【ポケフロ0】ゆめゆめわすれないように
医務室の前。病気とは無縁であるシュガーは緊張した面持ちでその扉をノックする。
そこから聞こえてくるのは聞き慣れた声で聞き慣れないトーンの声。
「……チャオチャオ!レミ……じゃなかった、メリアおねえちゃん!元気が出るようにたっぷり愛を込めて差し入れを持ってきたから食べて食べて♡」
「……これは、スポンジケーキですか?」
「ル・ブルジョン・ドゥ・ソレイユ。太陽の芽ってタイトルのぼく特製のスイーツだよ★」
「素敵な名前ですね。……ところでこの葉っぱは何の意味が」
「スイーツは見て楽しむものだからね、装飾もしっかりしなきゃ完成じゃないのー!」
「なるほど、たしかにそうかもしれません。ありがとうございます」
そうにこりと微笑むのはレミーダ、ではなかった。
眠ったまま帰ってきた彼女は何もかもを忘れた別人。メリアと名乗る少女。あまりにレミーダに瓜二つで、レミーダが姿を消した後、間も無く発見された。彼女がレミーダであることはほぼ間違い無いような状態で。
それを知った団員たちは一様に驚きや嘆きの表情を浮かべていたが、その中シュガーだけはいつもの甘い笑顔でキッチンへと向かいレミーダをイメージした、レミーダと共に作ったスポンジケーキを黙々と焼き上げていた。
「ほんとにぼくたちのこと覚えてないの?」
「……ええ、私にとっては初対面です」
「んー、そっか。じゃあまたたくさん愛を伝えちゃうから覚悟しててね★」
「ふふっ、面白いことを仰いますね。初対面だというのに、まただなんて」
「……あはは、なんか初対面だって気がしないんだ。いつも太陽みたいに照らしてくれた女の子がどうしてもちらついちゃって。……ぼくらしくないな。いつだってぼくは博愛主義だ。全部受け入れて飲み干す。ちゃんと、あの子じゃなくてメリアおねえちゃんをしっかり愛さなきゃだよね!」
改めて気合いを入れるように笑顔を作り、メリアをぎゅっと抱きしめる。いつもの甘い香りは彼女にとっては新鮮な様子で、一瞬驚いた後に優しく抱きしめ返される。
「甘くて優しい匂いがしますね」
「うん、そういう体質だから。……匂い、前より濃くなってる。……おねえちゃんの、匂いがする」
二人で焼いて謝って回ったケーキすらすっかり忘れている様子で、一つ一つちぎって口に運ぶメリアの姿に胸が締め付けられる。匂いは別物どころかより濃く、その場に存在を知らしめているというのに。この状況を受け入れ愛して、メリアという少女にレミーダの面影を重ねずに接してこそ、誠実な愛であると、そうわかっているのに。
どうしてもよく見知った笑顔を思い浮かべてしまう。太陽のように明るくて、温かい笑顔。
「(だめだよ、ぼくは、みんなを愛さなきゃ。レミおねえちゃんも、メリアおねえちゃんも……別のポケモンなんだから……)」
ずきずき、胸が痛む感覚がする。あまりにも予想と違う結果に博愛をうたうシュガーすら、現実を受け止めたくない感情がふつふつと湧き上がる。
「大丈夫ですか?あまり体調が優れないように見えますが」
「ん?大丈夫!ぼくって丈夫だから★メリアおねえちゃんこそ、動けるようになったら色々と体を動かして元気になろうね!」
「……ええ、そうですね」
「……ところでさ、ぼくは"夢"があるんだ。世界一のパティシエになって、100年後、千年後もみんなが作って食べてくれる、そんなレシピを作るって夢」
「素敵な夢ですね。純粋で、幼くて、とても可愛らしい夢だと思います」
「……うん、90年分の人生で初めて見つけた夢。忘れられない最高のスイーツを、今も作れてると思ってた」
「90年?どう見てもあなたは……んん……?」
「……子供にも大人にも見えるでしょ。それがぼく。何色にも染まる完全なグレー。印象で年齢も性別も認識が変わるのが、ぼく」
先ほどとは違う大人びた落ち着いた声。それを聞いてメリアは不思議そうに目を丸くする。
「……ねぇ、メリアおねえちゃん。……きみの夢は、なんなのかな?」
ほんの少しだけ、震えた声で、それでもシュガーは真っ直ぐにメリアと視線を合わせて、どうしても聞かないといけない疑問をぶつけることにした。
お借りしました
メリアちゃん(illust/72236218)
シュガー(illust/74184331)
そこから聞こえてくるのは聞き慣れた声で聞き慣れないトーンの声。
