癖:欠けた者同士の出逢い

黒龍は、いと高き山に棲む。
その力は、あまりに大きく――あまりに深い。
ゆえに、孤独だった。
時折、麓の者たちは恐れを込めて供物を捧げた。
だが、それらは黒龍の空腹を満たすことはあれど、心を満たすことはなかった。
ある日、供物が捧げられる。
それは、一人の少女だった。

美しかった。
冷たい風に揺れる草のように、どこか儚く。
親もなく、兄弟もなく、友もなく、ただ――供物だった。
黒龍が問う。
「お前の孤独が癒えれば、我の孤独もまた癒えるのか」

少女は答えなかった。
言葉を持たぬのではない。
ただ、答えがなかった。
それは、似ていたからかもしれない。
違いすぎていたからかもしれない。

沈黙が降り積もる。
風が流れ、雲が流れ、時が流れる。
そして――やがて、何かが変わる。
物語は、ここから始まる。

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2025-04-30 19:11

 門東青史


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