ママは息子と打ち合いがしたくて
「少しは打ち合いなさいよ!」
母親の叫びに息子はジャブで答えた。
すぐに血が上る性分の母親は無防備に両腕を開いた。がら空きの細い腰に息子のボディブローが突き刺さる。
「かはあっ!!」
もう吐くものも無いのか透明な液体が母の口から飛び出た。
痩せて浮き出ただけの腹筋を擦りながら母は息子を睨みつける。
息子は黙ってステップを踏み続けた。
ゴングが鳴った。
「いいぞ坊主。その調子だ」
セコンド役の中年が息子の顔から鼻血を拭った。
「次でえ、最終ラウンドだよな?あとは脚でポイント稼ぐだけでいい。いくらババア・・・わりぃ。お袋さんだからって舐めるなよ。あれだけタッパがありゃ一発だけで試合はひっくり返る。馬鹿みたいに近づくな、な?」
「・・・うん」
息子は俯いたままだ。
今もコーナーからこちらを睨みつける母親とは対照的に覇気が無かった。
「まあな。誰だってお袋とボクシングなんて気が進まねえよな。ま、それも次で最後だ。おまえさんの”ボクシング”でお袋さんに勝ってこい」
セコンドは音を立てて息子の小さな肩を叩いた。
息子はまだ顔を上げない。
「・・・ボクシングしてえんだろ?約束したんだろ?”ママと試合して勝ったらジムに通うのを許す”って」
セコンドは今度は優しく息子の肩を撫でた。熱かった。
「・・・うん。だから、負けたくない」
セコンドアウトのブザーが鳴った。
母親はスツールから立ち上がると大股でリングの中央へと歩き出した。
息子はガードを上げたまま距離を測った。
「弱虫」
母親の小さな声は不思議と響いた。母子の異常なボクシング対決を見守る大人たちにその冬の鈴のような声が刺さった。
「レンはずーっと弱虫ね。カミナリが鳴ったら一人で眠れないし。ダンゴムシを見ただけでお家に帰って来るし。こないだも女の子に口喧嘩で負けて泣いて帰ってきたわよね」
母親は腕を下げたまま喋り続けた。
「母さん。そんな挑発は効かないよ。クリーンファイトをしようよ。約束したじゃないか」
母さんはもう打つ手が無いから自棄になってるんだ。レンはそう思った。
「こんなおばさん相手に逃げ回ってなにがクリーンファイトよ」
「レン!!聞くな!!!」
さすがに場馴れしてるセコンドは敏感だった。息子はすでに母の張った罠にかかりつつある。
「母さん、ガードを上げて」
「あたしに勝って、このジムに入るんでしょう?でもここのお兄さんたちどう思うかしらね。”ママから逃げ回って判定勝ち”なん」
母親の言葉は息子の右ストレートで中断された。
勢いよく吹き出た唾液がレンの頬にかかった。
「やればできるじゃない」
母親も右ストレートを息子の顔面に向けたが、レンのガードを叩いただけだった。
「やっとボクシングらしくなってきたわね」
母親は前かがみになり息子に笑いかけた。
「レン!!!近づくな!距離を取れ!!!」
セコンドの必死の叫びもすでにレンには聞こえていない。
「だいじょおぶ?こんなに近づいて?ママのこと怖くないの?」
母親の挑発にはすべてパンチで答えることにした。
母が安い煽りをするたびに息子の拳によって痣ができていく。
唇が切れても、鼻血が止まらなくても母は口撃を止めなかった。そして前進することも。
しだいに母子の距離は縮まっていく。
息子のセコンドは「離れろ!!」とロープを掴んで絶叫したが見守るジム生たちに注意された。
一発で充分よ。母は確信していた。
「どうせ、ママが居るからジムに通いたいんでしょ?いつまでもママのまねっこして」
レンは左フックでいまだ饒舌な母の口を頬ごと潰した。
レンと母親は額がこすり合うほどの距離になっていた。
母はぐんと腰を下ろし力を溜めた。レンは気付いたが間に合わなかった。
母の細い左腕がレンの小さな顎に向かって伸びていった。
その一連の動きだけで彼女にボクシングの才能が一切無いことがよくわかった。
