【PFFK】今ここにいる君へ、明日ここにいる君へ【アフター】
私はいつものようにキャンバスと彼女を前にうなだれて、ただ地面を見ていた。
得体の知れない焦燥と、このまま一生描けないんじゃないかという恐怖が私を蝕んでいく。
「絵が描けなければ私は私ではない。それは私のような何かだ。」
まだ若かりし頃、周囲に認められようと躍起になっていた頃に繰り返し呟いていた独り言が
今、自身の胸に刺さる。
それでも筆は動かない。測量はできる。構図を考察することもできる。だが線が引けない。
口の中が苦い。
段々自分が追い詰められていくのが分かる。
何も手を動かさなければ、自然と眠気が私を襲う。
(・・・またあの夢を見るのか)
あの美しくて恐ろしい私の喪失を絵に描いたかの様な夢を思うと眠りたくない。
私は何で絵を描いていたのだろう?思い返せばそんなにたいした理由はない。
他にすることがなくて絵を描いていた。絵を描けば褒められた。
村は貧しくて幼い頃から忙しく働いて、でも絵を描いているときだけは幸せだった。
・・・そうだ、思い出した。竜を見たのだ。
幼い頃、村で家の仕事をしていた時、ふと空を見上げたら空を覆いつくすほど巨大な竜を見たんだ。
私は夢中でその竜をスケッチしてそして思ったんだ。
(世の中にはなんて不思議なことがあるのだろう!)
世界中を旅して夢のような不思議な現象を描いて回りたいという幼い私の願いは叶った。
しかしそれもここで終わるのか?
(・・・マ・・・)
耳の奥に何か聞こえた。周囲を見回す。私一人しかいない。
(・・・マ・・・マ・・・)
よく見ると、マグノリアが接木したと言う鉢植えが、かすかに光を帯びている。
私が鉢植えを覗き込むと。根元がかすかに丸みを帯びていた。
(・・・子供・・・?)
日が当たりやすいようにと鉢植えをマグノリアと離していたので、
ためしにマグノリアのそばに移動すると光はわずかに強くなる。
(そうか・・・はは、ははは。)
私は力なく笑う。何もかもが吹き飛んだ気がした。
キャンバスの前に戻り、椅子を蹴倒す。イーゼルを高くし、キャンバスを縦にする。
筆とパレットを乱暴に引ったくり、適当に色を混ぜる。
何も、下絵さえも描かれていない真っ白なキャンバスに、私は殴りつけるように色を置く。
筆が踊る。さっきまでの停滞が嘘のように白いキャンバスは色めき立つ。花が咲くように。
マグノリア、私は本当にダメな男だね。
私は君を失った悲しみに浸って、ずっと沈んでいたかった。
君を想うことで苦しいままでいたかった。
願わくばそのまま静かに息絶えたかった。
でもダメだ。私はこんなにも絵を描くのが楽しくて仕方がない。
だって今君はここにいる。こんなにも私は君が愛おしい。
悲しみに浸っている暇なんてありはしない。
描きたいものはまだまだあるんだ。
明日ここにいる君よ。
私は君をひとときだって孤独になんかしてやらないよ。
なぜならね。
君を想うとこんなにも筆が踊る。
君を想うとこんなにも心が躍る。
君と旅立つ日が待ち遠しくて仕方ない。
色んな場所に行こう。
色んな物を見よう。
色んな人と出会おう。
マグ知っているかい?
世界はこんなにも愛おしい。
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こちら【illust/43451307】の続きになります。
このエピソードはこれで終わりとなります。ありがとうございました。
八木【illust/41854620】
得体の知れない焦燥と、このまま一生描けないんじゃないかという恐怖が私を蝕んでいく。
「絵が描けなければ私は私ではない。それは私のような何かだ。」
まだ若かりし頃、周囲に認められようと躍起になっていた頃に繰り返し呟いていた独り言が
今、自身の胸に刺さる。
それでも筆は動かない。測量はできる。構図を考察することもできる。だが線が引けない。
口の中が苦い。
段々自分が追い詰められていくのが分かる。
何も手を動かさなければ、自然と眠気が私を襲う。
(・・・またあの夢を見るのか)
あの美しくて恐ろしい私の喪失を絵に描いたかの様な夢を思うと眠りたくない。
私は何で絵を描いていたのだろう?思い返せばそんなにたいした理由はない。
他にすることがなくて絵を描いていた。絵を描けば褒められた。
村は貧しくて幼い頃から忙しく働いて、でも絵を描いているときだけは幸せだった。
・・・そうだ、思い出した。竜を見たのだ。
幼い頃、村で家の仕事をしていた時、ふと空を見上げたら空を覆いつくすほど巨大な竜を見たんだ。
私は夢中でその竜をスケッチしてそして思ったんだ。
(世の中にはなんて不思議なことがあるのだろう!)
世界中を旅して夢のような不思議な現象を描いて回りたいという幼い私の願いは叶った。
しかしそれもここで終わるのか?
(・・・マ・・・)
耳の奥に何か聞こえた。周囲を見回す。私一人しかいない。
(・・・マ・・・マ・・・)
よく見ると、マグノリアが接木したと言う鉢植えが、かすかに光を帯びている。
私が鉢植えを覗き込むと。根元がかすかに丸みを帯びていた。
(・・・子供・・・?)
日が当たりやすいようにと鉢植えをマグノリアと離していたので、
ためしにマグノリアのそばに移動すると光はわずかに強くなる。
(そうか・・・はは、ははは。)
私は力なく笑う。何もかもが吹き飛んだ気がした。
キャンバスの前に戻り、椅子を蹴倒す。イーゼルを高くし、キャンバスを縦にする。
筆とパレットを乱暴に引ったくり、適当に色を混ぜる。
何も、下絵さえも描かれていない真っ白なキャンバスに、私は殴りつけるように色を置く。
筆が踊る。さっきまでの停滞が嘘のように白いキャンバスは色めき立つ。花が咲くように。
マグノリア、私は本当にダメな男だね。
私は君を失った悲しみに浸って、ずっと沈んでいたかった。
君を想うことで苦しいままでいたかった。
願わくばそのまま静かに息絶えたかった。
でもダメだ。私はこんなにも絵を描くのが楽しくて仕方がない。
だって今君はここにいる。こんなにも私は君が愛おしい。
悲しみに浸っている暇なんてありはしない。
描きたいものはまだまだあるんだ。
明日ここにいる君よ。
私は君をひとときだって孤独になんかしてやらないよ。
なぜならね。
君を想うとこんなにも筆が踊る。
君を想うとこんなにも心が躍る。
君と旅立つ日が待ち遠しくて仕方ない。
色んな場所に行こう。
色んな物を見よう。
色んな人と出会おう。
マグ知っているかい?
世界はこんなにも愛おしい。
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こちら【illust/43451307】の続きになります。
このエピソードはこれで終わりとなります。ありがとうございました。
八木【illust/41854620】
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2014-05-11 23:59
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