ストームタイラント

━━━━━━━━━━━━━━━━━━
七竜暦77年光炎月6週6日
観察地：雷竜国 雷神の祭壇周辺
天候　：強い帯電雲 / 気温：14℃
━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆ 新規観察個体データ
個体識別名　：ストームタイラント（命名者：レイブン・モートン）
推定年齢　　：25-30歳
性別　　　　：オス
体長　　　　：約32m
危険度　　　：SS級
特徴的な外見：青黒い鱗に電光のような模様が走る。背中の棘は雷撃を受けたかのように焦げている。右目上部に古い傷跡。

◆ 発見経緯
闇の刻、雷竜国の実験施設管理者トーマス・スパークから緊急連絡を受け、鉱夫のラルフと共に現場へ急行。春の嵐が帯電した大気中で、雷神の祭壇周辺に出現した原龍が、実験機器との奇妙な相互作用を示しているとの報告があった。

◆ 生態観察記録

▪ 生息環境
雷神の祭壇周辺は春の嵐により強く帯電した特殊地帯。地表から数百メートルの高さまで青白い放電が絶えず走り、独特の生態系を形成している。通常なら生物が長時間滞在できない環境だが、ストームタイラントはこの過酷な条件下で優位に活動している。

▪ 特殊能力
体表の鱗が帯電した大気中のエネルギーを吸収する能力を持つ。観察中、複数回の青白い閃光が体表を走り、それを活力としているかのように活動が活発化した。特に注目すべきは、実験施設の雷集積装置に対して示す異常な興味である。

▪ 社会性
他の原龍を寄せ付けない強い独占欲と縄張り意識を示す。発見時、祭壇周辺に2頭の若い原龍が接近しようとしたが、ストームタイラントの威嚇一つで退散した。その絶対的な威圧感は、単なる力の差を超えた「支配」の意志を感じさせる。

▪ 食性
通常の捕食行動は確認できなかったが、帯電地帯に引き寄せられてくる生物を待ち伏せする狩猟戦術を持つと推測される。実験施設の記録によれば、先週3名の技術者が行方不明になっている。

◆ 考察
ストームタイラントの行動は、単なる本能的な反応を超えている。雷集積装置への接近パターンは、明確な目的性を感じさせる。これは資源（この場合は帯電エネルギー）の独占と、それを通じた領域支配の確立を目指していると考えられる。特に懸念すべきは、装置の制御システムへの干渉行動であり、これが続けば施設全体の機能不全を招く恐れがある。

◆ 保護・管理に関する提言
即時の対策が必要。しかし、力による排除は却って事態を悪化させる可能性が高い。代替エネルギー源の開発と並行して、ストームタイラントの行動パターンの詳細な記録と分析を進めるべき。また、施設職員の安全確保が最優先事項。

◆ 現地住民の証言
「あの獣は雷そのものだ。彼が現れた日から、我々の雷集積率は半減した。まるで…我々から力を奪っているようだ」
- 実験施設主任技術者 エリック・ボルテクス（42歳）

「私の兄は彼の姿を見た最後の人間かもしれない。『まるで王のようだった』と言っていた。それが兄の最後の言葉だ」
- 行方不明者の妹 リア・スパーク（28歳）

◆ 調査者所感
今回の観察で特に印象的だったのは、ストームタイラントが施設の制御室を見つめる眼差しだ。そこには単なる獣としての欲望ではなく、冷たく計算された「支配」の意志を感じた。人間が自然のエネルギーを管理し、利用しようとする試みに対する、自然界からの反逆のようにも見える。

同行したラルフは「これは戦争だ」と呟いていた。確かにそれは一面の真実かもしれない。人間の技術力と原龍の原初的な力の衝突。しかし、その対立の背後に見える悲しみにも気づかずにはいられない。進むべき道を失った技術者たち、家族を失った人々、そして本来の生息域を奪われた原龍。

春の訪れとともに始まったこの対立は、単なる資源争奪ではなく、生存をかけた悲しい闘いの始まりなのかもしれない。