それでもその不格好なアッパーがレンの意識を刈り取った。
◆
ボクシングしている母親が見たくてレンはジムに遊びに行くようになった。
太った人がダイエット目的で通うのは知っていた。友達のママにもいた。
はじめから痩せていた母はダイエットでは無く純粋に”強く”なりたくて通っていた。そういう母をレンはかっこいいと思った。
母はレンがジムに来るのが嫌だった。母の目からみればこのジムは不衛生・不潔そのものだった。
母がこのジムにしたのは家から近いからだけで、現にもう次のジムを探していた。それなのにレンはこのジムに”気に入られて”いた。
最初はサンドバッグを叩かせてもらうだけだったが、周りのトレーナーはすぐにレンの才能に気がついてしまった。
あそびはすぐに練習となった。
レンがスパーリングをした男子中学生はリング上で吐いた。中学生は通ってもう1年になっていた。
『レンくんも一緒に入会したらどうですか?』
そう勧める男たちの眼に何か嫌なものを母は感じていた。
母は絶対に反対だった。誰かがレンの顔を殴るなんて絶対に許せない。
それなのにレンはジムに通いたがった。
だから母は言った。「ママに試合で勝ったらいいわよ♪」
こう言えば絶対に諦めると思った。それなのに―
◆
レンは背中からリングに叩きつけられた。
青いトランクスにシミが広がっていく。失禁していた。
口からはみ出たマウスピースを見て、この子には似合わないと思った母は乱暴にそれを抜き取って捨てた。
レンは弱虫なんだから、ママが守ってあげないとね。それが彼女がボクシングを習う理由だった。
息子をお姫様抱っこした母はそのままリングから降りていった。
そして母子はこのジムに戻ることは無かった。
母親の叫びに息子はジャブで答えた。
すぐに血が上る性分の母親は無防備に両腕を開いた。がら空きの細い腰に息子のボディブローが突き刺さる。
「かはあっ!!」
もう吐くものも無いのか透明な液体が母の口から飛び出た。
痩せて浮き出ただけの腹筋を擦りながら母は息子を睨みつける。
息子は黙ってステップを踏み続けた。
ゴングが鳴った。
「いいぞ坊主。その調子だ」
セコンド役の中年が息子の顔から鼻血を拭った。
「次でえ、最終ラウンドだよな?あとは脚でポイント稼ぐだけでいい。いくらババア・・・わりぃ。お袋さんだからって舐めるなよ。あれだけタッパがありゃ一発だけで試合はひっくり返る。馬鹿みたいに近づくな、な?」
「・・・うん」
息子は俯いたままだ。
今もコーナーからこちらを睨みつける母親とは対照的に覇気が無かった。
「まあな。誰だってお袋とボクシングなんて気が進まねえよな。ま、それも次で最後だ。おまえさんの”ボクシング”でお袋さんに勝ってこい」
セコンドは音を立てて息子の小さな肩を叩いた。
息子はまだ顔を上げない。
「・・・ボクシングしてえんだろ?約束したんだろ?”ママと試合して勝ったらジムに通うのを許す”って」
セコンドは今度は優しく息子の肩を撫でた。熱かった。
「・・・うん。だから、負けたくない」
セコンドアウトのブザーが鳴った。
母親はスツールから立ち上がると大股でリングの中央へと歩き出した。
息子はガードを上げたまま距離を測った。
「弱虫」
母親の小さな声は不思議と響いた。母子の異常なボクシング対決を見守る大人たちにその冬の鈴のような声が刺さった。
「レンはずーっと弱虫ね。カミナリが鳴ったら一人で眠れないし。ダンゴムシを見ただけでお家に帰って来るし。こないだも女の子に口喧嘩で負けて泣いて帰ってきたわよね」
母親は腕を下げたまま喋り続けた。
「母さん。そんな挑発は効かないよ。クリーンファイトをしようよ。約束したじゃないか」
母さんはもう打つ手が無いから自棄になってるんだ。レンはそう思った。
「こんなおばさん相手に逃げ回ってなにがクリーンファイトよ」
