春色クレープ日和
春の陽射しが街並みに降り注ぐ午後、制服姿の少女たちが歩くその中に、普段とは少し様子の違う二人がいた。
一人は、つい先日まで大人の女性として仕事をしていた彼女。彼女はとある事情により、凛から渡された若返りの霊薬の効果によって、今は凛や桜たちと同じ年代の姿に戻っていた。彼女はもともと穂村原学園の卒業生だ。彼女にとってはその制服が懐かしい気持ちの中微笑んでいる。
もう一人はアルトリア・ペンドラゴン。凛に「彼女とお揃いにしたいでしょ?制服の予備があるから、着てきなさいよ」と言われ、素直に従った結果、彼女も見慣れぬ制服姿で現れた。ブラウスにリボンタイ、そして金髪をリボンでまとめたその姿は、まるで昔からこの場にいたかのような自然さだった。
♢
「せっかくだから、何か食べましょうよ」
凛のそんな一言に、空気がふわりと華やぐ。
「あ! あれ!」
彼女が元気よく指差した先には、小さなクレープ屋の屋台があった。
「ねえねえ、クレープ食べようよ。私、制服でクレープ食べたことないの!」
その目はキラキラと輝いていた。初めての放課後に心躍らせる少女のように。
「クレープ……食べたことがないのですが、彩り豊かで美味しそうですね」
アルトリアがメニューを見つめながら、少し目を丸くして呟く。隣で桜も微笑みながら言葉を添えた。
「私も最近食べてませんでした。姉さん、食べませんか?」
「そうね、賛成。ここのは生地がもちもちでおいしいのよ」
四人はクレープ屋の前に並び、それぞれの目がメニューへと吸い寄せられた。
甘い香りに包まれた屋台の前は、まさに誘惑の宝庫だった。
「うーん……チョコバナナもいいけど、抹茶クリームも……あっ、いちごチーズもある!」
彼女はメニュー表を指でなぞりながら、次々に気になる品を口にしていく。
選びきれない──というより、全部食べたい、そんな表情で目を輝かせていた。
「……これは、難しいですね」
隣でアルトリアも真剣な表情でメニューを凝視していた。
いちごに生クリーム、アイスの乗ったもの、カスタードたっぷりの甘いタイプから、ツナやチーズを包んだおかず系まで、目移りするほどの種類。
「この『抹茶と黒蜜の和風クレープ』も気になりますが……でも『チョコバナナスペシャル』も外せないような……」
彼女とアルトリア、二人して前のめりになりながら悩む姿は、まるで同じ感性を持つ双子のようで、見ていた凛が思わず苦笑する。
「そんなに悩むもの? もう、どっちかに決めちゃえばいいじゃない」
「でもね、どっちもすごくおいしそうなの!こっちは生地がもちもちって書いてあるし、こっちはクリームたっぷりって……ね?アルトリア!」
「はい、まったく同意見です」
そんなふたりの姿を見て、桜も微笑ましそうに口を開いた。
「じゃあ……ふたりで、違うものを買って半分こしたらどうでしょう?」
「……それだ!」
彼女はパッと顔を上げると、アルトリアの方を振り返った。
「ねね、半分こ、しよ?」
「……っ!」
アルトリアは一瞬だけ目を見開き、そしてほんの少しだけ頬を赤らめながら、静かに頷いた。
「……とても、いい提案です」
それからは早かった。ふたりは相談し合って、一人は「いちごチーズ」、もう一人は「抹茶黒蜜」を注文。
一緒に分け合って、互いの好みを知りながら楽しむつもりだ。
二人はクレープをそれぞれ一種類ずつ注文し、お互いに渡す約束をして受け取った。
「私は抹茶チョコにします」
「うーん、私は王道のいちごクリームで!」
凛と桜もそれぞれ思い思いのクレープを選び、手に持つと自然と笑顔がこぼれた。
クレープが彼女たちの手に渡ると、彼女は早速ふわりと笑い、アルトリアにクレープを差し出した。
「はい、アルトリア。あーん」
アルトリアは戸惑いながらも、頬を染めて口を開いた。
「……あーん」
口元に運ばれた甘いひとくちを受け取ると、彼女の表情がふわりと緩む。
「……おいしい、です」
「なによ、あんたたちはどんなときでもイチャつくのは変わんないわね……」
凛がクレープをかじりながら、あきれたように、でも楽しげに呟いた。
「い、イチャイチャではありません…これは、彼女が私のためを思ってしてくれているのです……っ」
必死に弁解しながらも、否定しきれない照れがアルトリアの顔を赤く染めていた。
クレープ片手に笑い合いながら歩く四人。その姿は、どこにでもいる女子高生たちのようで、けれど誰よりも楽しそうだった。
日が傾き始めたころ、彼女はふと立ち止まり、包み紙を見つめながら小さく呟いた。
(霊薬を使って戻るのは抵抗があったけど…こうやってみんなでクレープ食べて、笑って、過ごせるの……本当に幸せだなぁ)
「みんな」
その呼びかけに、凛も、桜も、アルトリアも振り返る。
「ありがとう」
ふわりと浮かんだ笑顔に、三人も思わず微笑んだ。
やわらかな春風がスカートの裾を揺らす。空はほんのり桜色。
クレープの甘さと一緒に、確かに今が青春だと感じさせる放課後のひとときだった。
