青空に溶けて行く街に訪れる何度目かの春
◆「青空に溶けて行く街に訪れる何度目かの春(The Umpteenth Spring @ The Town What Fading To The Sky)」...
(ある旅行者の手記より)
「塵と星屑と想像力で構成された
「白と黒の大地」が拡がる、
C.T.W.(Colour-Trash World,以下C.T.W.と表記)では
今日も新しい街が
次々と生まれて来ているのだが、
その一方で
青空の中に溶けて消えてしまう場所もある。
例えば、たった今降り立ったこの街のように。
且つては近くの工場への専用線であったであろう
赤錆びた線路が伸びる駅前に拡がる、
青い空に染まった
住民の気配が全く感じられない街。
商店や工場、向こうに見える団地を含めた
幾つかの建物は既に
青空の中に溶け込んでしまっており、
その輪郭も無意味で曖昧なものに
なっているのが確認できる。
流れる雲は
辛うじて建物が存在している空間さえも既に
空と同化しているものであるとして、
認識しているようだった。
街路を彩っていたカラータイルの色は
白と黒の大地に還りつつあり、
そのまま塵と星屑と想像力の欠片に
瓦解するのを待ち続けているようだった。
後になってから聞いた話では、
こうした現象はC.T.W.内でも
滅多に無い事ではあるのだそうだが、
「それはきっとその場所が寿命を迎えたと言う事」なのだそうだ。
誰も居ない建物の一つ一つの窓辺には
花が飾られていた。
それも何日も経っているようなものでは無く、
まるでついさっき飾られたばかりのような花々。
―いや、本当についさっき飾られたばかりだった。
ボート一杯に花を積んで
家々を一軒一軒周っていると言う人物に出会った。
「ここの住人達だったら
大分前に皆、
近くの街に引っ越して
そこで暮らしているよ。
この街も昔は春が来れば
街中の家と言う家に
色とりどりの花が飾られたりしていたものだった。
だからこうして、
春になったらあの頃のように
街中の家に花を飾っているのさ。
自分の生まれ育った場所が
このまま消えて行くのは
寂しい事だけど、
この街であと何回春を迎えられるのか
判らないから、
ありったけの感謝の気持ちを込めて
いつ送り出してもいいようにね」
良かった事やそうでもない事も含めた
この街の記憶や生活、思い出全てが、
まるで幻だったかのように
青空の中に消えて、
やがてこの場所が存在していた事もきっと
人々の記憶の中からも消えて行くのだろう。
「...この街はこのまま消えて行くのだろうが、
想像力がある限りは、
この場所にきっとまた新しいものが生まれるだろうさ。
新しい場所で暮らしている皆もその事を判っているし、
楽しみにもしている。
この世界はそう言うものなのさ」
―そう言うとまた家々を花で
飾り付けに戻って行ったのだった。
誰かが置き去りにして行ったのであろう
真っ白なキャンバスには、
春が今年も訪れた事を告げるかのように
花びらが付着して
彩りを添えていた」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
A4(210×297)サイズ程に切り取った水彩紙に
水彩絵の具、水彩色鉛筆で描いたもの。
(ある旅行者の手記より)
「塵と星屑と想像力で構成された
「白と黒の大地」が拡がる、
C.T.W.(Colour-Trash World,以下C.T.W.と表記)では
今日も新しい街が
次々と生まれて来ているのだが、
その一方で
青空の中に溶けて消えてしまう場所もある。
例えば、たった今降り立ったこの街のように。
且つては近くの工場への専用線であったであろう
赤錆びた線路が伸びる駅前に拡がる、
青い空に染まった
住民の気配が全く感じられない街。
商店や工場、向こうに見える団地を含めた
幾つかの建物は既に
青空の中に溶け込んでしまっており、
その輪郭も無意味で曖昧なものに
なっているのが確認できる。
流れる雲は
辛うじて建物が存在している空間さえも既に
空と同化しているものであるとして、
認識しているようだった。
街路を彩っていたカラータイルの色は
白と黒の大地に還りつつあり、
そのまま塵と星屑と想像力の欠片に
瓦解するのを待ち続けているようだった。
後になってから聞いた話では、
こうした現象はC.T.W.内でも
滅多に無い事ではあるのだそうだが、
「それはきっとその場所が寿命を迎えたと言う事」なのだそうだ。
誰も居ない建物の一つ一つの窓辺には
花が飾られていた。
それも何日も経っているようなものでは無く、
まるでついさっき飾られたばかりのような花々。
―いや、本当についさっき飾られたばかりだった。
ボート一杯に花を積んで
家々を一軒一軒周っていると言う人物に出会った。
「ここの住人達だったら
大分前に皆、
近くの街に引っ越して
そこで暮らしているよ。
この街も昔は春が来れば
街中の家と言う家に
色とりどりの花が飾られたりしていたものだった。
だからこうして、
春になったらあの頃のように
街中の家に花を飾っているのさ。
自分の生まれ育った場所が
このまま消えて行くのは
寂しい事だけど、
この街であと何回春を迎えられるのか
判らないから、
ありったけの感謝の気持ちを込めて
いつ送り出してもいいようにね」
良かった事やそうでもない事も含めた
この街の記憶や生活、思い出全てが、
まるで幻だったかのように
青空の中に消えて、
やがてこの場所が存在していた事もきっと
人々の記憶の中からも消えて行くのだろう。
「...この街はこのまま消えて行くのだろうが、
想像力がある限りは、
この場所にきっとまた新しいものが生まれるだろうさ。
新しい場所で暮らしている皆もその事を判っているし、
楽しみにもしている。
この世界はそう言うものなのさ」
―そう言うとまた家々を花で
飾り付けに戻って行ったのだった。
誰かが置き去りにして行ったのであろう
真っ白なキャンバスには、
春が今年も訪れた事を告げるかのように
花びらが付着して
彩りを添えていた」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
A4(210×297)サイズ程に切り取った水彩紙に
水彩絵の具、水彩色鉛筆で描いたもの。
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2022-03-29 19:52
Comments (19)
(続き)思われました。 過去の作品で観た「世界が生まれる最前線」とは対照的な光景ではありますが、想像力がある限り終わりのないC.T.W.の、いわば転生の瞬間を見届けるような、ふしぎと悲壮感のない別れがここにはあるのかもしれません。
View Replies→「僕でさえも生きている」という彼なりの生命の証を記す為であるように思えてなりません。
View Replies→ それでも心ある人が心づくしの花を、家々の窓に飾り付けていくなら、いつかはその花の色が空の色と拮抗し、町は息を吹き返すかもしれない。たとえ万分の一の望みだとしても。 希なる望みと書いて希望と読むのなら、そんな日が来るのを望まないではいられない。 飛べない鳥さんがここに来たのも→
虹色の煙を吐く筈の工場も、人々で賑わう筈の商店や団地も、子供達の歓声が染み付いている筈の滑り台も、染みるような空の青に侵食され、雲さえがその外壁と言わず内部と言わず侵入してきている町。なぜこんな事が…と問うのも愚かなのかも知れない。それは「この町が寿命を迎えたから」だと言う。 →
カーテンの向こうで終焉(終演)を迎えつつある辺境の町には、時々思い出したように電車が来る。虹のアーチがすっかり小さくなり、蓄音機が音楽を忘れた町に花を飾る人。どうせ消えるのだからと言って切り捨てないその姿に、理屈や必然性というものを越えた愛情や人間味が感じられるように
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