海月ちゃんは帰れない
ここは怪異対策課オペレーター室。怪異に悩まされる善良な市民と審神者と刀剣男士達の為に365日24時間、最前線で働き続ける窓口である。
なにせ、怪異というものは真夜中だろうが盆暮れ正月ゴールデンウィークなどガン無視で出没するものであり、対策の専門家達は要請があってから出動せざるを得ないもの。
更に「助けて~政府~」とヘルプコールかけてくる要救助者だって、本当に怪異による事件もあるが、思い込みやら見間違いやら、時にはメンタルヘルスの方が先だよね?というもの、ただ女性オペレーターとお話ししたいだけという言語道断な時間泥棒案件まで、種々様々な相談を扱う。
オペレーターは専門知識と耐性のみならず、鋼のメンタルと体力と図太さが必要な職業なのだ。
「ああぁああああっ、もうやだおうち帰りたい~~っ。にゃんこ様に癒やされたい~~~っ。耳が腐る気色悪いあんにゃろもげろ腐り落ちてしまえ~~~~っ!!!!」
草木も眠る丑三つ時、オペレーターのひとり「ジェリーフィッシュ」こと海月がいきなり立ち上がって奇声を上げた。ネコ耳型ヘッドセットをもぎ取って、お団子に結い上げた髪がばっさばっさと乱れるのも構わず頭を振りまくっている…狂気すら感じる形相だった。
「海月パイセン、どーどー、落ち着くです。今度はどしたですか?」
隣の席の後輩、「ベル」こと鈴がため息をこぼしつつ、海月をなだめる。彼女の奇行はいつものことなので慣れっこなのだ。
ひとしきり吼えて気が済んだのか、着席した海月は恨みがましくパソコン画面を眺めながら説明する。
「相談者かと思ったら変態だった」
あ、とベル達は察した。
基本的に怪異事件相談窓口は顔の見えない音声オンリー相談だ。これはうっかり怪異に縁を繋がない為の予防策でもあるし、相談者とオペレーターが相互に特定されないための対策でもある。匿名だからこそ気軽に相談できることは割と多いのだ。
しかし、それを悪用する輩はいつの時代にも存在する。
「はじめは審神者の体調不良が霊障か本丸の風水的な障りによるものじゃないかっていう相談だった。そーゆーのは、こっちで簡単な聞き取りしてから専門の術者に回すもんだから、真面目に聞いていたんだけど…」
マニュアル的にも間違ってはいない。ふむふむと聞いていたベル達も頷く。
「具体的にどういう体調不良なのかって聞いたあたりで、ドエロ話にチェンジした」
息を荒げてねっとりと微に入り細に入り自分の性癖を披露し始めた男の声に、これはヤバいヤツだと悟ったものの、通話を切断しようとすると身体が金縛り状態で動かない。
「うわあ…エロ怪異に金縛りされるとかご愁傷様…」
真面目な相談だと思って「聞く」体勢になっていたため、つけ込まれてしまったのだ。
「電脳世界からこんちゃんにヘルプしてあたしの耳から侵入しくさったあの腐れマラ野郎を隠者の紫で縛り上げてオラオラ百連発かまして爆裂四散させてやっと主導権取り戻して通話ぶち切った。なにが君の子宮に僕の白子をぶちまけさせてだ巫山戯るなアアアアンあたしにも選ぶ権利があるわアラサーだと思って舐めんなクソエロナマコ──っ!!!!!」
うがあああああ、とまた荒れ狂いだした海月。精神世界での攻防には勝利したものの、相当気色悪かったらしい。
「ほら、ミルクティー飲んで落ち着きなさいな。ガナッシュもあるわよ」
「せ、先輩。兄さんのお土産のプチケーキもありますよ。すごく美味しいんです。どうぞ」
桔梗と時計草も、優しく海月にとっておきの食べ物で慰撫にかかった。
仲間達のいたわりが荒れた心にしみわたる。じわりと涙がにじみかけた時、クールビューティーな上司「rinri」こと樒が、机につっぷする海月の頭に塩を振りかけ刀印を切った。
穢れの残滓を綺麗さっぱり斬り捨てて、浄化完了。
「それを食べたら次の仕事です。相談が溜まってるから、頑張って下さいね」
涼やかに微笑む上司のひと言で、にじんだ涙がひっこんだ。
「うわあああん、帰らせてぇえええ──っ!」
世に怪異がはびこる限り、彼女達の戦い(勤務)は続くのだった。
・・・・・
・・・
・
ただいま療養中でお仕事休んでいる筆者です。職場の同僚(海月ちゃんモデル)のことを思い出しつつ小話書きました。長い話はまだちょっと気力が足りないので…。
なにせ、怪異というものは真夜中だろうが盆暮れ正月ゴールデンウィークなどガン無視で出没するものであり、対策の専門家達は要請があってから出動せざるを得ないもの。
