ホーリーメイデンズ 第弐夜「ひとりぼっちの女の子(6)」
・前のお話>illust/59442904
・次のお話>illust/59461226
・第弐夜冒頭>illust/59403174
・小説版>https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3205851
何度か顔を洗った後、冬雪はハンカチで顔を拭く。蛇口から流れる水の感触が、冬雪の頭を心地よく冷ましてくれた。
「ふぅ」
溜息をひとつ吐き、冬雪は眼鏡をかける。正面の鏡には、一人の少女が映りこんでいた。冬雪が瞬きすれば、目の前の少女も同じように瞼を動かす。
「これが僕……かぁ」
悔しいくらい違和感がなかった。まるで、最初から自分が少女であったと錯覚してしまうくらいに。
「なに自分の顔に見惚れてんのさ。気色わるー」
トイレの外から聞こえた夏月の声に、冬雪は慌てて反論する。
「べ、別に見惚れてなんか!?」
「言っておくけど、女の子なんて面倒くさいことだらけなんだから! 髪や肌のお手入れもしなきゃいけない、がっつくようにご飯食べちゃいけない、パンツが見えないようにスカートに気をつけなきゃいけない! 常に女の子らしくおしとやかに、って見られるんだよ!」
夏月はマシンガンのように、次々とまくし立てる。
そのあまりの勢いに、冬雪は閉口せざるをえない。
「だからさ、あんたはあんたのままでいいんだよ。あのクソ玄武になにを言われたかわかんないけど、メイデンズになったら、危険なことだっていっぱいあるんだから」
「夏月……」
わかっている、夏月が冬雪を心配しているということは。
「でも、僕は」
その時。
―― 赤~い紙がい~いか~
―― 青~い紙がい~いか~
「え?」
冬雪はキョトンと目を開き、辺りを見回す。
「どうしたの、冬雪?」
どうやら、外の夏月には聞こえていなかった模様。
「今、」
変な歌声が聞こえなかった? そう続けようとした冬雪の言葉が、思わず止まる。
目の前の鏡に、冬雪、そして紅いセーラー服の少女が映りこんでいたのだ。
少女の体は、まるで磨り硝子でできた人形のように透き通っている。明らかに、この世のものではない。
「なんでだよ」
少女は黒目がちの瞳で、ジッと冬雪を見つめ、唇を動かす。
「なんでお前だけ、女になっても心配してくれる友達がいるんだよ」
途端。
入り口から三番目の個室から、二本の手が伸びてくる。蝋のように青白く、細長い手が。
「ぐ……ぅ!?」
手は、冬雪の首を力いっぱい絞めあげる。その感触はまるで、冷水で濡らした布のように不快だった。
「ちょ、冬雪!? どうしたの、冬雪!?」
トイレの外から、必死に叫ぶ声と、ドアを開けようとする音が聞こえる。しかし、扉は決して開かない。
―― 赤~い紙を選んだら~、さんさん血の雨降ってくる
―― 青~い紙を選んだら~、ぶらりぶらぶら首絞めごっこ
遠ざかっていく意識の中で、冬雪の脳内に、断片的な映像が浮かび上がってくる。
昔、一人の少年が、突如少女に性転換した。
少女は学校で珍獣扱いされ、そのうち女子から陰湿ないじめを受けた。誰も味方がいなかった孤独な少女は、このトイレで首をくくった。
しかし、それでも成仏できなかった少女は、彷徨っているうちに「トイレの花子さん」と呼ばれるようになる。
少女は噂どおり、無関係な男子生徒達を襲い、自分と同じく性転換させていった。
「それが……君、なんだね」
目の前の少女は答えない。ただ、氷のような目で冬雪を見据え、静かに佇んでいる。
「そうだ……僕は、一人じゃなかった。夏月が支えてくれたから、だから君みたいにならなかった……」
喉の奥から声を絞り出し、冬雪は言葉を続ける。
その手に、蒼い光が集まっていく。海のように深い、マリンブルーの輝き。
―― 熱いっ!?
冬雪の首を絞めていた手は、光に焦がれ、反射的にその手を放す。
光に包まれた冬雪の体を、浅黄色の上衣が、純白のドレスグローブが、蒼いミニスカート状の袴とブーツが、覆っていく。最後に、水色のリボンが髪に結ばれ、水の巫女「ホーリーアクア」への変身が完了する。
―― し、しまった、変身した!?
―― は、花子!! その巫女を始末するのです!!
