岡に寄せ我が刈る萱のさね萱の
今日も好文木本丸の三日月宗近は、徘徊…もとい、迷走していた。
「うぉおおおっっ! 打倒カラス!」
手には金槌と釘、頭に巻いた手拭いにはロウソク、怨嗟のこもった叫びを上げ、本丸裏の夜の森へ走って行こうとする天下五剣。
「待て待て待て──っ!!!」
「止めるな、膝枕!」
「俺は膝丸だっ」
うっかり見つけてしまった生真面目な源氏の重宝はとびついて、必死に止める。
暴走する気持ちは多少解らないでもない。
三日月が実の娘のように可愛がっている、同位体が捨てた半神半人の「暁月」という幼女…主である好文木が妹として保護している子どもを、横からかっさらっていった刀剣の父「小烏丸」に恨みを持つのは。事情が事情なので三日月がなかなか距離を縮められないでいるうちに、父力をぞんぶんに発揮し、子どもウケする贈り物や遊びで娘の心を掴んでしまった小烏丸は、油揚げをかっさらった泥棒カラスも同然だろう。
つい先日は、暁月を膝に抱いて焼き菓子を「あーん」するという、裏山…もとい羨ましい光景を見せつけられた。
「俺ですらまだやっていないのに! 俺だって膝枕とかして欲しい!」
大人げなく地団駄踏んで悔しがる平安生まれ。また小烏丸も事情は解ってるくせに「父とはこういうものだ」と手本を見せるような行動をするから余計にムカつく。絶対煽ってるだろう、アレは。
「しかし、いくら腹立たしくても呪うのはいかんぞ。手合わせや殴り合いなら立ち会い人になってやるから、とにかく落ち着け」
同じ本丸の仲間でもあるのだし。平安生まれの呪いは洒落にならない、とにかくやめろと膝丸がしがみつけば、三日月は
「何を言っているのだ? 俺がやりたいのは」
答えを聞いた膝丸の顎がカクンと落ちた。
・・・・・
三日後。
本丸を訪れた暁月を、ヨレヨレにやつれ真っ赤な疲労印をくっつけた三日月が裏庭に案内した。
「わあっ!」
少女の瞳が輝く。
そこにあったのは、彼女が大好きななめ太郎型の「アスレチックハウス」……ジャングルジム、滑り台、登り棒、その他を詰め込んだ遊具だった。
小さな子どもに楽しく遊んでもらいたいという想いを込めて、一から手作りされた逸品である。そう、金槌や釘はその為の道具だったのだ。
「すごいすごーい!」
「さあ、遊んでくれ。お前のために作ったのだ」
「ありがとう!」
さっそくなめ太郎達とともに遊び始める暁月。その喜ぶ顔をみて、ほっと安心した三日月は……ぶっ倒れた。
「お前、…馬鹿か」
親馬鹿にもほどがあるヘロヘロになった男を担ぎ、とりあえず裏庭が見える縁側に転がして、膝丸は掛けるものを取りに部屋へ向かった。
3日も不眠不休でアスレチックハウスを建造していたのだ。しかも誰の手も借りず、ひとりで。そりゃ倒れるだろう。
「ほほ、かわいらしいの」
膝丸が立ち去った後、なめこアスレチックで遊ぶ子らを眺めて、誰かが呟いた。
岡に寄せ 我が刈る萱(かや)の さね萱(かや)の まことなごやは 寝ろとへなかも
・・・・
ひとしきり楽しく遊んだ後、暁月はお礼を言うべく三日月を探した。
「あれ? いない」
「んふ!」
通りがかった薄緑の髪の刀剣男士は、ふわふわの温かそうな毛布と枕を抱えていた。
「んふーヽ(^0^)ノ」
なめすけが足下に駆け寄っていくと、彼は優しい声で暁月達に話しかけた。
「いいところに来た。うむ、俺はちと用があるから、これを縁側で寝ている三日月のところに持って行ってやって欲しい」
「これを?」
キョトンとする暁月。
「そうだ。実は…」
「頼んだぞ」
ぽん、となめすけに毛布を渡すと、「まかせろ」と受け止める。暁月も枕を受け取って、言われたとおり縁側へと歩き出した。
くしゃん、と小さなくしゃみの声が聞こえて覗いてみれば、誰かが持ってきたらしい座布団を枕にし、薄いタオルケットを掛けた三日月が縁側の板の上に寝転がっていた。
「さむそう…」
既に11月。ひなたは温かいとはいえ、薄いタオルケットだけでは肌寒い。
「んふんふ」
なめ太郎となめすけが両手で支えて運んできた毛布を、暁月はそっと三日月の上に掛ける。
これで温かいはず。
「……へっくしっ」
またくしゃみ。
アスレチックハウスを作る為に三日三晩も休まずひとりで働いていたのだと、薄緑のひとに聞いた。そのせいだろう、ひどくやつれて、目元などクマができている。
「んふ?」
ぽんぽん、となめ藤が三日月の毛布の端を叩いた。
「うん、そうだね」
暁月はうなずく。
──ちょっとへんだけど、やさしいこのひとがくれた「おかえし」をしなくちゃ。
滑り台も、ジャングルジムも、とっても楽しかった。なめ太郎の形の「家」にしてくれたのも、うれしかった。
