幸運EX+++バディによる哭倉村RTA62
「ふあ……」
メニューに無い緑茶を飲んで一息つくと、ゲゲ郎が船を漕ぎ始める。
時計は23時を回り、人間が寝始める時間帯だ。
「凄い欠伸(あくび)だな。幽霊族は夜が一番活発だと言ってなかったか?」
「うむ。本来はそうなんじゃが……ここ70年近くほぼ毎日書き物を続けた故、どうにも昼夜逆転してしもうた。朝6時に起きて23時には眠くなってしまう。夜を縄張りとする一族のはずなのに……ありえん」
「生活リズムが整って良かったじゃねえか。出会うまでは昼行燈(ひるあんどん)だったんだろう?」
「お化けは学校も試験も無いのじゃ。勿論、労働だって義務じゃない」
「折角時間に追われない物書きなのに、根詰めるなよ。また過労で倒れても、今度は放置するぞ」
「あのときはすまなかった……」
今からおよそ60年前。無尽蔵に体力があると言っても過言ではない幽霊族が、まさかの過労で倒れたのである。
夕飯のお裾分けをするためにゲゲ郎宅を訪ねた水木が、第一発見者になってしまった。
たまたまゲゲ郎の妻、そして先祖まで出払っていたのである。
「ご先祖様の説教が本当に怖かった……心配の裏返しとは分かっていたものの、正直コ■されるかと思った」
「傍から見てても恐ろしかったな、あれは」
「"趣味に没頭するのと、身を滅ぼすことは違う"……全くもってその通りじゃ……」
ゲゲ郎にとって、物書きは仕事ではなく趣味らしい。
幼少期は日々を生き延びることに精一杯で、趣味を持つことが出来なかったという。
その反動なのか、気楽に始めた物書き――始めは小遣い程度になれば僥倖程度に思っていた――が性(しょう)に合い、彼の妻が働きに出ている時間全てを執筆に充てた結果、倒れた。
労働初心者あるあるすぎて今では笑い話になっているが、当時水木の肝は冷えた。
「年々お前は人間らしくなるなあ」
「お主は年々人間離れしていくのお」
「俺は年齢に見合った進化を遂げているだけだ」
「その内、空でも飛ぶつもりか? 水木よ、お主がやることなすこと全てが驚きの連続じゃ……」
「飽きなくて良かったな」
軽口をたたき合いながら茶を飲んでいると、あっという間に時間が過ぎる。
壁に飾られたアンティークの時計が、短針と長針がともに12を指そうとしていた。
そろそろ帰るかと二人がカウンター席から腰を上げようとしたとき、宙からひらりと一枚の紙が現れる。それはゲゲ郎の手元に自ら入っていった。
諜報活動を得意とする、先祖の一人からの密書だった。中身に目を通すと「またか」と心底うんざりと言った風に、ゲゲ郎はカウンターに突っ伏す。
「…どうした?」
ゲゲ郎は紙きれを無言で渡すと、水木が読み上げる。
「"総大将殿に不穏な動きあり"……奴(やっこ)さんも飽きねえな。今年に入って何回目だ?」
二人の頭の中に浮かぶのは、あくどい顔をした頭のでかい妖怪である。彼は妖怪社会復興の過激派で、人間の隷属化を目指しているらしい。
西洋妖怪の総大将まで引っ張り出して利用しようとするものだから、手に負えない。しかもしぶとい。
「62回目じゃ。儂や水木だけでなく、ご先祖様たちにも何回もしばかれているというのに……一体いつになれば気が済むんじゃ……儂は気が長い方じゃが、こやつはいい加減しつこすぎる」
「いつの時代も、人間も妖怪も、支配したがる奴は後を絶たねえな。――人間の味方ってわけじゃねえが……一方が支配する世界なんかごめんだね。奴さんが諦めるまで、何回でもしばいてやろうぜ」
水木は好戦的な笑みを浮かべると、ゲゲ郎の肩を叩く。
ゲゲ郎が荒事を好まないことは知っているが、それでも"気に食わないもの(支配)を叩き潰す"ためには彼の力が必要だ。
「そうじゃな。――往くか、相棒」
「おう」
水木は着慣れたスーツ姿になると、何処からともなく手斧を持ち出した。
ゲゲ郎もまた、着流しに姿を変える。
二人は店内を消灯、戸締りをしたのを確認すると、屋上へと向かった。
====================
今回キャプション短め失礼します(`・ω・´)
次、哭倉村RTA編最終回です。
ちょっと時間かけたいので明後日の更新になると思います!
