【九十九路】アフタブ【第三期】
❖絆❖ 魂を売る者:「マルアフ」さんillust/62274244
----------------------------------------------------------------------------------❖ 取引 ❖----------------------------------------------------------------------------------
先代バスーンは多くの遺物を遺した。魔法合金、火継ぎ物語、どれも少しでも多く広い世界を堪能しようとし遺して逝った産物たち。そして、その中には後継である僕のために残したであろう未完の遺物があった
『聖杯』
膨れ上がったエデの「火」をツヴァイホルンの「鉄」に治める魔法器具構想。だがその製造過程で燃料となる「薪」である自分の心身がどうしても耐え切れずに燃え尽き、灰になり死ぬ試算結果になった。何度試算しても結果は変わらなかった。
そう、命が足りないのだ。この構想は「薪」である者でしか行えず腹案も無い、命を増やす方法などまずありえない所業、そう失意に落ち込んでいた時だった
寿命を貸し与える「魂を売る者」がいる、という噂を聞いた
僕に一縷の希望の光がさした。これだ、否これしかない!!僕はすぐさまその者を探すべく情報を集め始め…その必要性を無くした。何故なら、その者はいつの間にかこの国にいたのだから。
その容姿は子供そのものだった。無垢さを表すような身なりと顔立ち、一見すれば可愛らしい子だと思えるが…その手に携える籠と寄り添う蛇からは底知れぬ怖気を感じた。狼狽える僕を後目にはその子は口火を切った
「あなたの望むものはなんですか?」
小さく、深く、鋭く、重く、その声は僕を貫いた。なぜ?どうやって来たのか?なんて些細な疑問は議題から捨て去られて、僕はただその声に従い答えた。
「僕は」
「あなたの”寿命”を頂きたい」
僕は途方無く深い【領域】の片鱗に触れたのを感じた
--------------------------------------------------------------------------------❖ マルアフ ❖--------------------------------------------------------------------------------
「ねえ、あなたは何故死にたがるの?」
部屋に招くなりいきなり切り込まれてしまった。聖杯の事はこの子に話した、寿命を貰っておきながら命を浪費する方針に疑問が生じるのは当然だ。
「死にたがる訳じゃないさ、ただ無策に生きる訳にもいかないんだ」 「言ってる意味が分からない」
即答されてしまった。
「僕の”火”はね、初代様がある国を甦らせ背負ったものでね。2代目のバスーンは強まった火の解決策を残し死んだ。そして僕の代の火はさらに強くなってね、ほっとけば僕も同様に焼け死ぬ。次代により強まった火の宿業を背負わせてね。恐らくは聖杯でも御せないほどの火を」
「それを防ぐために死ぬと?」
「死にたくは無いけどね、でも何もしないで生きるのだけは出来ない。後継のために死を覚悟し逝った先代たちの生き様や遺産を否定することになるからね。なにより」
「逃げられない運命だからさ、だったら真正面からぶつかってやるさ。んで勝つんだ、運命にも火にも。先代たちがそうして来たように、絆の奇跡に巡り合ってね」
「絆の奇跡?」
「そうさ、僕はこんな宿業と運命を課せられた嘆いた。だけど今は違う、何故ならバスーンもそれゆえにツヴァイホルンと出会い、多くの遺産を遺せた。僕だってそうだ、君と出会えた。寿命を恵んでもらい新たな未来の路が拓けたんだ。この運命故にこの出会いがあったと僕は思ってる」
面を喰らったような面持ちのこの子に踵を返しながらふと思い出す
そういえば、取引の時に命名を頼まれてたっけ。後回しにしてたけどそうだな、この無垢な容姿に僕の路に活路をもたらしてくれた御業はまるでマルアフ…そうだマルアフにしよう。
マルアフ、意味は神の使いたる「天使」である
----------------------------------------------------------------------------------❖ 聖杯 ❖----------------------------------------------------------------------------------
