君が千年のかざしとぞ見る
師走の十日。いつものように暁月は好文木本丸に招かれた。
大広間に案内されると、一斉に鳴らされるクラッカー。舞い散る紙吹雪の中、可愛らしいとんがり帽子がかぶせられる。
「んふんふ」
「んふっ!」
腕に抱いたなめ太郎達も、きょときょとと挙動不審だ。
最前列のテーブルには、切り株型のケーキ。いわゆるブッシュドノエルというケーキっぽいが、上に乗っている3つのチョコはなめ太郎達を模したもの。どう見てもキノコの原木だ。
小さなロウソクは、暁月の年の数だけ。ゆらめく炎はあたたかく、きらきらと煌めいている。
「さあ、吹き消して」
好文木に促され、暁月はふうっと息をロウソクに吹きかけた。
ぱちぱちと拍手が巻き起こる。
大広間に集まった何十振りもの神さま達が、祝福してくれているのだ。
「あかつき、おたんじょうび、おめでとう!」
「めでたいねえっ、さあ呑め!」
「さあさあ、君の為に腕をふるったんだよ。カッコよくできているかな」
「雅な料理も味わってほしいよ」
お人好しな神さま達。呪ったのに、ひどいめにあわせたのに。全部ゆるして、あたたかくむかえ入れてくれた。花街に居た頃よく見かけた、よその本丸のカミサマたちとはぜんぜんちがう。暁月を冷たい目で見ない。嫌わない。いやなことばをかけない。なんてあたたかくて、やさしいんだろう。
ほろりと、胸があたたかくなる。
「暁月よ。俺からの贈り物を受け取ってくれるか?」
お誕生席に座る暁月のところに、真っ先にやってきたのは、いつも変ななめこのかぶりものをかぶっていた、青い衣のひと。
また、なめ太郎そっくりな水ようかんとかだろうか、と暁月はドキリとした。あれはちょっと食べるのがこわかった。
でも、紫の柔らかな布にくるまれた桐箱を、大事そうに差し出されて。暁月は受け取った。
「開けてくれ」
「う、うん……?」
桐箱の中身は。彼の頭に付いているのとよく似た、金色の房のついた髪飾りだった。
「ほぉっ。すごいねぇ、三日月の手作りか。付けてあげてくれる?」
お兄ちゃんに言われ、暁月はカチューシャのような髪飾りを頭につけた。しゃらりと揺れる、金の房。
「にあう……?」
こんな、キラキラしたきれいな飾り、つけたことがない。花街のおねえさん達はいっぱい持っていたけれど。おしゃれなんて、見捨てられていた自分には遠い世界の話だった。
「うっ……」
青い衣のひとは、ひと声うめいてばったり倒れた。
「おいっ、三日月!?」
慌てて好文木が抱き起こすが、安らかな表情で寝ているだけのようだった。
「まーた、てつやしてつくっていたからですね。まったく、三日月はばかです」
軽々と自分より大きな三日月さんを担ぎ上げて、今剣(極)が広間の隅に寝かせに行く。その表情はとても愛おしげで、楽しそうだった。
「んふ」
なめ藤が、彼女の頬をぷにぷにと撫でる。
よかったね、となめすけが彼女の腕に手を絡める。
「んふんふ」
なめ太郎が、彼女の髪飾りの金の房に、そっと触れる。「努力を認める」とちょっぴり悔しそうに。
好文木が暁月の目をまっすぐにのぞきこみ、両肩に手を置いて抱き寄せた。
「暁月、産まれてきてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。家族になってくれて、ありがとう。俺は……暁月がここにいてくれて幸せだよ」
ポロッと涙がこぼれた。
「うれしい、な」
自分が生まれた日を、いわってくれる。よろこんでくれる。それだけのことが、こんなにもあったかくてふわふわした、気持ちいいことなんだと。初めて知った。
──あかつきばかり 憂きものはなし、よ。お前なんか産まなきゃよかった!