白い手の主は慌てた様子で、花子に指示をする。もはや、悠長に歌ってる余裕はなかった。
能面のように無表情だった花子の目に、紅い灯りが点る。その手に身の丈ほどある大鎌を携え、冬雪に飛び掛る。
(今回のイラストは、マイピクのシヴァ化け猫さんuser/49406に描いていただきました。ありがとうございます)
・次のお話>illust/59461226
・第弐夜冒頭>illust/59403174
・小説版>https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3205851
何度か顔を洗った後、冬雪はハンカチで顔を拭く。蛇口から流れる水の感触が、冬雪の頭を心地よく冷ましてくれた。
「ふぅ」
溜息をひとつ吐き、冬雪は眼鏡をかける。正面の鏡には、一人の少女が映りこんでいた。冬雪が瞬きすれば、目の前の少女も同じように瞼を動かす。
「これが僕……かぁ」
悔しいくらい違和感がなかった。まるで、最初から自分が少女であったと錯覚してしまうくらいに。
「なに自分の顔に見惚れてんのさ。気色わるー」
トイレの外から聞こえた夏月の声に、冬雪は慌てて反論する。
「べ、別に見惚れてなんか!?」
「言っておくけど、女の子なんて面倒くさいことだらけなんだから! 髪や肌のお手入れもしなきゃいけない、がっつくようにご飯食べちゃいけない、パンツが見えないようにスカートに気をつけなきゃいけない! 常に女の子らしくおしとやかに、って見られるんだよ!」
夏月はマシンガンのように、次々とまくし立てる。
そのあまりの勢いに、冬雪は閉口せざるをえない。
「だからさ、あんたはあんたのままでいいんだよ。あのクソ玄武になにを言われたかわかんないけど、メイデンズになったら、危険なことだっていっぱいあるんだから」
「夏月……」
わかっている、夏月が冬雪を心配しているということは。
「でも、僕は」
その時。
―― 赤~い紙がい~いか~
―― 青~い紙がい~いか~
「え?」
冬雪はキョトンと目を開き、辺りを見回す。
「どうしたの、冬雪?」
どうやら、外の夏月には聞こえていなかった模様。
「今、」
変な歌声が聞こえなかった? そう続けようとした冬雪の言葉が、思わず止まる。
目の前の鏡に、冬雪、そして紅いセーラー服の少女が映りこんでいたのだ。
少女の体は、まるで磨り硝子でできた人形のように透き通っている。明らかに、この世のものではない。
「なんでだよ」
少女は黒目がちの瞳で、ジッと冬雪を見つめ、唇を動かす。
「なんでお前だけ、女になっても心配してくれる友達がいるんだよ」
途端。
入り口から三番目の個室から、二本の手が伸びてくる。蝋のように青白く、細長い手が。
「ぐ……ぅ!?」
手は、冬雪の首を力いっぱい絞めあげる。その感触はまるで、冷水で濡らした布のように不快だった。
「ちょ、冬雪!? どうしたの、冬雪!?」
トイレの外から、必死に叫ぶ声と、ドアを開けようとする音が聞こえる。しかし、扉は決して開かない。
―― 赤~い紙を選んだら~、さんさん血の雨降ってくる
―― 青~い紙を選んだら~、ぶらりぶらぶら首絞めごっこ
遠ざかっていく意識の中で、冬雪の脳内に、断片的な映像が浮かび上がってくる。
昔、一人の少年が、突如少女に性転換した。
少女は学校で珍獣扱いされ、そのうち女子から陰湿ないじめを受けた。誰も味方がいなかった孤独な少女は、このトイレで首をくくった。
しかし、それでも成仏できなかった少女は、彷徨っているうちに「トイレの花子さん」と呼ばれるようになる。
少女は噂どおり、無関係な男子生徒達を襲い、自分と同じく性転換させていった。
「それが……君、なんだね」
目の前の少女は答えない。ただ、氷のような目で冬雪を見据え、静かに佇んでいる。
「そうだ……僕は、一人じゃなかった。夏月が支えてくれたから、だから君みたいにならなかった……」
喉の奥から声を絞り出し、冬雪は言葉を続ける。
その手に、蒼い光が集まっていく。海のように深い、マリンブルーの輝き。
―― 熱いっ!?
冬雪の首を絞めていた手は、光に焦がれ、反射的にその手を放す。
光に包まれた冬雪の体を、浅黄色の上衣が、純白のドレスグローブが、蒼いミニスカート状の袴とブーツが、覆っていく。最後に、水色のリボンが髪に結ばれ、水の巫女「ホーリーアクア」への変身が完了する。
―― し、しまった、変身した!?
―― は、花子!! その巫女を始末するのです!!
白い手の主は慌てた様子で、花子に指示をする。もはや、悠長に歌ってる余裕はなかった。
能面のように無表情だった花子の目に、紅い灯りが点る。その手に身の丈ほどある大鎌を携え、冬雪に飛び掛る。
(今回のイラストは、マイピクのシヴァ化け猫さんuser/49406に描いていただきました。ありがとうございます)
ホーリーメイデンズ
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変身ヒロイン
transformable heroines
都市伝説
urban legend
トイレの花子さん
Toire no Hanako-san
TSF
性転換
sex change
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2016-10-13 22:22
Comments (12)
花子さんきたぁぁぁぁ!!!それにしても闇落ちヒロインって何でこんなに魅力的なんでしょ←
View Replies遂に登場しましたね、花子さん。 敵として登場したときは、赤と黒をベースにした禍々しいカラーリングだったんですね。 敵ながら、大鎌のデザインも合わさってダークな雰囲気の花子さんも良いですね。
View Repliesはーなーこさーーーーん!! ついに登場しましたね! 今の女の子らしい赤いセーラーとちがって黒セーラーと赤い目が禍々しい……悪いヒロインは良いぞ……
View Replies今まで見た事無いタイプの花子さんですね
冬雪君、いきなり単独での戦闘ですが、どうなるのか!?
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