ふたりごはん、愛のレシピ 昼編
キッチンに差し込む春の陽射しが、ほんのりとした温もりを部屋に満たしている。
静けさを包む中──
「……ぐぅぅ……」
可愛らしくも容赦のない音が、沈黙を破った。
「…………あっ」
彼女はびくりと肩を震わせ、両手でお腹を押さえた。恥ずかしさに頬が熱くなる。まさか、こんな静かなタイミングで鳴るなんて。
すると隣でアルトリアがくすりと微笑んだ。
「ふふ……お腹が空いてしまったのですね。貴女の身体は、いつも正直――」
言いかけた瞬間、今度はアルトリアのお腹が答えるように、ぐぅ、と鳴った。
「…………っ!」
アルトリアはぴたりと動きを止めた後、ばつの悪そうな顔で頬を染め、視線を泳がせる。
「……私たちのお腹は、いつも正直だね」
思わず口に出してしまった彼女の言葉に、アルトリアはさらに赤くなり、小さく咳払いをした。
「そ、そうですね……否定は、できません」
彼女は思わず吹き出しそうになるのをこらえて、手を叩いた。
「よし! それじゃあ、お昼ご飯を作ってくるよ!」
「お待ちください。私も手伝います。……貴女は、包丁が少し苦手でしょう?ですので、私が担当します。材料の準備はお任せください」
そんな風に言われてしまっては、もう何も言い返せない。笑顔で頷くと、彼女たちはそろってエプロンを手に取った。
「ふふ、新婚生活って感じだね?」
「……『感じ』ではなく、現実です。新婚です、わたしたちは」
きっぱりとした口調に、思わず笑ってしまった。頬を染めてるのに堂々と言うのが、アルトリアらしい。
ピンクのエプロンを身につけた彼女は、冷蔵庫から野菜を取り出す。アルトリアは青いエプロンを身につけ、まな板の前に立った。
彼女は冷蔵庫を開け、野菜室からトマトやピーマン、玉ねぎを取り出す。
「アルトリア、玉ねぎは中サイズを一個、それとピーマンはふたつでお願い。トマトは大きめのを三つ使いたいな」
「承知しました」
アルトリアは軽やかな動きでまな板をセットし、ナイフを手に取る。切る音がリズムよく響くたび、キッチンに心地よい空気が流れた。
「トマトは角切りですか? それとも湯むきして潰します?」
「今回は潰してソースにしたいから、ざく切りでOKだよ。火を通したら私が崩すから」
「了解です。……やはり、貴女に指示されると落ち着きますね」
「なんか、それ褒められてるのかな?」
「当然です。貴女の指示には心がこもっていますし……その、私が少し浮き足立っていても、料理に集中できますから」
彼女は笑みをこぼしながら、炒め用の鍋にオリーブオイルを垂らし、にんにくを投入。香りが広がると、アルトリアが鼻をくすぐったように小さく笑った。
「いい香りですね。これが“家庭の味”というものなのでしょうか」
「うん、でも“ふたりの味”だよ。今日は一緒に作ってるんだから」
そう言いながら、アルトリアの切った材料を受け取る。そして、火加減を見ながら炒めはじめた。
「次はピーマン。これ、入れてもらっていい?」
「かしこまりました」
アルトリアが差し出したボウルを彼女が受け取り、手際よくフライパンに投入する。ジュッと跳ねる音。次に玉ねぎ、そしてトマト。
「じゃあ、ソースを混ぜるところ、一緒にやろっか」
「え?」
「ふたりで、ね」
彼女はアルトリアの手に自分の手を重ねて、ゆっくりと木べらを動かした。アルトリアが一瞬きょとんとした顔をして、それから目元をやわらかく緩めた。
「……はい。貴女と一緒なら、何でも楽しいですから」
混ぜるリズムがふたりで合ってきた頃、彼女は調味料を加えはじめた。
「塩、少し。胡椒は……はい、そこにあるの取ってくれる?」
「こちらですね。どうぞ」
「ありがとう。……うん、これで味はばっちり。あとは煮込むだけだね」
「もう、すっかり『料理長』ですね。私の知らない顔をたくさん見せてくれます」
「そんな大げさな。でも、私たちって……こうして日常を一緒に重ねていくのが、すごく好きなんだと思う」
「……私もです。どれだけ戦場に立とうとも、こうして貴女と“家庭”を築くことは……私にとって、特別なのです」
やがて料理が完成し、ふたりでテーブルに並べる。湯気の立ちのぼる料理を前に、アルトリアがそっと手を合わせた。
「では、いただきましょうか」
「うん。一緒に食べるの、楽しみだね」
「はい……貴女とこのように共に料理をし、食事をする時間、すべて私にとってはかけがえのない宝物ですから」
彼女のその言葉に、私は静かに笑った。
「……私もだよ、アルトリア」
その瞬間、窓の外からやさしい風が吹き込んだ。
それはまるで、ふたりの幸せな午後に、そっと祝福を添えるようだった。
静けさを包む中──
「……ぐぅぅ……」
可愛らしくも容赦のない音が、沈黙を破った。
