【PFAOS】不死身のジェイムズ【アステラ】
ココハ・イズコ漂流団【illust/78953748】に加入した元海賊
ピクファン奇譚【illust/79042918】で一つ小話でも
~船乗りたちの間で語られる「還れない海賊の話」~
ある時、東南海を荒らす海賊がいた。ここは大国の船が行き交う交易が盛んな海で、それ故に海賊にとって格好の狩場だった。
その日も海賊の船が獲物を求めて海に出たが、運悪く紫帝国の艦隊に見つかってしまった。勇ましい海賊たちにも多勢に無勢である。彼らを振り切るために船長は思い切って東に舵を切った。それは<深き海の地>と呼ばれる<ザラム>の方角だ。
海賊船は偏西風に乗り<ザラム>に近づく。すると船長の目論見通り、紫帝国の艦隊は遠く離れていった。彼らは<深き海の地>との接触を恐れたのだ。危機を脱した海賊たちだったが、ここは彼らにとっても未知の海である。早いところ帰路につきたいが、それより先に嵐が迫ってきた。
この程度の嵐は東南海でもよく遭遇するものだ。海賊たちはすぐに帆をたたんで嵐に耐えていたが、「ドスン」と船底を叩く音に海賊たちは顔を見合わせる。その衝撃が何度も続くため、彼らは外に出て荒れ狂う海に目を凝らした。
すると「それ」はいた。海面から黒い影が伸びてこちらを見ている。
「化け物……」
誰かが声を漏らした。それが聞こえたのかどうか黒い影は動き出し、船を激しく揺さぶる。体勢を崩した船員が何人か海に落ちた。
慌てふためく船員たちの中、船長のみが果敢に挑みかかった。その手には星光石の魔法を仕掛けた銛がある。海面から再び黒い影が現れたとき、首筋めがけてその銛を投じた。一瞬「バチリ」という音とともに稲光が走る。銛は化け物に突き刺さると、その場で雷の魔法を発したのだ。化け物の動きが鈍くなったのを確認した船長は、部下たちにも銛を持たせた。
それらは太い綱に繋がれた銛で、次々と化け物の体に突き刺さり動きを封じた。改めてその姿を確認してみると、体は鯨より大きく、それでいて細長く、表面は鱗に覆われている。頭部には小さく角があり見たことない生物だ。
「船長、こいつもしや海龍じゃないですか?」
「そうかも知れん。噂には聞いていたが初めて見たぜ」
海龍はだいぶ弱ったが、まだギラついた目でこちらを睨んでいる。船長は銃を用意させると、海龍の頭部に狙いを定めて数発放った。それきり海龍は動かなくなった。
「すごいぜ船長、海龍殺しだ!」
「海龍殺しか悪くねえな」
海賊たちは、海龍の死体を船の後部に繋いで持ち帰ることにした。いずれ腐るだろうがこの死体を見れば誰もが驚く。高値で買い取る者すらいるかもしれない。サメに喰われないよう見張りをつけると、船長は疲れを感じてベッドに倒れ込んだ。
夜中のことである。嵐は過ぎ去ったが、船長は部下に無理やり起こされると、甲板に上がり不思議なものを見た。
「……タコか?」
『そうです』
くぐもった声で応じたのはどう見てもタコだった。思いを声にするという不思議な貝『ツゲガイ』を足に掴んでいる。
『貴方がたの殺してしまわれた龍は、海底の主様の御子でした。御子は主様の目を盗み浅い海で泳いでいたところ、こちらの船にぶつかってしまったのです』
「……そうだったのか。それで仇討ちにでも来たのか?」
『いいえ、とんでもない。あの時、驚いた御子は貴方がたを傷つけてしまい申し訳ありませんでした。このたび参りましたのは、御子の遺体を引き取らせていただきたく、お願いに参ったのです』
「ほう……」
タコの申し出に感心した船長は少し考えようとした。だがその前に、部下がタコに向けてナイフを投じてしまった。
「ふざけるな、苦労して捕まえた獲物だぞ!」
「待て!」
ナイフはタコの腕に突き立つ。他の海賊たちも思わず武器を構えた。
『それが貴方がたの礼儀なのですね。後悔しますぞ』
タコは素早く海に飛び込む。ツゲガイだけがその場に残され、未だタコの思念を拾っていたのか「許しません……」と貝が唸った。船長は少し後悔したが、陸に海龍を持ち帰る魅力が捨てきれず、そのまま航海を続けた。
異変が起こったのは翌日である。甲板に出て朝日を拝もうとした海賊たちは、船の舳先に太陽の輝きを見て目を疑った。彼らは南回りに進み、西の海へ帰ろうとしているのだから、船が東を向いているはずがない。波に狂わされたかと転進するも、翌日の朝、再び太陽は舳先の海から顔を出した。
