【彩世絵巻】蝶番【第三世代】
「貴方と貴方の想い人を繋ぎましょう、死は終わりではないのです」
「辛くないか苦しくないか、そんなもの聞かれたって産まれた時からこれなのだからわかるわけないのです、知りません、何にも、わかりません」
「そう、そう、ならば、わたしのために雪解けの川に飛び込んで死ねますか。なんて、嘘です、ふふ、そんな顔をなさらないで下さい」
彩世絵巻-illust/47101565
二人目失礼致します。20150324:婚姻確定させて頂きました
❀逆夢 蝶番(サカユメ チョウツガイ)|19歳|160cm
一人称|わたし
二人称|貴方、~様
死した人と生者を繋ぐことを生業としている人間。
霊の声を聞き生者に伝える、或いは生者から頼まれ、霊を降ろし、対話する。
また霊の力を借り、誰かを呪うこともできる者。
その職と見目から人々からは妖なのではないかと気味悪がられ、一家共々迫害されていた。
常に泣いているが悲しいわけではない、勝手に溢れ出てくる何か。
また一族総じて寿命が短く、故に両親の顔をあまり覚えていない。
幸せを知らず、過酷な環境に身を置いていたと話すが実際には幸せを知ろうとしない。見ない聞かない。
生きている人間が浅ましく見え、どこか見下している節がある。
好意を寄せられれば毒を吐く。所詮は利害のための社交辞令、上っ面のもの。
それだけでしかないのだから。
この世ならざるものしか見ない哀れな女。
「番という名を持ちながら側による者を壊そうとするわたしを貴方は見下しますか」
「嫌い、嫌いよ」
妖も死者も怖くはない。心の臓を引き裂かれ喰らわれてしまっても構わない。
どうせすぐに死に絶えるのだ、誰にも知られずに、ただ一人で。
寂しくはない、怖くはない。それよりも幸せを知る方がずうっと怖い。
誰かと共にいる温もりを知りたくはない。置いて逝くなんて考えたくもない。
嗚呼吐き気がしてきた。
近寄るのならば毒を吐こう。その首を絞めてしまおう。
崖から突き落としてしまおう。たったそれだけのことだ。
「それでも臆さぬ方が来たら わたしはどうなるのでしょう ね」
「死んでしまえ、貴方なんて、わたしなんて」
貴方がわたしを殺そうと牙を剥くならわたしはそれを笑顔で受け入れて死に逝きましょう。
✤水底から手招く伴侶様:深潭さん_illust/49061258
何てことはない、澄んだ空気を孕んだ日だった。
その空気を歪ませるような男がわたしの前に現れて、
薄っぺらい笑みを浮かべながらその男はわたしに妹を降ろして欲しいと頼んできた。
薄い笑みの下に隠されたわたしへの視線が煩わしい、本当にこれだから。醜いわたしを見ないで。
生業を邪険にするわけにもいかず男の妹の思念と魂を探し当てて降ろせば通じてくるのは怨念、憎悪。
お前に殺された私を返せと罵声を吐いてあの男の首を握りつぶしたくなる程の。
嗚呼、嗚呼、この女はかわいそうに、きっとわたしとおなじ。
男の歪んだものが蠢いた気がした。
繋が終わって、男は飄々とした様子でわたしの涙を長い指で撫ぜる。
ぞっと背筋が粟立って男を跳ね飛ばして睨みつけた。
まるで蛇に絡みつかれて舌なめずりをされたようで腹の底から気持ち悪いと思った。
二度と来るな、二度とわたしのもとに来るな、
そう怯えに似た感情を隠して願いに似た拒絶を繰り返すのだ。
それなのに、嗚呼、きもちわるいほどに殺したいと思えないのだ
「…今日も、ですか。足繁くわたしのところへ来るなんて貴方はとってもお暇なんですね。
ええ、ええ、羽虫を潰すように人を殺せる貴方は狂人ですよ」
「求めている?貴方なんて願い下げです、わたしは。
せめてその嘘くさい笑顔の仮面を外してから物を言ったらいかがですか」
「そう、そう。ならこちらに来ないで。
今直ぐその崖まで駆けて、谷底へ躍り出て下さい、さあ。それが貴方の、深潭様の愛ならば、さあ」
「わたしは生まれてこの方笑ったことはないもので。貴方のその薄っぺらい笑みでもう充分ですよ、
ねえ、深潭様?くさい台詞はいりません、必要ないでしょう」
貴方が受け入れるならわたしは死んでも言ってやらない。
苦しんで生きていけ。
一人でもがき苦しめ。
罵声は吐いても呪詛なんて微塵もくれてやらない。
貴方に向けるくらいならこの眸を潰してやる。
さあわたしを「きちんと」殺してみせて。
貴方の紅をあしらったその手でわたしの腕を潰すほどに掴んで引くがいい。
わたしを遺そうものならその時はお望み通り呪ってやろう。
でも残念ね、深潭様。
「わたし、貴方が死ぬのは望んでいないの」
「呪うことでしか愛を示せないわたしを許して」
深潭様、ごめんなさい。
本当は愛しくて、哀しくて仕方がなかった。
盗られたくないだなんて子供じみた独占欲を貴方にぶつけて貴方の生を奪いました。
水底だろうが、貴方がいるのならばわたしは。
…依存愛だろうと構いません。
だって貴方はわたしが初めて愛した人ですから。わかりますか、この愛以外、愛し方以外、わたしは愛を知らないのです。
わたしに手を差しのべてくれる人なんて誰一人としていなかった。
ねえ、深潭様。私の番の方。
眠くて眠くて仕方ありません、でも眠ったら貴方の顔が見えなくなります。
貴方の手を握っていていいですか。貴方は泡のように消えはしませんか。
ねえ。
「旦那様」
わたしは貴方以外人になんて見えないんです。
虫を殺す人間を、誰がわざわざ注意しましょう?
……なんて。ごめんなさい。わたしは貴方に、許して ばかりを言っていますね。
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2015-02-22 05:35
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