「……チャオチャオ!レミ……じゃなかった、メリアおねえちゃん!元気が出るようにたっぷり愛を込めて差し入れを持ってきたから食べて食べて♡」
「……これは、スポンジケーキですか?」
「ル・ブルジョン・ドゥ・ソレイユ。太陽の芽ってタイトルのぼく特製のスイーツだよ★」
「素敵な名前ですね。……ところでこの葉っぱは何の意味が」
「スイーツは見て楽しむものだからね、装飾もしっかりしなきゃ完成じゃないのー!」
「なるほど、たしかにそうかもしれません。ありがとうございます」
そうにこりと微笑むのはレミーダ、ではなかった。
眠ったまま帰ってきた彼女は何もかもを忘れた別人。メリアと名乗る少女。あまりにレミーダに瓜二つで、レミーダが姿を消した後、間も無く発見された。彼女がレミーダであることはほぼ間違い無いような状態で。
それを知った団員たちは一様に驚きや嘆きの表情を浮かべていたが、その中シュガーだけはいつもの甘い笑顔でキッチンへと向かいレミーダをイメージした、レミーダと共に作ったスポンジケーキを黙々と焼き上げていた。
「ほんとにぼくたちのこと覚えてないの?」
「……ええ、私にとっては初対面です」
「んー、そっか。じゃあまたたくさん愛を伝えちゃうから覚悟しててね★」
「ふふっ、面白いことを仰いますね。初対面だというのに、まただなんて」
「……あはは、なんか初対面だって気がしないんだ。いつも太陽みたいに照らしてくれた女の子がどうしてもちらついちゃって。……ぼくらしくないな。いつだってぼくは博愛主義だ。全部受け入れて飲み干す。ちゃんと、あの子じゃなくてメリアおねえちゃんをしっかり愛さなきゃだよね!」
改めて気合いを入れるように笑顔を作り、メリアをぎゅっと抱きしめる。いつもの甘い香りは彼女にとっては新鮮な様子で、一瞬驚いた後に優しく抱きしめ返される。
「甘くて優しい匂いがしますね」
「うん、そういう体質だから。……匂い、前より濃くなってる。……おねえちゃんの、匂いがする」
二人で焼いて謝って回ったケーキすらすっかり忘れている様子で、一つ一つちぎって口に運ぶメリアの姿に胸が締め付けられる。匂いは別物どころかより濃く、その場に存在を知らしめているというのに。この状況を受け入れ愛して、メリアという少女にレミーダの面影を重ねずに接してこそ、誠実な愛であると、そうわかっているのに。
どうしてもよく見知った笑顔を思い浮かべてしまう。太陽のように明るくて、温かい笑顔。
「(だめだよ、ぼくは、みんなを愛さなきゃ。レミおねえちゃんも、メリアおねえちゃんも……別のポケモンなんだから……)」
ずきずき、胸が痛む感覚がする。あまりにも予想と違う結果に博愛をうたうシュガーすら、現実を受け止めたくない感情がふつふつと湧き上がる。
「大丈夫ですか?あまり体調が優れないように見えますが」
「ん?大丈夫!ぼくって丈夫だから★メリアおねえちゃんこそ、動けるようになったら色々と体を動かして元気になろうね!」
「……ええ、そうですね」
「……ところでさ、ぼくは"夢"があるんだ。世界一のパティシエになって、100年後、千年後もみんなが作って食べてくれる、そんなレシピを作るって夢」
「素敵な夢ですね。純粋で、幼くて、とても可愛らしい夢だと思います」
「……うん、90年分の人生で初めて見つけた夢。忘れられない最高のスイーツを、今も作れてると思ってた」
「90年?どう見てもあなたは……んん……?」
「……子供にも大人にも見えるでしょ。それがぼく。何色にも染まる完全なグレー。印象で年齢も性別も認識が変わるのが、ぼく」
先ほどとは違う大人びた落ち着いた声。それを聞いてメリアは不思議そうに目を丸くする。
「……ねぇ、メリアおねえちゃん。……きみの夢は、なんなのかな?」
ほんの少しだけ、震えた声で、それでもシュガーは真っ直ぐにメリアと視線を合わせて、どうしても聞かないといけない疑問をぶつけることにした。
お借りしました
メリアちゃん(illust/72236218)
シュガー(illust/74184331)
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2019-05-19 09:58
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