異常事態に気づいた海賊たちは星や月を注視して方位を確認した。何度も、何度も。だが気がつくと船は東に進んでいた。これは呪いか――彼らは憔悴し、食料も乏しくなった頃、再び嵐が迫る。今度の嵐はなかなか止まず、傷だらけの船はますます傷んでいく。
ふと船長は波間にタコの姿を見た気がした。すると船長は、船に繋がれた海龍の死体に駆け寄る。遅きに失したが死体を返そうと考えたのだ。しかし、そこにあったのは海龍の頭だけだった。船員が疲弊し見張りを怠った間にサメに喰われたか。船長は絶望して床板を蹴りつけたが、思いついたように部下を捕まえ、血走った目で顔を覗き込む。
「あのタコにナイフを投げたのはお前だったな?」
「ひっ……そうですけど」
「直に詫びてこい!」
その海賊は叫び声を上げる間もなく海に投げ込まれた。しばらく待ったが変化は無く、船長は「まだ足りないのか!」ともう何人か部下を海に放り込んだ。部下たちは恐れをなして船室に閉じこもり、船長は一人嵐に向かって叫び続ける。
ようやく嵐は止んだが、もう船の方角などわからない。船内では僅かに残った食料、硬い硬い『バノク』の奪い合いが起こっていた。飢えた海賊たちは普段の友誼を捨てて争い、中には転倒してバノクに頭を打ち付け死ぬ者までいた。最終的に勝利したのは、奪ったバノクで相手を尽く殴打し尽くした男だ。彼は血で染まったバノクに食いつくが噛み切れない。やむなく水でふやかそうとしたが、待つ間に別の船員に殺された。
船長は何日も食べておらず動く気力もない。船倉では生き残った船員が、死んだ仲間から切り刻んで飢えをしのいでいたが、船長のみはプライドのためか、そういったものには口をつけなかった。彼はただ甲板に佇み遠く海を眺める。するとその目が何かを見つけた。
「陸地か……?」
あれはどこだ。見知った場所ではない。船は東へ進んでいたはずだから……そこで船長の意識は途切れた。
その船の結末は誰も知らない。海賊たちのその後も。
◆お借りしました
マミッタさん【illust/79080054】
クリストさん【illust/78992327】
ロゴ素材【illust/78960098】
キャプ中
ツゲガイ【illust/79026182】
バノク【illust/78956950】
ピクファン奇譚【illust/79042918】で一つ小話でも
~船乗りたちの間で語られる「還れない海賊の話」~
ある時、東南海を荒らす海賊がいた。ここは大国の船が行き交う交易が盛んな海で、それ故に海賊にとって格好の狩場だった。
その日も海賊の船が獲物を求めて海に出たが、運悪く紫帝国の艦隊に見つかってしまった。勇ましい海賊たちにも多勢に無勢である。彼らを振り切るために船長は思い切って東に舵を切った。それは<深き海の地>と呼ばれる<ザラム>の方角だ。
海賊船は偏西風に乗り<ザラム>に近づく。すると船長の目論見通り、紫帝国の艦隊は遠く離れていった。彼らは<深き海の地>との接触を恐れたのだ。危機を脱した海賊たちだったが、ここは彼らにとっても未知の海である。早いところ帰路につきたいが、それより先に嵐が迫ってきた。
この程度の嵐は東南海でもよく遭遇するものだ。海賊たちはすぐに帆をたたんで嵐に耐えていたが、「ドスン」と船底を叩く音に海賊たちは顔を見合わせる。その衝撃が何度も続くため、彼らは外に出て荒れ狂う海に目を凝らした。
すると「それ」はいた。海面から黒い影が伸びてこちらを見ている。
「化け物……」
誰かが声を漏らした。それが聞こえたのかどうか黒い影は動き出し、船を激しく揺さぶる。体勢を崩した船員が何人か海に落ちた。
慌てふためく船員たちの中、船長のみが果敢に挑みかかった。その手には星光石の魔法を仕掛けた銛がある。海面から再び黒い影が現れたとき、首筋めがけてその銛を投じた。一瞬「バチリ」という音とともに稲光が走る。銛は化け物に突き刺さると、その場で雷の魔法を発したのだ。化け物の動きが鈍くなったのを確認した船長は、部下たちにも銛を持たせた。
それらは太い綱に繋がれた銛で、次々と化け物の体に突き刺さり動きを封じた。改めてその姿を確認してみると、体は鯨より大きく、それでいて細長く、表面は鱗に覆われている。頭部には小さく角があり見たことない生物だ。
「船長、こいつもしや海龍じゃないですか?」
「そうかも知れん。噂には聞いていたが初めて見たぜ」
海龍はだいぶ弱ったが、まだギラついた目でこちらを睨んでいる。船長は銃を用意させると、海龍の頭部に狙いを定めて数発放った。それきり海龍は動かなくなった。
「すごいぜ船長、海龍殺しだ!」