金切り声とぶたれた頬の痛みを覚えている。薄暗くてカビくさい物置部屋の寒さと、ひもじいお腹を覚えている。どす黒い、どろどろした呪いが体中を満たしていく感覚は、一生、忘れられない。
でも。
今は「お兄ちゃん」がいる。やさしいカミサマ達がいる。
きゅっと、お兄ちゃんの羽織の裾を握って、暁月は想う。
この温もりがあるかぎり、世界に生まれたことを呪う日は来ないだろう。と。
春くれば宿にまづ咲く梅の花 君が千年のかざしとぞ見る
・・・・
・・・
・
(オマケ)
「春くれば宿にまづ咲く梅の花 君が千年のかざしとぞ見る」
出典:万葉集
作者:紀貫之
意訳:春の季節になれば、宿に先ず咲く梅の花。君の千歳の時の髪飾りと思い見ています
暁月ちゃんのお誕生日ネタ、パーティ本番のお話です。三日月さんが掲示板で教えてもらったプレゼント案は「髪飾り」でした。なにげに自分のとよく似たのにしたのは、もちろん独占欲ですね。実は筆者がイメージしていた「お揃いの髪飾り」は「金の房」ではなく「花」のついた方(つまりみかパパも花の髪飾りをする)だったんですが……絵師さんの描いて下さった「三日月バージョン暁月ちゃん」が可愛いかったので、あえてこっちで。
千歳は本当に千年生きてというわけじゃなく、長生きをして欲しいという祝いの気持ちの表現です。梅の別名は好文木。梅の花の「かざし」で髪飾り繋がりです。お兄ちゃん(梅の花)が傍に居る限り、暁月ちゃんが闇に呑まれることは無いですよね。
ちなみに、本日は筆者の娘の誕生日でもあります。暁月ちゃんの名前は娘の名前をちょっともじって考えました。(^▽^) 筆者の執筆活動には塩対応ですが、たまにネタをくれる良い子です。筆者の持病のため、産むか産まないかで悩んだこともありましたが、無事に生まれて来てくれてありがとう。HAPPY BIRTHDAY!
大広間に案内されると、一斉に鳴らされるクラッカー。舞い散る紙吹雪の中、可愛らしいとんがり帽子がかぶせられる。
「んふんふ」
「んふっ!」
腕に抱いたなめ太郎達も、きょときょとと挙動不審だ。
最前列のテーブルには、切り株型のケーキ。いわゆるブッシュドノエルというケーキっぽいが、上に乗っている3つのチョコはなめ太郎達を模したもの。どう見てもキノコの原木だ。
小さなロウソクは、暁月の年の数だけ。ゆらめく炎はあたたかく、きらきらと煌めいている。
「さあ、吹き消して」
好文木に促され、暁月はふうっと息をロウソクに吹きかけた。
ぱちぱちと拍手が巻き起こる。
大広間に集まった何十振りもの神さま達が、祝福してくれているのだ。
「あかつき、おたんじょうび、おめでとう!」
「めでたいねえっ、さあ呑め!」
「さあさあ、君の為に腕をふるったんだよ。カッコよくできているかな」
「雅な料理も味わってほしいよ」
お人好しな神さま達。呪ったのに、ひどいめにあわせたのに。全部ゆるして、あたたかくむかえ入れてくれた。花街に居た頃よく見かけた、よその本丸のカミサマたちとはぜんぜんちがう。暁月を冷たい目で見ない。嫌わない。いやなことばをかけない。なんてあたたかくて、やさしいんだろう。
ほろりと、胸があたたかくなる。
「暁月よ。俺からの贈り物を受け取ってくれるか?」
お誕生席に座る暁月のところに、真っ先にやってきたのは、いつも変ななめこのかぶりものをかぶっていた、青い衣のひと。
また、なめ太郎そっくりな水ようかんとかだろうか、と暁月はドキリとした。あれはちょっと食べるのがこわかった。
でも、紫の柔らかな布にくるまれた桐箱を、大事そうに差し出されて。暁月は受け取った。
「開けてくれ」
「う、うん……?」
桐箱の中身は。彼の頭に付いているのとよく似た、金色の房のついた髪飾りだった。
「ほぉっ。すごいねぇ、三日月の手作りか。付けてあげてくれる?」
お兄ちゃんに言われ、暁月はカチューシャのような髪飾りを頭につけた。しゃらりと揺れる、金の房。
「にあう……?」