いつでもいっしょうけんめいに、暁月のためにはたらいてくれた。
「んふんふ(お礼)」
「んふ」
なめ太郎の言葉に、暁月はこくりと頷いた。
・・・・・
「おや」
しばらくして、ふきさらしの縁側で転がっている「子」の為に毛布を持ってきた刀剣の父は唇の端を引き上げる。
「仲の良いことだのう」
枕を並べてひとつ毛布にくるまり、やすらかに昼寝をしている三日月と暁月、それになめ太郎なめすけなめ藤たち。
まるで家族のような光景がそこにあった。
「此度は先んじられたか…。ほほ、よきかな、よきかな」
そっと毛布を一枚足し、微笑みながら「父」は「子ら」を温かく見守ったのだった。
かの子ろと 寝ずやなりなむ はだすすき 宇良野の山に 月片寄るも
・・・・・
・・・・
・・
(オマケ)
岡に寄せ我が刈る萱(かや)のさね萱(かや)の まことなごやは寝ろとへなかも
出典:万葉集
作者:詠み人知らず
意訳:岡に引き寄せて私が刈る萱(かや)の、その萱(かや)のようにほんとうに柔らかなあの娘はなかなか「寝ましょう」とは言わないのだよね。
かの子ろと 寝ずやなりなむ はだすすき 宇良野の山に 月片寄るも
出典:万葉集
作者:詠み人知らず
意訳:今夜はあの子と一緒に寝ることができないままになってしまうのでしょうか。宇良野(うらの)の山に月(つき)が傾いています。
萱(カヤ)と薄(ススキ)は同じ植物。「寝る」繋がりでチョイスしてみました。
可愛い娘の為に寝る間も惜しんで頑張る三日月パパ。方向性が迷走してるのはもはやデフォルトですか…(*ノ∀゚*)アハッ 今回はその努力、少しは報われたかな?
父上は悪気は無いんですが、迷走してる子を面白がって煽る悪戯好きのカラスです。「月が傾く」に暁月の気持ちがみかパパに傾いたのをみてとった残念な気持ちに重ねてみました。まあ、どっちも「子」なので、父上にとっては結果オーライなんですが。(^▽^)
「うぉおおおっっ! 打倒カラス!」
手には金槌と釘、頭に巻いた手拭いにはロウソク、怨嗟のこもった叫びを上げ、本丸裏の夜の森へ走って行こうとする天下五剣。
「待て待て待て──っ!!!」
「止めるな、膝枕!」
「俺は膝丸だっ」
うっかり見つけてしまった生真面目な源氏の重宝はとびついて、必死に止める。
暴走する気持ちは多少解らないでもない。
三日月が実の娘のように可愛がっている、同位体が捨てた半神半人の「暁月」という幼女…主である好文木が妹として保護している子どもを、横からかっさらっていった刀剣の父「小烏丸」に恨みを持つのは。事情が事情なので三日月がなかなか距離を縮められないでいるうちに、父力をぞんぶんに発揮し、子どもウケする贈り物や遊びで娘の心を掴んでしまった小烏丸は、油揚げをかっさらった泥棒カラスも同然だろう。
つい先日は、暁月を膝に抱いて焼き菓子を「あーん」するという、裏山…もとい羨ましい光景を見せつけられた。
「俺ですらまだやっていないのに! 俺だって膝枕とかして欲しい!」
大人げなく地団駄踏んで悔しがる平安生まれ。また小烏丸も事情は解ってるくせに「父とはこういうものだ」と手本を見せるような行動をするから余計にムカつく。絶対煽ってるだろう、アレは。
「しかし、いくら腹立たしくても呪うのはいかんぞ。手合わせや殴り合いなら立ち会い人になってやるから、とにかく落ち着け」
同じ本丸の仲間でもあるのだし。平安生まれの呪いは洒落にならない、とにかくやめろと膝丸がしがみつけば、三日月は
「何を言っているのだ? 俺がやりたいのは」
答えを聞いた膝丸の顎がカクンと落ちた。
・・・・・
三日後。
本丸を訪れた暁月を、ヨレヨレにやつれ真っ赤な疲労印をくっつけた三日月が裏庭に案内した。
「わあっ!」
少女の瞳が輝く。
そこにあったのは、彼女が大好きななめ太郎型の「アスレチックハウス」……ジャングルジム、滑り台、登り棒、その他を詰め込んだ遊具だった。
小さな子どもに楽しく遊んでもらいたいという想いを込めて、一から手作りされた逸品である。そう、金槌や釘はその為の道具だったのだ。
「すごいすごーい!」
「さあ、遊んでくれ。お前のために作ったのだ」
「ありがとう!」
さっそくなめ太郎達とともに遊び始める暁月。その喜ぶ顔をみて、ほっと安心した三日月は……ぶっ倒れた。
「お前、…馬鹿か」
親馬鹿にもほどがあるヘロヘロになった男を担ぎ、とりあえず裏庭が見える縁側に転がして、膝丸は掛けるものを取りに部屋へ向かった。
3日も不眠不休でアスレチックハウスを建造していたのだ。しかも誰の手も借りず、ひとりで。そりゃ倒れるだろう。