マルアフと取引をしてから3日目の晩、遂に意を決する。
領土外の森林で僕は準備を整える。用意したのは永久循環の魔法術式を施したオロール鋼と竜の心臓、そして薪である我が身。「火」で鋼を杯に鍛え、同時に術式を結び、「火」を杯に満たす。それを薪が燃え尽きるまでに完了させる。それが僕の使命だ。…一呼吸入れ僕は両腕で胸を抉った
聖杯の錬成が始まった
抉った胸部からは溶岩のように火の洪水が起きた。僕は用意したオロール鋼を熱し杯に錬成、さらに火を組み込んだ術式を展開し杯の雛型を作成。ここから「火」を全て「杯」に注ぐことで完了となるが。その時だった
想定より遥かに早く「火」が噴き出し薪の身を燃やし始めた!大樹の巨躯は瞬く間に火だるまになり巨大な焚火と成り果てた。
大樹は荒れ狂うようにのたうちもがき足搔いた
全身が燃え、目は焼かれ、口喉は爛れ、死に匹敵する激痛に思考を潰され、最早聖杯なども忘れ激痛に苛まれ死を目前にした時…
優しい「なにか」が僕に触れたのが分かった。いや僕にはすぐにわかった
マルアフ
取引で得たあの子の命が今、僕に触れている。小さいでもか弱くも優しい命、死に瀕した窮地の中で僕は一抹の安堵を得た。そしてそれは僕の本来の役目を思い出させ、奮い立たせるのに十分なものだった。
僕は爛れた喉で雄叫び、杯の術式を発動させ、杯に「火」を食わせ始めた。その様はまるで暴風に吸い込まれる大火の如き異様な光景であった。大火はみるみる勢いを失ってゆき、やがて…
◇◇◇
夜が明けた頃、そこには死に絶えた巨大な炭の塊があった。そしてその足元には
金色に輝き真紅の「火」を治める「聖杯」とすこし焦げついた樹霊の木の実が転がっていたという
~第三期”アフタブ”FIN~
❖アフタブ設定詳細、第2期キャラ/第2期絆相手様、第3期既知関係様《https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8041718》
----------------------------------------------------------------------------------❖ 取引 ❖----------------------------------------------------------------------------------
先代バスーンは多くの遺物を遺した。魔法合金、火継ぎ物語、どれも少しでも多く広い世界を堪能しようとし遺して逝った産物たち。そして、その中には後継である僕のために残したであろう未完の遺物があった
『聖杯』
膨れ上がったエデの「火」をツヴァイホルンの「鉄」に治める魔法器具構想。だがその製造過程で燃料となる「薪」である自分の心身がどうしても耐え切れずに燃え尽き、灰になり死ぬ試算結果になった。何度試算しても結果は変わらなかった。
そう、命が足りないのだ。この構想は「薪」である者でしか行えず腹案も無い、命を増やす方法などまずありえない所業、そう失意に落ち込んでいた時だった
寿命を貸し与える「魂を売る者」がいる、という噂を聞いた
僕に一縷の希望の光がさした。これだ、否これしかない!!僕はすぐさまその者を探すべく情報を集め始め…その必要性を無くした。何故なら、その者はいつの間にかこの国にいたのだから。
その容姿は子供そのものだった。無垢さを表すような身なりと顔立ち、一見すれば可愛らしい子だと思えるが…その手に携える籠と寄り添う蛇からは底知れぬ怖気を感じた。狼狽える僕を後目にはその子は口火を切った
「あなたの望むものはなんですか?」
小さく、深く、鋭く、重く、その声は僕を貫いた。なぜ?どうやって来たのか?なんて些細な疑問は議題から捨て去られて、僕はただその声に従い答えた。
「僕は」
「あなたの”寿命”を頂きたい」
僕は途方無く深い【領域】の片鱗に触れたのを感じた
--------------------------------------------------------------------------------❖ マルアフ ❖--------------------------------------------------------------------------------