こんな、キラキラしたきれいな飾り、つけたことがない。花街のおねえさん達はいっぱい持っていたけれど。おしゃれなんて、見捨てられていた自分には遠い世界の話だった。
「うっ……」
青い衣のひとは、ひと声うめいてばったり倒れた。
「おいっ、三日月!?」
慌てて好文木が抱き起こすが、安らかな表情で寝ているだけのようだった。
「まーた、てつやしてつくっていたからですね。まったく、三日月はばかです」
軽々と自分より大きな三日月さんを担ぎ上げて、今剣(極)が広間の隅に寝かせに行く。その表情はとても愛おしげで、楽しそうだった。
「んふ」
なめ藤が、彼女の頬をぷにぷにと撫でる。
よかったね、となめすけが彼女の腕に手を絡める。
「んふんふ」
なめ太郎が、彼女の髪飾りの金の房に、そっと触れる。「努力を認める」とちょっぴり悔しそうに。
好文木が暁月の目をまっすぐにのぞきこみ、両肩に手を置いて抱き寄せた。
「暁月、産まれてきてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。家族になってくれて、ありがとう。俺は……暁月がここにいてくれて幸せだよ」
ポロッと涙がこぼれた。
「うれしい、な」
自分が生まれた日を、いわってくれる。よろこんでくれる。それだけのことが、こんなにもあったかくてふわふわした、気持ちいいことなんだと。初めて知った。
──あかつきばかり 憂きものはなし、よ。お前なんか産まなきゃよかった!
金切り声とぶたれた頬の痛みを覚えている。薄暗くてカビくさい物置部屋の寒さと、ひもじいお腹を覚えている。どす黒い、どろどろした呪いが体中を満たしていく感覚は、一生、忘れられない。
でも。
今は「お兄ちゃん」がいる。やさしいカミサマ達がいる。
きゅっと、お兄ちゃんの羽織の裾を握って、暁月は想う。
この温もりがあるかぎり、世界に生まれたことを呪う日は来ないだろう。と。
春くれば宿にまづ咲く梅の花 君が千年のかざしとぞ見る
・・・・
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・
(オマケ)
「春くれば宿にまづ咲く梅の花 君が千年のかざしとぞ見る」
出典:万葉集
作者:紀貫之
意訳:春の季節になれば、宿に先ず咲く梅の花。君の千歳の時の髪飾りと思い見ています
暁月ちゃんのお誕生日ネタ、パーティ本番のお話です。三日月さんが掲示板で教えてもらったプレゼント案は「髪飾り」でした。なにげに自分のとよく似たのにしたのは、もちろん独占欲ですね。実は筆者がイメージしていた「お揃いの髪飾り」は「金の房」ではなく「花」のついた方(つまりみかパパも花の髪飾りをする)だったんですが……絵師さんの描いて下さった「三日月バージョン暁月ちゃん」が可愛いかったので、あえてこっちで。
千歳は本当に千年生きてというわけじゃなく、長生きをして欲しいという祝いの気持ちの表現です。梅の別名は好文木。梅の花の「かざし」で髪飾り繋がりです。お兄ちゃん(梅の花)が傍に居る限り、暁月ちゃんが闇に呑まれることは無いですよね。
ちなみに、本日は筆者の娘の誕生日でもあります。暁月ちゃんの名前は娘の名前をちょっともじって考えました。(^▽^) 筆者の執筆活動には塩対応ですが、たまにネタをくれる良い子です。筆者の持病のため、産むか産まないかで悩んだこともありましたが、無事に生まれて来てくれてありがとう。HAPPY BIRTHDAY!
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2022-12-10 12:00
Comments (6)
娘さんも、暁月ちゃんも、お誕生日おめでとうございます(❁ ´ ▽ ` ❁)これからもいっぱい幸せになりますように! 花はあれですね、軽装の方の髪飾りですね、今度また別の話に描いてみます!
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