ。特命調査イベントでやってきた政府刀剣以外は、ほとんど壊滅的といっていい。
元監査官の山姥切長義こと青藍が私の助手になるのは当然の成り行きだった。
せっかく人の姿を得たんだから、みんなももっと刃生を楽しんで欲しいものだね?
戦は仕事だからサボるわけにはいかない。しっかりこなしながら、並行してクリスマスらしい「イベント気分」をまずは演出。
幸いにも万屋街ではクリスマスをやる審神者達の為に、セールの真っ最中だ。
孫達を連れてお出かけすれば、赤と緑のクリスマスカラー、サンタやトナカイのキャラがいっぱいの飾り付けが目を引く。
「そっか…もうすぐクリスマスなんだね」
「サンタさん…」
おや? なんだかかなしそうだね。
「萌黄、本丸にはサンタさん、来ないんだよね」
「おばあちゃんといたときには来てくれたのに、あそこでは…ずっとずっと、来なかった」
「おれたちが悪い子だったからかな。あの女はいつも言ってた。さいしょのひろさんがおれたのは、おれたちのせいだって…」
「お兄ちゃんのせいじゃない、花秋葵が悪い子だから…」
ああそうか。地下牢に「サンタ」なんて来るわけがない。子ども達の世話をしていた山姥切国広だって、あのクソ女の監視下では最低限飢え死にしないだけの食事を用意するのがやっとだった。クリスマスケーキどころかおやつの甘味すらロクに与えられなかったんだ。
だから「本丸にはサンタは来ない」「自分たちは悪い子だからサンタさんは来てくれなかった」と思い込んだのか。あのクソ女、自分で初期刀の山姥切国広を折っておきながら子ども達になすりつけた上、罪悪感を植え付けるとは。
こみあげる怒りを抑え込んで、子ども達を両腕で抱きしめ、私は優しく言う。
「違うよ。あんな地下に隠されてたから、サンタさんもふたりを見つけられなかったんだよ。紅葉葵も花秋葵もいい子だ。今年はきっと、サンタクロースは来てくれるさ」
身長195センチのサンタさんがね。
出陣遠征の合間、手の空いている連中を動員し、本丸中をクリスマスカラーに飾り付けた。
「燭台切、歌仙、小豆。料理とケーキの試作に付き合ってもらうよ」
「オーケー、主の為に格好良く作りたいね」
「けーきならまかせてくれ」
「こ、こんな色の菓子を作れと…? 僕にできるかな…」
「大丈夫、私が教える。それに、子どもにウケる料理即ち主が喜ぶ料理だ。努力のしがいがあるだろう?」
うちの歌仙兼定は少々のうき…雅な料理より戦闘力に振り切ってるタイプなんだよねぇ…。本丸に男士は多くても、料理ができる男士が圧倒的に足りないのは問題だ。
「つりーの木を山からとってきたぞー」
「肉もこんだけありゃ足りるかぁ?」
山に向かった連中にはクリスマスツリーになる木や、料理用のお肉を頼んだ。
「デコレーション用のセットはそこの箱に買っておいたから、乱加州、頼むよ」
「はーいっ。可愛くデコっちゃうよっ」
「ボクにおまかせっ」
「花秋葵もやりたい…」
「おっ、いいねいいねっ」
楽しげにお洒落番長達と花秋葵がツリーをデコり始める。
「っと、誰か踏み台持って来てー」
「あ、てっぺんの星は主に付けさせてやっておくれ」
子どもの特権だよね。
「それじゃぁ、主。アタシが抱き上げるから、お星様を飾っとくれ」
ほんのり頬を染めながら、次郎太刀に抱き上げられて、金色の星をツリーの最上部に乗せる花秋葵のなんと可愛いこと。
「おれもやりたい」
「あー、じゃあ俺が抱っこすっか~」
もう一本のツリーを見上げて言う紅葉葵をひょいと抱き上げたのは緑の槍。
「俺、刺すことしかできないけど、背丈はあっからな」
「すごい!高い!」
キラキラと顔を輝かせながら、星を飾っているふたりを見ていたら、昔を思い出した。…そういや、クリスマスパーティで星を飾るのはアイツの役目だったっけ…。
本丸大広間をパーティー会場に、ツリーも料理もケーキも完璧。
主達の歌うクリスマスソングに、刀剣男士達も拍手喝采。余興に踊り出す緑の打刀達とか、ケーキのクリームで口の周りを白くしてしまった平安爺達が大笑いされたりとか、楽しいクリスマスパーティとなった。
そして、いよいよ聖なる夜最後のイベント。
「主、お風呂に入ったら早く寝るんだよ? いつまでも起きていたらサンタさんも来られないからね」
「サンタさん、来るの?」
「ほんとに来るの?」
「もちろんだよ。主達の居場所がわかるように、ちゃんと俺達がクリスマスツリーを飾ったんだし」
胸を張る青藍。
庭にデカデカとそびえ立ち、電飾でピカピカと光っているクリスマスツリー?は元々庭にあった桜の木を男士達が総出で飾ったものだ。あれ、刀剣男士の身体能力があってこそだね。
なんか短冊やら色紙でつくった飾りまでぶら下がっていて、七夕かな?という状態になっているのはご愛敬だけど。
「うん、みんなでがんばってくれたもんね」
「サンタさんも空から見えるよね」
「きっと見えるさ。さあ、良い子はもう寝る時間かな」
青藍に頭を撫でられて、子ども達は部屋の布団に入っていく。
二人枕を並で、こそこそお喋りしながらサンタを待っている…。
さあ、出番だよサンタ。
「……アンタなぁ……こんな格好までする意味あんのか?」
「グダグダ言うんじゃないよ。なんなら私がやってもいいんだよ?」
「俺の立場盗らないでくれよ、おふくろ!!」
赤い服に白いヒゲをつけ、プレゼントの入った大きな袋を肩にかけた息子がぼやく。コスプレが恥ずかしいとか言うんじゃないよ。あの子達が万一起きてて見るサンタが父親だってわかったら、夢を壊すじゃないか。
やるからには完璧に。
6年分のプレゼントを渡すんだ、羞恥心なんか捨てちまえ。
待って待って、待ち続けたあの子達の夢を、叶えておやりよ。
クリスマスツリー?の光に薄らと照らされるサンタの背を見送り、私はそっと囁く。
「ああ、よい夜だね。メリークリスマス」
・・・
・・
可愛いクリスマスの絵を頂いたので小話にしました。ささやかなクリスマスプレゼントですドーゾ( *'∀')っ畄
20
14
785
2024-12-25 20:30
Comments (2)
メリークリスマス❣