ホーリーメイデンズ怪　第参夜「怪しい転校生（５）」

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　口裂け女がいた場所から、大分離れた頃。
　冬雪は、秋綺の手を放し、背を向ける。

「ごめん。ここで待ってて」
「どこ行くつもり？　まさか、さっきのところに戻るの？」

　秋綺は、冷淡に問いかけた。

「だとしたら、やめておいた方がいい。さっきの赤い巫女に任せて、ここで大人しくしているのが得策だ」

　確かに、今の冬雪が助けにいっても、戦力にならないかもしれない。
　それでも、このまま黙っていることなんてできない。夏月を守れる自分になるって、決めたんだから。

「待っててね！　すぐ戻るから！」

　碧いオーヌサステッキを握り締めながら、冬雪は駆け出した。

「木火土金水（もっかどごんすい）―― 北を守護する聖獣玄武よ、今こそ我が身に宿れ！！」

　変身の言霊を唱え、冬雪は意識を集中させる。途端、冬雪の周囲は海のような蒼い光で満たされる。

　風になびく髪は腰まで伸びていき、頭には大きな水色のリボンが留められる。
　手足がどんどんと華奢になり、その小枝のような小さな手には白い手袋がはめられる。
　ブレザーは浅葱色の上衣に変化していき、小さいながらも胸にふくらみが出てくる。
　ズボンの裾は一体化していき、蒼いミニスカート上の袴となる。
　露出された無駄な肉付きのない脚を、蒼いブーツが覆い、変身は完了した。

「夏月っ！！」

　冬雪は叫ぶと同時に、口裂け女にステッキで殴りかかる。
　しかし、敵はそれを難なくかわす。

「おっと、なんだぁ？」
「冬雪、なんで来たの！？　あんたまだ、術を使えないでしょ！？」
「でも、でも、夏月を放って置けなくて……」

　言い争いを始める二人。
　その傍らで、口裂け女は高笑いする。

「ゲハハハハハハハ！！　お前、さっきの小僧かよぉ！！　こいつは面白ぇ！！」

　そして、スカートの中から、ありったけのナイフを取り出す。

「い、いいぜぇ、一対二！！　乗ってやるよ！！　まずは、お前からだぁ！！」

　と、言うが早いか。夏月に向かって飛び掛る。
　当然、夏月は剣を手に、身構える。

「……と、見せかけてぇ！！」

　体を捻り、口裂け女はナイフを投げる。その方向は、冬雪のいる場所。

「冬雪っ！！」

　血相を変えて、冬雪を庇おうと駆け出す夏月。その無防備な横腹に、冬雪に向かって飛ばされたナイフが突き刺さる。

「ぐぅっ！？」

　苦痛に顔を歪め、夏月は地面に頭を打ち、気を失う。
　突然の事態に、冬雪は目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。なにもかもが一瞬で、なにが起きたかわからなかった。
　そのようにして隙だらけとなった冬雪の体躯を、口裂け女は押し倒す

「あっ、ああっ！？」
「ゲハハハハハハハ！！　み、見事に炎の巫女の足を引っ張ってくれたな、オイ！！　お前が出てきてくれたお陰で、こうして勝てたってわけだ！！」

　サッと、冬雪の全身から血の気が引いていく。
　昨日、玄武が口にした言葉が、頭をよぎる。

　―― いつか君が仲間のピンチを招く日が来るかもしれない。

　本当に、その通りになってしまった。
　あの時、変な気を起こさず、秋綺と一緒に逃げていればこんなことには。

「い、いいよな。女の体は」

　突如口裂け女は、醜悪な笑みを浮かべ、自分の胸に手を当てる。

「噂である俺にとって、こいつはたった一つにして最大の楽しみだ。……に、にしてもお前、結構可愛いな。男のくせによ」

　口裂け女は舌なめずりすると、冬雪の体を撫で始める。顔から胸、ふとももに、蜘蛛が這い回るような感触が伝わる。

「へ、へへ、お前の中の四聖獣を追い出して、今度はてめぇの体をいただくぜ。元男の女に入る……か、考えるだけでぞくぞくするな」
「や……やめて……」

　あまりの気持ち悪さのため、次第に涙で歪む視界。

「だ、だけどよお、お前らが悪いんだぜ？　たった一つしかない、お、俺の楽しみを奪おうとするから。だから、か、神に代わっておしおきしてあげるんだよぉ」
「そりゃあお前のエゴだろ？」

　突然の少女の声に、二人の視線が釘付けになった。
　そこには、マスクをはずした秋綺が立っていた。月明かりに照らされた中性的な顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。

（今回のイラストは、マイピクのバレット・イルフォートさんuser/720849に描いていただきました。ありがとうございます）