【花食】ヴィルジール【花食】
◇企画元:愛しい花の食べ方【illust/90826827】
◆ヴィルジール・ミュッセ(Virgile・Musset)
花食/30歳/177cm
一人称:私 二人称:貴女/貴方
◆8/10:素敵なご縁を頂戴いたしました
咲き誇る花々の中にあってひときわ華やかに香る花蜜・ファニィさん【illust/91592517】
「無論、最初は、花蜜の家庭教師など受けたくはなかったね
空腹時にあの香りが漂ってくる時の苦痛は――
あたたかな食事を前に『食べるな』と言われているような
ものだったから」
「いつの頃からか、貴女に対しては『食べたい』という欲求は
なくなっていたね。え?それまではあったのか? ――ふふ」
――その話を請けたのは『懇意にしている花食からの依頼だった』からで、花蜜に興味があったからではない。
あの匂いは、本物の花々より香り高くて……食べてしまいそうになるから。
その花蜜もまた、私と同じように身体が強くなく、
だからこそ私に依頼すれば彼女の気持ちに寄り添うことができるのでは、と思案しての紹介だったようだ。
◆◆◆
私の家は代々騎士としての務めを果たしている家系である。
姉も妹もその責務を立派に果たしているが、
私は呼吸系に疾患を有しているため長時間の任務に耐えられそうもなく、
知識と教養を身につけ家庭教師としての働きをしている。
短時間であれば運動も可能なため、
体調次第では剣術を授ける事もあるがこれは稀なこと。
◆◆◆
その花蜜――ファニィは、出会った当初から香り高い花の匂いで満ちていた。
匂いが呼び覚ます欲求に耐えられるものかな、と少々不安になる私をよそに、
彼女は既に学びの姿勢を整えている。
その様子を見て、軽い眩暈を覚えながらファニィの許に向かった。
ああ、美味しそうな匂いがする。
◆◆◆
彼女は、よく学び、よく質問し、よく戦った。
週に2日ほどの学びの間には自分でもきちんと勉強し、
今回分からなくても次回は分かるように質問を重ね、理解し、努力をしている。
大変理想的で好ましい生徒だった。
戦うとは何か?
この生徒は自分が納得できなければ容赦なくこちらに反論を浴びせてくるのだ。
口調は愛らしいがその内容は的確に隙を突いてくる。
そのためこちらも武装して応戦し、理解を促すさまは、傍から見れば論争である。
どちらも折れぬ時の双方力尽きた状況はさしずめ兄妹喧嘩の後のようであった。
疲れている時ほど花蜜の匂いの誘いを断つのが難しい。
花蜜の前では花を食することを控えていたが、この時ばかりは大変申し訳ないながら
花を所望する失態を犯した。
この一家は、そこで私が花食だということに初めて気づき大変驚いていた。
花食だと知られてしまった私を引き続き受け入れてもらえるか不安だったが、
変わらず『次回もお願いします』と言って頂けた事に安堵した。
◆◆◆
学びの時は、片方或いは双方が体調を崩して学びの時を中断することもあり、
他の者に比べれば満足に得られていない状況だったかもしれない。
しかし、彼女の飲み込みの早さのゆえに、他の者に引けを取らぬ学力は概ねついたと思われる。
その頃には彼女が発する花の匂いにも随分慣れたのか、あまり匂いは気にならなくなっていた。
無意識に、意識しないことを心がけていたのかもしれない。
やはり花蜜の匂いは――意識するとあまりに美味しそうだから。
その日は二人とも体調は良く、外への散歩へと繰り出していた。
途中、花屋で美しく咲き誇る花々を目にする。
綺麗だな、と思うより先に美味しそうだな、と思うのがよくない。
物欲しそうな顔をしていたのか、ファニィはその花を求め
私に差し出してくれた。
青や紫の、常に私が選ぶ色の花々を受け取ろうとして、思いがけず彼女の手に触れた時――体の奥から湧き上がる『欲しい』の感情に強い眩暈を覚える。
その場に膝をつく私を心配する彼女に、触れないで欲しいとだけ言うのが精一杯だった。
その後の事はよく覚えていない。
その日を最後に、私は彼女の家庭教師としての職を辞した。
彼女と最後にした約束は、彼女が忘れてしまえば果たされないだろう。
それでいいと思っている。
花蜜は、花食になど捕らわれてはいけないのだ――。
◆代々騎士として働く家系。
しかし彼自身は身体があまり強くないため、
幼いころから書物と親しみ、
そこから得た知識を生かして家庭教師として働いている。
一見穏やかで物腰柔らかそうに見えて案外厳しい指導をするため、
親たちからは評判はいいとか。
花蜜に対する興味が尽きないため、
自分からは近づかないようにしている。
知ってしまえば欲しくなるから。
欲しくなったら手に入れたくなるから。
手に入れたら――食べてしまうだろうから。
◆普段は青系の花を好んで食している。
「赤い花は、血の色に似ていていけない」
◆ヴィルジール・ミュッセ(Virgile・Musset)
花食/30歳/177cm