「ねえ、あなたは何故死にたがるの?」
部屋に招くなりいきなり切り込まれてしまった。聖杯の事はこの子に話した、寿命を貰っておきながら命を浪費する方針に疑問が生じるのは当然だ。
「死にたがる訳じゃないさ、ただ無策に生きる訳にもいかないんだ」 「言ってる意味が分からない」
即答されてしまった。
「僕の”火”はね、初代様がある国を甦らせ背負ったものでね。2代目のバスーンは強まった火の解決策を残し死んだ。そして僕の代の火はさらに強くなってね、ほっとけば僕も同様に焼け死ぬ。次代により強まった火の宿業を背負わせてね。恐らくは聖杯でも御せないほどの火を」
「それを防ぐために死ぬと?」
「死にたくは無いけどね、でも何もしないで生きるのだけは出来ない。後継のために死を覚悟し逝った先代たちの生き様や遺産を否定することになるからね。なにより」
「逃げられない運命だからさ、だったら真正面からぶつかってやるさ。んで勝つんだ、運命にも火にも。先代たちがそうして来たように、絆の奇跡に巡り合ってね」
「絆の奇跡?」
「そうさ、僕はこんな宿業と運命を課せられた嘆いた。だけど今は違う、何故ならバスーンもそれゆえにツヴァイホルンと出会い、多くの遺産を遺せた。僕だってそうだ、君と出会えた。寿命を恵んでもらい新たな未来の路が拓けたんだ。この運命故にこの出会いがあったと僕は思ってる」
面を喰らったような面持ちのこの子に踵を返しながらふと思い出す
そういえば、取引の時に命名を頼まれてたっけ。後回しにしてたけどそうだな、この無垢な容姿に僕の路に活路をもたらしてくれた御業はまるでマルアフ…そうだマルアフにしよう。
マルアフ、意味は神の使いたる「天使」である
----------------------------------------------------------------------------------❖ 聖杯 ❖----------------------------------------------------------------------------------
マルアフと取引をしてから3日目の晩、遂に意を決する。
領土外の森林で僕は準備を整える。用意したのは永久循環の魔法術式を施したオロール鋼と竜の心臓、そして薪である我が身。「火」で鋼を杯に鍛え、同時に術式を結び、「火」を杯に満たす。それを薪が燃え尽きるまでに完了させる。それが僕の使命だ。…一呼吸入れ僕は両腕で胸を抉った
聖杯の錬成が始まった
抉った胸部からは溶岩のように火の洪水が起きた。僕は用意したオロール鋼を熱し杯に錬成、さらに火を組み込んだ術式を展開し杯の雛型を作成。ここから「火」を全て「杯」に注ぐことで完了となるが。その時だった
想定より遥かに早く「火」が噴き出し薪の身を燃やし始めた!大樹の巨躯は瞬く間に火だるまになり巨大な焚火と成り果てた。
大樹は荒れ狂うようにのたうちもがき足搔いた
全身が燃え、目は焼かれ、口喉は爛れ、死に匹敵する激痛に思考を潰され、最早聖杯なども忘れ激痛に苛まれ死を目前にした時…
優しい「なにか」が僕に触れたのが分かった。いや僕にはすぐにわかった
マルアフ
取引で得たあの子の命が今、僕に触れている。小さいでもか弱くも優しい命、死に瀕した窮地の中で僕は一抹の安堵を得た。そしてそれは僕の本来の役目を思い出させ、奮い立たせるのに十分なものだった。
僕は爛れた喉で雄叫び、杯の術式を発動させ、杯に「火」を食わせ始めた。その様はまるで暴風に吸い込まれる大火の如き異様な光景であった。大火はみるみる勢いを失ってゆき、やがて…
◇◇◇
夜が明けた頃、そこには死に絶えた巨大な炭の塊があった。そしてその足元には
金色に輝き真紅の「火」を治める「聖杯」とすこし焦げついた樹霊の木の実が転がっていたという
~第三期”アフタブ”FIN~
❖アフタブ設定詳細、第2期キャラ/第2期絆相手様、第3期既知関係様《https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8041718》
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2017-04-01 00:00
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