「…………あっ」
彼女はびくりと肩を震わせ、両手でお腹を押さえた。恥ずかしさに頬が熱くなる。まさか、こんな静かなタイミングで鳴るなんて。
すると隣でアルトリアがくすりと微笑んだ。
「ふふ……お腹が空いてしまったのですね。貴女の身体は、いつも正直――」
言いかけた瞬間、今度はアルトリアのお腹が答えるように、ぐぅ、と鳴った。
「…………っ!」
アルトリアはぴたりと動きを止めた後、ばつの悪そうな顔で頬を染め、視線を泳がせる。
「……私たちのお腹は、いつも正直だね」
思わず口に出してしまった彼女の言葉に、アルトリアはさらに赤くなり、小さく咳払いをした。
「そ、そうですね……否定は、できません」
彼女は思わず吹き出しそうになるのをこらえて、手を叩いた。
「よし! それじゃあ、お昼ご飯を作ってくるよ!」
「お待ちください。私も手伝います。……貴女は、包丁が少し苦手でしょう?ですので、私が担当します。材料の準備はお任せください」
そんな風に言われてしまっては、もう何も言い返せない。笑顔で頷くと、彼女たちはそろってエプロンを手に取った。
「ふふ、新婚生活って感じだね?」
「……『感じ』ではなく、現実です。新婚です、わたしたちは」
きっぱりとした口調に、思わず笑ってしまった。頬を染めてるのに堂々と言うのが、アルトリアらしい。
ピンクのエプロンを身につけた彼女は、冷蔵庫から野菜を取り出す。アルトリアは青いエプロンを身につけ、まな板の前に立った。
彼女は冷蔵庫を開け、野菜室からトマトやピーマン、玉ねぎを取り出す。
「アルトリア、玉ねぎは中サイズを一個、それとピーマンはふたつでお願い。トマトは大きめのを三つ使いたいな」
「承知しました」
アルトリアは軽やかな動きでまな板をセットし、ナイフを手に取る。切る音がリズムよく響くたび、キッチンに心地よい空気が流れた。
「トマトは角切りですか? それとも湯むきして潰します?」
「今回は潰してソースにしたいから、ざく切りでOKだよ。火を通したら私が崩すから」
「了解です。……やはり、貴女に指示されると落ち着きますね」
「なんか、それ褒められてるのかな?」
「当然です。貴女の指示には心がこもっていますし……その、私が少し浮き足立っていても、料理に集中できますから」
彼女は笑みをこぼしながら、炒め用の鍋にオリーブオイルを垂らし、にんにくを投入。香りが広がると、アルトリアが鼻をくすぐったように小さく笑った。
「いい香りですね。これが“家庭の味”というものなのでしょうか」
「うん、でも“ふたりの味”だよ。今日は一緒に作ってるんだから」
そう言いながら、アルトリアの切った材料を受け取る。そして、火加減を見ながら炒めはじめた。
「次はピーマン。これ、入れてもらっていい?」
「かしこまりました」
アルトリアが差し出したボウルを彼女が受け取り、手際よくフライパンに投入する。ジュッと跳ねる音。次に玉ねぎ、そしてトマト。
「じゃあ、ソースを混ぜるところ、一緒にやろっか」
「え?」
「ふたりで、ね」
彼女はアルトリアの手に自分の手を重ねて、ゆっくりと木べらを動かした。アルトリアが一瞬きょとんとした顔をして、それから目元をやわらかく緩めた。
「……はい。貴女と一緒なら、何でも楽しいですから」
混ぜるリズムがふたりで合ってきた頃、彼女は調味料を加えはじめた。
「塩、少し。胡椒は……はい、そこにあるの取ってくれる?」
「こちらですね。どうぞ」
「ありがとう。……うん、これで味はばっちり。あとは煮込むだけだね」
「もう、すっかり『料理長』ですね。私の知らない顔をたくさん見せてくれます」
「そんな大げさな。でも、私たちって……こうして日常を一緒に重ねていくのが、すごく好きなんだと思う」
「……私もです。どれだけ戦場に立とうとも、こうして貴女と“家庭”を築くことは……私にとって、特別なのです」
やがて料理が完成し、ふたりでテーブルに並べる。湯気の立ちのぼる料理を前に、アルトリアがそっと手を合わせた。
「では、いただきましょうか」
「うん。一緒に食べるの、楽しみだね」
「はい……貴女とこのように共に料理をし、食事をする時間、すべて私にとってはかけがえのない宝物ですから」
彼女のその言葉に、私は静かに笑った。
「……私もだよ、アルトリア」
その瞬間、窓の外からやさしい風が吹き込んだ。
それはまるで、ふたりの幸せな午後に、そっと祝福を添えるようだった。
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2025-04-13 08:57
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