「レン!!聞くな!!!」
さすがに場馴れしてるセコンドは敏感だった。息子はすでに母の張った罠にかかりつつある。
「母さん、ガードを上げて」
「あたしに勝って、このジムに入るんでしょう?でもここのお兄さんたちどう思うかしらね。”ママから逃げ回って判定勝ち”なん」
母親の言葉は息子の右ストレートで中断された。
勢いよく吹き出た唾液がレンの頬にかかった。
「やればできるじゃない」
母親も右ストレートを息子の顔面に向けたが、レンのガードを叩いただけだった。
「やっとボクシングらしくなってきたわね」
母親は前かがみになり息子に笑いかけた。
「レン!!!近づくな!距離を取れ!!!」
セコンドの必死の叫びもすでにレンには聞こえていない。
「だいじょおぶ?こんなに近づいて?ママのこと怖くないの?」
母親の挑発にはすべてパンチで答えることにした。
母が安い煽りをするたびに息子の拳によって痣ができていく。
唇が切れても、鼻血が止まらなくても母は口撃を止めなかった。そして前進することも。
しだいに母子の距離は縮まっていく。
息子のセコンドは「離れろ!!」とロープを掴んで絶叫したが見守るジム生たちに注意された。
一発で充分よ。母は確信していた。
「どうせ、ママが居るからジムに通いたいんでしょ?いつまでもママのまねっこして」
レンは左フックでいまだ饒舌な母の口を頬ごと潰した。
レンと母親は額がこすり合うほどの距離になっていた。
母はぐんと腰を下ろし力を溜めた。レンは気付いたが間に合わなかった。
母の細い左腕がレンの小さな顎に向かって伸びていった。
その一連の動きだけで彼女にボクシングの才能が一切無いことがよくわかった。
それでもその不格好なアッパーがレンの意識を刈り取った。
◆
ボクシングしている母親が見たくてレンはジムに遊びに行くようになった。
太った人がダイエット目的で通うのは知っていた。友達のママにもいた。
はじめから痩せていた母はダイエットでは無く純粋に”強く”なりたくて通っていた。そういう母をレンはかっこいいと思った。
母はレンがジムに来るのが嫌だった。母の目からみればこのジムは不衛生・不潔そのものだった。
母がこのジムにしたのは家から近いからだけで、現にもう次のジムを探していた。それなのにレンはこのジムに”気に入られて”いた。
最初はサンドバッグを叩かせてもらうだけだったが、周りのトレーナーはすぐにレンの才能に気がついてしまった。
あそびはすぐに練習となった。
レンがスパーリングをした男子中学生はリング上で吐いた。中学生は通ってもう1年になっていた。
『レンくんも一緒に入会したらどうですか?』
そう勧める男たちの眼に何か嫌なものを母は感じていた。
母は絶対に反対だった。誰かがレンの顔を殴るなんて絶対に許せない。
それなのにレンはジムに通いたがった。
だから母は言った。「ママに試合で勝ったらいいわよ♪」
こう言えば絶対に諦めると思った。それなのに―
◆
レンは背中からリングに叩きつけられた。
青いトランクスにシミが広がっていく。失禁していた。
口からはみ出たマウスピースを見て、この子には似合わないと思った母は乱暴にそれを抜き取って捨てた。
レンは弱虫なんだから、ママが守ってあげないとね。それが彼女がボクシングを習う理由だった。
息子をお姫様抱っこした母はそのままリングから降りていった。
そして母子はこのジムに戻ることは無かった。
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2025-04-13 16:57
Comments (8)
Now beat her vagina 🥵💦💦
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