一人は、つい先日まで大人の女性として仕事をしていた彼女。彼女はとある事情により、凛から渡された若返りの霊薬の効果によって、今は凛や桜たちと同じ年代の姿に戻っていた。彼女はもともと穂村原学園の卒業生だ。彼女にとってはその制服が懐かしい気持ちの中微笑んでいる。
もう一人はアルトリア・ペンドラゴン。凛に「彼女とお揃いにしたいでしょ?制服の予備があるから、着てきなさいよ」と言われ、素直に従った結果、彼女も見慣れぬ制服姿で現れた。ブラウスにリボンタイ、そして金髪をリボンでまとめたその姿は、まるで昔からこの場にいたかのような自然さだった。
♢
「せっかくだから、何か食べましょうよ」
凛のそんな一言に、空気がふわりと華やぐ。
「あ! あれ!」
彼女が元気よく指差した先には、小さなクレープ屋の屋台があった。
「ねえねえ、クレープ食べようよ。私、制服でクレープ食べたことないの!」
その目はキラキラと輝いていた。初めての放課後に心躍らせる少女のように。
「クレープ……食べたことがないのですが、彩り豊かで美味しそうですね」
アルトリアがメニューを見つめながら、少し目を丸くして呟く。隣で桜も微笑みながら言葉を添えた。
「私も最近食べてませんでした。姉さん、食べませんか?」
「そうね、賛成。ここのは生地がもちもちでおいしいのよ」
四人はクレープ屋の前に並び、それぞれの目がメニューへと吸い寄せられた。
甘い香りに包まれた屋台の前は、まさに誘惑の宝庫だった。
「うーん……チョコバナナもいいけど、抹茶クリームも……あっ、いちごチーズもある!」
彼女はメニュー表を指でなぞりながら、次々に気になる品を口にしていく。
選びきれない──というより、全部食べたい、そんな表情で目を輝かせていた。
「……これは、難しいですね」
隣でアルトリアも真剣な表情でメニューを凝視していた。
いちごに生クリーム、アイスの乗ったもの、カスタードたっぷりの甘いタイプから、ツナやチーズを包んだおかず系まで、目移りするほどの種類。
「この『抹茶と黒蜜の和風クレープ』も気になりますが……でも『チョコバナナスペシャル』も外せないような……」
彼女とアルトリア、二人して前のめりになりながら悩む姿は、まるで同じ感性を持つ双子のようで、見ていた凛が思わず苦笑する。
「そんなに悩むもの? もう、どっちかに決めちゃえばいいじゃない」
「でもね、どっちもすごくおいしそうなの!こっちは生地がもちもちって書いてあるし、こっちはクリームたっぷりって……ね?アルトリア!」
「はい、まったく同意見です」
そんなふたりの姿を見て、桜も微笑ましそうに口を開いた。
「じゃあ……ふたりで、違うものを買って半分こしたらどうでしょう?」
「……それだ!」
彼女はパッと顔を上げると、アルトリアの方を振り返った。
「ねね、半分こ、しよ?」
「……っ!」
アルトリアは一瞬だけ目を見開き、そしてほんの少しだけ頬を赤らめながら、静かに頷いた。
「……とても、いい提案です」
それからは早かった。ふたりは相談し合って、一人は「いちごチーズ」、もう一人は「抹茶黒蜜」を注文。
一緒に分け合って、互いの好みを知りながら楽しむつもりだ。
二人はクレープをそれぞれ一種類ずつ注文し、お互いに渡す約束をして受け取った。
「私は抹茶チョコにします」
「うーん、私は王道のいちごクリームで!」
凛と桜もそれぞれ思い思いのクレープを選び、手に持つと自然と笑顔がこぼれた。
クレープが彼女たちの手に渡ると、彼女は早速ふわりと笑い、アルトリアにクレープを差し出した。
「はい、アルトリア。あーん」
アルトリアは戸惑いながらも、頬を染めて口を開いた。
「……あーん」
口元に運ばれた甘いひとくちを受け取ると、彼女の表情がふわりと緩む。
「……おいしい、です」
「なによ、あんたたちはどんなときでもイチャつくのは変わんないわね……」
凛がクレープをかじりながら、あきれたように、でも楽しげに呟いた。
「い、イチャイチャではありません…これは、彼女が私のためを思ってしてくれているのです……っ」
必死に弁解しながらも、否定しきれない照れがアルトリアの顔を赤く染めていた。
クレープ片手に笑い合いながら歩く四人。その姿は、どこにでもいる女子高生たちのようで、けれど誰よりも楽しそうだった。
日が傾き始めたころ、彼女はふと立ち止まり、包み紙を見つめながら小さく呟いた。
(霊薬を使って戻るのは抵抗があったけど…こうやってみんなでクレープ食べて、笑って、過ごせるの……本当に幸せだなぁ)
「みんな」
その呼びかけに、凛も、桜も、アルトリアも振り返る。
「ありがとう」
ふわりと浮かんだ笑顔に、三人も思わず微笑んだ。
やわらかな春風がスカートの裾を揺らす。空はほんのり桜色。
クレープの甘さと一緒に、確かに今が青春だと感じさせる放課後のひとときだった。
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2025-04-09 21:47
Comments (2)
クレープおいしそう!微笑ましくていいですね
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