「ほほ、かわいらしいの」
膝丸が立ち去った後、なめこアスレチックで遊ぶ子らを眺めて、誰かが呟いた。
岡に寄せ 我が刈る萱(かや)の さね萱(かや)の まことなごやは 寝ろとへなかも
・・・・
ひとしきり楽しく遊んだ後、暁月はお礼を言うべく三日月を探した。
「あれ? いない」
「んふ!」
通りがかった薄緑の髪の刀剣男士は、ふわふわの温かそうな毛布と枕を抱えていた。
「んふーヽ(^0^)ノ」
なめすけが足下に駆け寄っていくと、彼は優しい声で暁月達に話しかけた。
「いいところに来た。うむ、俺はちと用があるから、これを縁側で寝ている三日月のところに持って行ってやって欲しい」
「これを?」
キョトンとする暁月。
「そうだ。実は…」
「頼んだぞ」
ぽん、となめすけに毛布を渡すと、「まかせろ」と受け止める。暁月も枕を受け取って、言われたとおり縁側へと歩き出した。
くしゃん、と小さなくしゃみの声が聞こえて覗いてみれば、誰かが持ってきたらしい座布団を枕にし、薄いタオルケットを掛けた三日月が縁側の板の上に寝転がっていた。
「さむそう…」
既に11月。ひなたは温かいとはいえ、薄いタオルケットだけでは肌寒い。
「んふんふ」
なめ太郎となめすけが両手で支えて運んできた毛布を、暁月はそっと三日月の上に掛ける。
これで温かいはず。
「……へっくしっ」
またくしゃみ。
アスレチックハウスを作る為に三日三晩も休まずひとりで働いていたのだと、薄緑のひとに聞いた。そのせいだろう、ひどくやつれて、目元などクマができている。
「んふ?」
ぽんぽん、となめ藤が三日月の毛布の端を叩いた。
「うん、そうだね」
暁月はうなずく。
──ちょっとへんだけど、やさしいこのひとがくれた「おかえし」をしなくちゃ。
滑り台も、ジャングルジムも、とっても楽しかった。なめ太郎の形の「家」にしてくれたのも、うれしかった。
いつでもいっしょうけんめいに、暁月のためにはたらいてくれた。
「んふんふ(お礼)」
「んふ」
なめ太郎の言葉に、暁月はこくりと頷いた。
・・・・・
「おや」
しばらくして、ふきさらしの縁側で転がっている「子」の為に毛布を持ってきた刀剣の父は唇の端を引き上げる。
「仲の良いことだのう」
枕を並べてひとつ毛布にくるまり、やすらかに昼寝をしている三日月と暁月、それになめ太郎なめすけなめ藤たち。
まるで家族のような光景がそこにあった。
「此度は先んじられたか…。ほほ、よきかな、よきかな」
そっと毛布を一枚足し、微笑みながら「父」は「子ら」を温かく見守ったのだった。
かの子ろと 寝ずやなりなむ はだすすき 宇良野の山に 月片寄るも
・・・・・
・・・・
・・
(オマケ)
岡に寄せ我が刈る萱(かや)のさね萱(かや)の まことなごやは寝ろとへなかも
出典:万葉集
作者:詠み人知らず
意訳:岡に引き寄せて私が刈る萱(かや)の、その萱(かや)のようにほんとうに柔らかなあの娘はなかなか「寝ましょう」とは言わないのだよね。
かの子ろと 寝ずやなりなむ はだすすき 宇良野の山に 月片寄るも
出典:万葉集
作者:詠み人知らず
意訳:今夜はあの子と一緒に寝ることができないままになってしまうのでしょうか。宇良野(うらの)の山に月(つき)が傾いています。
萱(カヤ)と薄(ススキ)は同じ植物。「寝る」繋がりでチョイスしてみました。
可愛い娘の為に寝る間も惜しんで頑張る三日月パパ。方向性が迷走してるのはもはやデフォルトですか…(*ノ∀゚*)アハッ 今回はその努力、少しは報われたかな?
父上は悪気は無いんですが、迷走してる子を面白がって煽る悪戯好きのカラスです。「月が傾く」に暁月の気持ちがみかパパに傾いたのをみてとった残念な気持ちに重ねてみました。まあ、どっちも「子」なので、父上にとっては結果オーライなんですが。(^▽^)
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3021
2022-12-04 20:30
Comments (6)
三日月様!お疲れ様でした。やっと暁月ちゃんの距離は少し減ったね。
View Replies可愛い話ありがとうございます☺あの呪いをばら撒くった暁月ちゃんが、一年後素直で優しい子に育てられました…本当に、好文木くんと本丸の刀剣男士達すごいです。 🤣三日月という刀剣男士はよく徘徊老人と言われますけど、みかパパはリアル徘徊ではなくメンタル迷走してしまうwww
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