「海龍殺しか悪くねえな」
海賊たちは、海龍の死体を船の後部に繋いで持ち帰ることにした。いずれ腐るだろうがこの死体を見れば誰もが驚く。高値で買い取る者すらいるかもしれない。サメに喰われないよう見張りをつけると、船長は疲れを感じてベッドに倒れ込んだ。
夜中のことである。嵐は過ぎ去ったが、船長は部下に無理やり起こされると、甲板に上がり不思議なものを見た。
「……タコか?」
『そうです』
くぐもった声で応じたのはどう見てもタコだった。思いを声にするという不思議な貝『ツゲガイ』を足に掴んでいる。
『貴方がたの殺してしまわれた龍は、海底の主様の御子でした。御子は主様の目を盗み浅い海で泳いでいたところ、こちらの船にぶつかってしまったのです』
「……そうだったのか。それで仇討ちにでも来たのか?」
『いいえ、とんでもない。あの時、驚いた御子は貴方がたを傷つけてしまい申し訳ありませんでした。このたび参りましたのは、御子の遺体を引き取らせていただきたく、お願いに参ったのです』
「ほう……」
タコの申し出に感心した船長は少し考えようとした。だがその前に、部下がタコに向けてナイフを投じてしまった。
「ふざけるな、苦労して捕まえた獲物だぞ!」
「待て!」
ナイフはタコの腕に突き立つ。他の海賊たちも思わず武器を構えた。
『それが貴方がたの礼儀なのですね。後悔しますぞ』
タコは素早く海に飛び込む。ツゲガイだけがその場に残され、未だタコの思念を拾っていたのか「許しません……」と貝が唸った。船長は少し後悔したが、陸に海龍を持ち帰る魅力が捨てきれず、そのまま航海を続けた。
異変が起こったのは翌日である。甲板に出て朝日を拝もうとした海賊たちは、船の舳先に太陽の輝きを見て目を疑った。彼らは南回りに進み、西の海へ帰ろうとしているのだから、船が東を向いているはずがない。波に狂わされたかと転進するも、翌日の朝、再び太陽は舳先の海から顔を出した。
異常事態に気づいた海賊たちは星や月を注視して方位を確認した。何度も、何度も。だが気がつくと船は東に進んでいた。これは呪いか――彼らは憔悴し、食料も乏しくなった頃、再び嵐が迫る。今度の嵐はなかなか止まず、傷だらけの船はますます傷んでいく。
ふと船長は波間にタコの姿を見た気がした。すると船長は、船に繋がれた海龍の死体に駆け寄る。遅きに失したが死体を返そうと考えたのだ。しかし、そこにあったのは海龍の頭だけだった。船員が疲弊し見張りを怠った間にサメに喰われたか。船長は絶望して床板を蹴りつけたが、思いついたように部下を捕まえ、血走った目で顔を覗き込む。
「あのタコにナイフを投げたのはお前だったな?」
「ひっ……そうですけど」
「直に詫びてこい!」
その海賊は叫び声を上げる間もなく海に投げ込まれた。しばらく待ったが変化は無く、船長は「まだ足りないのか!」ともう何人か部下を海に放り込んだ。部下たちは恐れをなして船室に閉じこもり、船長は一人嵐に向かって叫び続ける。
ようやく嵐は止んだが、もう船の方角などわからない。船内では僅かに残った食料、硬い硬い『バノク』の奪い合いが起こっていた。飢えた海賊たちは普段の友誼を捨てて争い、中には転倒してバノクに頭を打ち付け死ぬ者までいた。最終的に勝利したのは、奪ったバノクで相手を尽く殴打し尽くした男だ。彼は血で染まったバノクに食いつくが噛み切れない。やむなく水でふやかそうとしたが、待つ間に別の船員に殺された。
船長は何日も食べておらず動く気力もない。船倉では生き残った船員が、死んだ仲間から切り刻んで飢えをしのいでいたが、船長のみはプライドのためか、そういったものには口をつけなかった。彼はただ甲板に佇み遠く海を眺める。するとその目が何かを見つけた。
「陸地か……?」
あれはどこだ。見知った場所ではない。船は東へ進んでいたはずだから……そこで船長の意識は途切れた。
その船の結末は誰も知らない。海賊たちのその後も。
◆お借りしました
マミッタさん【illust/79080054】
クリストさん【illust/78992327】
ロゴ素材【illust/78960098】
キャプ中
ツゲガイ【illust/79026182】
バノク【illust/78956950】
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2020-02-02 16:01
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