一人称:私 二人称:貴女/貴方
◆8/10:素敵なご縁を頂戴いたしました
咲き誇る花々の中にあってひときわ華やかに香る花蜜・ファニィさん【illust/91592517】
「無論、最初は、花蜜の家庭教師など受けたくはなかったね
空腹時にあの香りが漂ってくる時の苦痛は――
あたたかな食事を前に『食べるな』と言われているような
ものだったから」
「いつの頃からか、貴女に対しては『食べたい』という欲求は
なくなっていたね。え?それまではあったのか? ――ふふ」
――その話を請けたのは『懇意にしている花食からの依頼だった』からで、花蜜に興味があったからではない。
あの匂いは、本物の花々より香り高くて……食べてしまいそうになるから。
その花蜜もまた、私と同じように身体が強くなく、
だからこそ私に依頼すれば彼女の気持ちに寄り添うことができるのでは、と思案しての紹介だったようだ。
◆◆◆
私の家は代々騎士としての務めを果たしている家系である。
姉も妹もその責務を立派に果たしているが、
私は呼吸系に疾患を有しているため長時間の任務に耐えられそうもなく、
知識と教養を身につけ家庭教師としての働きをしている。
短時間であれば運動も可能なため、
体調次第では剣術を授ける事もあるがこれは稀なこと。
◆◆◆
その花蜜――ファニィは、出会った当初から香り高い花の匂いで満ちていた。
匂いが呼び覚ます欲求に耐えられるものかな、と少々不安になる私をよそに、
彼女は既に学びの姿勢を整えている。
その様子を見て、軽い眩暈を覚えながらファニィの許に向かった。
ああ、美味しそうな匂いがする。
◆◆◆
彼女は、よく学び、よく質問し、よく戦った。
週に2日ほどの学びの間には自分でもきちんと勉強し、
今回分からなくても次回は分かるように質問を重ね、理解し、努力をしている。
大変理想的で好ましい生徒だった。
戦うとは何か?
この生徒は自分が納得できなければ容赦なくこちらに反論を浴びせてくるのだ。
口調は愛らしいがその内容は的確に隙を突いてくる。
そのためこちらも武装して応戦し、理解を促すさまは、傍から見れば論争である。
どちらも折れぬ時の双方力尽きた状況はさしずめ兄妹喧嘩の後のようであった。
疲れている時ほど花蜜の匂いの誘いを断つのが難しい。
花蜜の前では花を食することを控えていたが、この時ばかりは大変申し訳ないながら
花を所望する失態を犯した。
この一家は、そこで私が花食だということに初めて気づき大変驚いていた。
花食だと知られてしまった私を引き続き受け入れてもらえるか不安だったが、
変わらず『次回もお願いします』と言って頂けた事に安堵した。
◆◆◆
学びの時は、片方或いは双方が体調を崩して学びの時を中断することもあり、
他の者に比べれば満足に得られていない状況だったかもしれない。
しかし、彼女の飲み込みの早さのゆえに、他の者に引けを取らぬ学力は概ねついたと思われる。
その頃には彼女が発する花の匂いにも随分慣れたのか、あまり匂いは気にならなくなっていた。
無意識に、意識しないことを心がけていたのかもしれない。
やはり花蜜の匂いは――意識するとあまりに美味しそうだから。
その日は二人とも体調は良く、外への散歩へと繰り出していた。
途中、花屋で美しく咲き誇る花々を目にする。
綺麗だな、と思うより先に美味しそうだな、と思うのがよくない。
物欲しそうな顔をしていたのか、ファニィはその花を求め
私に差し出してくれた。
青や紫の、常に私が選ぶ色の花々を受け取ろうとして、思いがけず彼女の手に触れた時――体の奥から湧き上がる『欲しい』の感情に強い眩暈を覚える。
その場に膝をつく私を心配する彼女に、触れないで欲しいとだけ言うのが精一杯だった。
その後の事はよく覚えていない。
その日を最後に、私は彼女の家庭教師としての職を辞した。
彼女と最後にした約束は、彼女が忘れてしまえば果たされないだろう。
それでいいと思っている。
花蜜は、花食になど捕らわれてはいけないのだ――。
◆代々騎士として働く家系。
しかし彼自身は身体があまり強くないため、
幼いころから書物と親しみ、
そこから得た知識を生かして家庭教師として働いている。
一見穏やかで物腰柔らかそうに見えて案外厳しい指導をするため、
親たちからは評判はいいとか。
花蜜に対する興味が尽きないため、
自分からは近づかないようにしている。
知ってしまえば欲しくなるから。
欲しくなったら手に入れたくなるから。
手に入れたら――食べてしまうだろうから。
◆普段は青系の花を好んで食している。
「赤い花は、血の色に似ていていけない」
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2021-07-24 14:54
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