更に「助けて~政府~」とヘルプコールかけてくる要救助者だって、本当に怪異による事件もあるが、思い込みやら見間違いやら、時にはメンタルヘルスの方が先だよね?というもの、ただ女性オペレーターとお話ししたいだけという言語道断な時間泥棒案件まで、種々様々な相談を扱う。
オペレーターは専門知識と耐性のみならず、鋼のメンタルと体力と図太さが必要な職業なのだ。
「ああぁああああっ、もうやだおうち帰りたい~~っ。にゃんこ様に癒やされたい~~~っ。耳が腐る気色悪いあんにゃろもげろ腐り落ちてしまえ~~~~っ!!!!」
草木も眠る丑三つ時、オペレーターのひとり「ジェリーフィッシュ」こと海月がいきなり立ち上がって奇声を上げた。ネコ耳型ヘッドセットをもぎ取って、お団子に結い上げた髪がばっさばっさと乱れるのも構わず頭を振りまくっている…狂気すら感じる形相だった。
「海月パイセン、どーどー、落ち着くです。今度はどしたですか?」
隣の席の後輩、「ベル」こと鈴がため息をこぼしつつ、海月をなだめる。彼女の奇行はいつものことなので慣れっこなのだ。
ひとしきり吼えて気が済んだのか、着席した海月は恨みがましくパソコン画面を眺めながら説明する。
「相談者かと思ったら変態だった」
あ、とベル達は察した。
基本的に怪異事件相談窓口は顔の見えない音声オンリー相談だ。これはうっかり怪異に縁を繋がない為の予防策でもあるし、相談者とオペレーターが相互に特定されないための対策でもある。匿名だからこそ気軽に相談できることは割と多いのだ。
しかし、それを悪用する輩はいつの時代にも存在する。
「はじめは審神者の体調不良が霊障か本丸の風水的な障りによるものじゃないかっていう相談だった。そーゆーのは、こっちで簡単な聞き取りしてから専門の術者に回すもんだから、真面目に聞いていたんだけど…」
マニュアル的にも間違ってはいない。ふむふむと聞いていたベル達も頷く。
「具体的にどういう体調不良なのかって聞いたあたりで、ドエロ話にチェンジした」
息を荒げてねっとりと微に入り細に入り自分の性癖を披露し始めた男の声に、これはヤバいヤツだと悟ったものの、通話を切断しようとすると身体が金縛り状態で動かない。
「うわあ…エロ怪異に金縛りされるとかご愁傷様…」
真面目な相談だと思って「聞く」体勢になっていたため、つけ込まれてしまったのだ。
「電脳世界からこんちゃんにヘルプしてあたしの耳から侵入しくさったあの腐れマラ野郎を隠者の紫で縛り上げてオラオラ百連発かまして爆裂四散させてやっと主導権取り戻して通話ぶち切った。なにが君の子宮に僕の白子をぶちまけさせてだ巫山戯るなアアアアンあたしにも選ぶ権利があるわアラサーだと思って舐めんなクソエロナマコ──っ!!!!!」
うがあああああ、とまた荒れ狂いだした海月。精神世界での攻防には勝利したものの、相当気色悪かったらしい。
「ほら、ミルクティー飲んで落ち着きなさいな。ガナッシュもあるわよ」
「せ、先輩。兄さんのお土産のプチケーキもありますよ。すごく美味しいんです。どうぞ」
桔梗と時計草も、優しく海月にとっておきの食べ物で慰撫にかかった。
仲間達のいたわりが荒れた心にしみわたる。じわりと涙がにじみかけた時、クールビューティーな上司「rinri」こと樒が、机につっぷする海月の頭に塩を振りかけ刀印を切った。
穢れの残滓を綺麗さっぱり斬り捨てて、浄化完了。
「それを食べたら次の仕事です。相談が溜まってるから、頑張って下さいね」
涼やかに微笑む上司のひと言で、にじんだ涙がひっこんだ。
「うわあああん、帰らせてぇえええ──っ!」
世に怪異がはびこる限り、彼女達の戦い(勤務)は続くのだった。
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ただいま療養中でお仕事休んでいる筆者です。職場の同僚(海月ちゃんモデル)のことを思い出しつつ小話書きました。長い話はまだちょっと気力が足りないので…。
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2023-06-06 14:03
Comments (1)
海月さん…ご愁傷さまです…変態怪異は倒すべきです! 早く退勤できて鶴さんと美味しいものを食べに行けますように!