新しい一歩
新しい一歩
夢の一件以来しばらく顔を見せなかった彼女とようやく再会。
縛めを外した彼女の瞳は、真っ向から僕を貫きたじろがせた。
彼女と机を挟んで座り、恐る恐る聞いてみる。
「やっぱり僕のせいという事になるのかな?」
「誘惑されちゃったからね。」
悪戯っぽく笑う彼女と対照的に僕は身を固くした。
「あのね・・・今まで私の目の代わりになろうとした人は何人も居たの。登下校に始まって日常生活の様々な場面で目が見えないのは不自由だから。」
「でも、私は『見えなくなった』訳じゃなく『見る事を辞めた』のよ。だから『代わりの目』なんていらなかった。哀れみをかけられて周囲の状況を教えてもらう必要なんて無かった。」
「何人もの押し付けがましい善意とそれを拒絶する事にいい加減うんざりした頃、あなたが現れた。」
少しだけ表情を緩め、
「正直に言うとね。あなたも、もって一ヶ月と思っていたわ。」
言葉を切り視線を外す。
「でもあなたは違ってた。私の代わりに見る事はしないし、特別に何かするわけでもない。何かしてもらったのはイルカの声の時位だったかしら。」
ちょっとだけ非難がましい表情に見えたのは気のせいかな?
長めの沈黙の後、彼女が続ける。
「しばらくして、あなたは私自身を映す鏡だという事に気が付いたの。」
「鏡? 僕が?」
「そう、鏡。あなたに自覚は無かったでしょうけどね・・・。そんな人に出会ったのは初めてだから、とても新鮮な衝撃だったしあなたに興味も出てきた。」
彼女の買い被りを訂正しようとしたが、意味ありげな微笑に言葉が出なかった。
「あなたは、私を陽の下に連れ出して、もう一度世界を見る気にさせてくれた大切な人なの。だから・・・」
「だから?」
思わず釣られて聞き返す僕。彼女は急に耳まで赤くなって俯いてしまう。
「・・・お、お礼も兼ねて・・・い、い、言いたい事があるの・・・」
意を決したように大きく息を吸って・・・大輪の向日葵を思わせる満面の笑みで一言、
「大好きよ!」
僕と彼女の重ねた掌には
芽吹いたばかりの幸せの種がある。
いつか小さくとも美しい花を咲かせるために
歩いていこう
ふたりで
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前:illust/33337950
次:illust/33497857
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夢の一件以来しばらく顔を見せなかった彼女とようやく再会。
縛めを外した彼女の瞳は、真っ向から僕を貫きたじろがせた。
彼女と机を挟んで座り、恐る恐る聞いてみる。
「やっぱり僕のせいという事になるのかな?」
「誘惑されちゃったからね。」
悪戯っぽく笑う彼女と対照的に僕は身を固くした。
「あのね・・・今まで私の目の代わりになろうとした人は何人も居たの。登下校に始まって日常生活の様々な場面で目が見えないのは不自由だから。」
「でも、私は『見えなくなった』訳じゃなく『見る事を辞めた』のよ。だから『代わりの目』なんていらなかった。哀れみをかけられて周囲の状況を教えてもらう必要なんて無かった。」
「何人もの押し付けがましい善意とそれを拒絶する事にいい加減うんざりした頃、あなたが現れた。」
少しだけ表情を緩め、
「正直に言うとね。あなたも、もって一ヶ月と思っていたわ。」
言葉を切り視線を外す。
「でもあなたは違ってた。私の代わりに見る事はしないし、特別に何かするわけでもない。何かしてもらったのはイルカの声の時位だったかしら。」
ちょっとだけ非難がましい表情に見えたのは気のせいかな?
長めの沈黙の後、彼女が続ける。
「しばらくして、あなたは私自身を映す鏡だという事に気が付いたの。」
「鏡? 僕が?」
「そう、鏡。あなたに自覚は無かったでしょうけどね・・・。そんな人に出会ったのは初めてだから、とても新鮮な衝撃だったしあなたに興味も出てきた。」
彼女の買い被りを訂正しようとしたが、意味ありげな微笑に言葉が出なかった。
「あなたは、私を陽の下に連れ出して、もう一度世界を見る気にさせてくれた大切な人なの。だから・・・」
「だから?」
思わず釣られて聞き返す僕。彼女は急に耳まで赤くなって俯いてしまう。
「・・・お、お礼も兼ねて・・・い、い、言いたい事があるの・・・」
意を決したように大きく息を吸って・・・大輪の向日葵を思わせる満面の笑みで一言、
「大好きよ!」
僕と彼女の重ねた掌には
芽吹いたばかりの幸せの種がある。
いつか小さくとも美しい花を咲かせるために
歩いていこう
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2013-02-07 02:41
Comments (2)
縛めだけでなく様々な軛からも開放され、大きく羽ばたいて行くことでしょう!
目の縛めと同時に心も開かれたのですねw