博多市

抱ける女とそうでない女は、酒を飲ませればわかる。それが牧原卓司の持論である。
目の前の女は明らかに前者だった。
「いや〜、牧原先輩って、話が面白いし、気が利くから好きだな〜♪」
「そんなことないってば」
牧原の眼の前で微笑しているこの女は、小野寺麻希である。彼が所属している天文サークルの後輩で、気立てがよく明るいムードメーカーとして男女ともに人気者だ。今日の学園祭の打ち上げでも、彼女を中心に皆が盛り上がっていた。
こういう快活な女の子に限って意外と初心だったりするのだが、彼女はその部類ではないようだ。牧原が振る軽い下ネタにも動じず、ノリよく笑い転げている。スキンシップも積極的だ。
「ねえ、牧原先輩って、彼女いるんですか?」
「……どっちだと思う?」
「うーん…….いないと思う!」
麻希が人差し指を顎に当てて可愛らしく首を傾げる。
「ははは、何だよそれ。ひどいなぁ。まあ正解だけどさ」
「やっぱり!私もね、実はフリーなんだ〜」
少し照れながら麻希は言った。
やはり、と思った。この子は見た目通り軽い子なのだ。誰にでもこんな調子で付き合うのだろう。だがしかし、そんなことを言えば、自分だって同じだ。自分は別に軽くはないつもりだが、女性と見ればとりあえず口説いてみるという癖がついてしまっている。
それにしても、この子はずいぶん可愛いな、とも思う。胸が大きい。そして顔もかなり可愛い。化粧をしているのかしていないのかわからないようなナチュラルメイクだが、それが逆にいい味を出している。肌の色も綺麗だし、スタイルもいい。どこを取ってみても申し分がない。
牧原が彼女を値踏みするように眺めると、彼女は何かを感じ取ったように上目遣いをした。「あのさ」頃合いを見て牧原は切り出した。「二人で抜け出さない?」
牧原の予想通り、麻希はそれを聞くとわざとらしく苦笑いした。男を焦らすことを知っている女の顔だ。
「え〜、私、そんなに安い女じゃないですよ?もっといい条件出してくれないと嫌ですねぇ」
「わかった、じゃあ、こうしよう」
牧原は彼女の耳元に口を近づけた。「隣駅にあるホテルのケーキバイキング。これでどう?」
麻希は驚いたように一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を取り繕い、「わぁお」と言って楽しげに笑う。「でも、先輩なら良いかな」
そう言って彼女は立ち上がった。
二人は連れ立って歩き始めた。

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