メニューに無い緑茶を飲んで一息つくと、ゲゲ郎が船を漕ぎ始める。
時計は23時を回り、人間が寝始める時間帯だ。
「凄い欠伸(あくび)だな。幽霊族は夜が一番活発だと言ってなかったか?」
「うむ。本来はそうなんじゃが……ここ70年近くほぼ毎日書き物を続けた故、どうにも昼夜逆転してしもうた。朝6時に起きて23時には眠くなってしまう。夜を縄張りとする一族のはずなのに……ありえん」
「生活リズムが整って良かったじゃねえか。出会うまでは昼行燈(ひるあんどん)だったんだろう?」
「お化けは学校も試験も無いのじゃ。勿論、労働だって義務じゃない」
「折角時間に追われない物書きなのに、根詰めるなよ。また過労で倒れても、今度は放置するぞ」
「あのときはすまなかった……」
今からおよそ60年前。無尽蔵に体力があると言っても過言ではない幽霊族が、まさかの過労で倒れたのである。
夕飯のお裾分けをするためにゲゲ郎宅を訪ねた水木が、第一発見者になってしまった。
たまたまゲゲ郎の妻、そして先祖まで出払っていたのである。
「ご先祖様の説教が本当に怖かった……心配の裏返しとは分かっていたものの、正直コ■されるかと思った」
「傍から見てても恐ろしかったな、あれは」
「"趣味に没頭するのと、身を滅ぼすことは違う"……全くもってその通りじゃ……」
ゲゲ郎にとって、物書きは仕事ではなく趣味らしい。
幼少期は日々を生き延びることに精一杯で、趣味を持つことが出来なかったという。
その反動なのか、気楽に始めた物書き――始めは小遣い程度になれば僥倖程度に思っていた――が性(しょう)に合い、彼の妻が働きに出ている時間全てを執筆に充てた結果、倒れた。
労働初心者あるあるすぎて今では笑い話になっているが、当時水木の肝は冷えた。
「年々お前は人間らしくなるなあ」
「お主は年々人間離れしていくのお」
「俺は年齢に見合った進化を遂げているだけだ」
「その内、空でも飛ぶつもりか? 水木よ、お主がやることなすこと全てが驚きの連続じゃ……」
「飽きなくて良かったな」
軽口をたたき合いながら茶を飲んでいると、あっという間に時間が過ぎる。
壁に飾られたアンティークの時計が、短針と長針がともに12を指そうとしていた。
そろそろ帰るかと二人がカウンター席から腰を上げようとしたとき、宙からひらりと一枚の紙が現れる。それはゲゲ郎の手元に自ら入っていった。
諜報活動を得意とする、先祖の一人からの密書だった。中身に目を通すと「またか」と心底うんざりと言った風に、ゲゲ郎はカウンターに突っ伏す。
「…どうした?」
ゲゲ郎は紙きれを無言で渡すと、水木が読み上げる。
「"総大将殿に不穏な動きあり"……奴(やっこ)さんも飽きねえな。今年に入って何回目だ?」
二人の頭の中に浮かぶのは、あくどい顔をした頭のでかい妖怪である。彼は妖怪社会復興の過激派で、人間の隷属化を目指しているらしい。
西洋妖怪の総大将まで引っ張り出して利用しようとするものだから、手に負えない。しかもしぶとい。
「62回目じゃ。儂や水木だけでなく、ご先祖様たちにも何回もしばかれているというのに……一体いつになれば気が済むんじゃ……儂は気が長い方じゃが、こやつはいい加減しつこすぎる」
「いつの時代も、人間も妖怪も、支配したがる奴は後を絶たねえな。――人間の味方ってわけじゃねえが……一方が支配する世界なんかごめんだね。奴さんが諦めるまで、何回でもしばいてやろうぜ」
水木は好戦的な笑みを浮かべると、ゲゲ郎の肩を叩く。
ゲゲ郎が荒事を好まないことは知っているが、それでも"気に食わないもの(支配)を叩き潰す"ためには彼の力が必要だ。
「そうじゃな。――往くか、相棒」
「おう」
水木は着慣れたスーツ姿になると、何処からともなく手斧を持ち出した。
ゲゲ郎もまた、着流しに姿を変える。
二人は店内を消灯、戸締りをしたのを確認すると、屋上へと向かった。
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今回キャプション短め失礼します(`・ω・´)
次、哭倉村RTA編最終回です。
ちょっと時間かけたいので明後日の更新になると思います!
鬼太郎誕生ゲゲゲの謎
Kitarou Tanjou: Gegege no Nazo
ゲゲゲの謎
The Mystery of Gegege
ゲゲ郎
Gegerou
水木
Mizuki
年中行事
nennjuugyouji
幸運EX+++バディによる哭倉村RTA
naguramuraa-ruthi-e-
ゲゲゲの鬼太郎500users入り
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2024-05-22 02:26
Comments (59)
ぬらりひょんグッバイ!!
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