幸運EX+++バディによる哭倉村RTA59
「――という感じで鬼太郎が生まれたのじゃ!」
ひゅう……と湿り気を帯びた風が、山田と鬼太郎たちとの間を吹き抜ける。
鬼太郎は始終無表情だし、猫娘も口元を押さえて黙りこくっていた。山田と同じくコメントしづらいのかもしれない。
そりゃあ困惑するだろう。
やたら登場する沢庵にレバニラ責め。
目玉おやじの相棒、水木が臨死体験をしたところはヒヤッとしたが、彼が現世に戻ってきた切っ掛けも沢庵とレバニラ。
その水木も話を聞いている限り人間なのかどうか疑わしい。水上走ったり、落ちてくる瓦礫を足場に十数メートル上を目指して跳ぶって何事だ。妖怪に素手での攻撃が通るとか、脚色しているんじゃないのか?
元凶の所業や因習は悪辣で吐き気をもよおすし、それに巻き込まれた幽霊族は本当に悲運としか言いようがないのに……頻繁に挟まる水木や龍賀一族(特に女性陣)のエピソードがシリアスを全力で妨害してくる。
もし山田がただの通りすがりの人間だったら、適当なところで切り上げていたはずだ。
しかし山田は廃刊寸前とはいえ、プロの雑誌記者である。『妖怪少年・ゲゲゲの鬼太郎』出生の秘密を記事にするために、山田は必死に頭を回転させ取材を続けた。
「……な、なるほど。奥さんは今も息災で、ご先祖様も……」
「はい。順調に復活していますね。祖父母はいま6人に増えました」
祖父母が順調に増えるというパワーワードに、本格的に猫娘は絶句したようだ。見るからに嫌な汗を掻いている。
「……その、ちなみに終盤で出てきた代表さんも、ご健在なんですか?」
まだ頭の中が整理できない状態で、山田は分かり切った質問をしてしまう。最早とにかく話を続けなければ、という使命感に駆られていた。
「最初に復活したご先祖様は……」山田と猫娘の反応など知らんといった風に、鬼太郎はクールに話を続ける。
「あの人は本当にパワフルで……奥さんが復活したら、また一緒に暮らして世界一周旅行へ行くと……凄く張り切ってます。例の血桜の下で、ギリギリ生きていたようで……いまはその資金繰りのために、あちこち飛び回って元気に働いていますよ。
僕たちとは別々に暮らしているはずなんですが、見かけない日が正直無いので、一方的に生存を確認している感じではあります……いや、本当にどうして周りの人間に色々とバレないんでしょうか……不思議です」
どうしよう。謎を突き止めるはずが、謎を深めてしまった。
一体彼のご先祖様(代表)は何をしているんだ? 見かけない日は無いって、どういうこと?
(本人たちは必死だし、間違いなく壮絶な話なのに……予想の斜め上に行ってしまった……!)
山田がチラリと猫娘を見ると、彼女はまだ何とも言えない表情をしている。どうやら出生の秘密をいま知ったらしい。幼馴染という噂があるのに、知らせていないとは。秘密主義が過ぎる。
「え……じゃあ親父さんは何で目玉の姿なの? 今の話だと体は無事なのよね? 私、鬼太郎のお母さんにも親父さんの本体(?)にも会ったことないんだけど……え? そこそこ鬼太郎たちとは長い付き合いのはずなのに、私だけ知らされていない感じ? 嘘でしょ?」
「なんと! いつも一緒にいるから話した気になっておった! のう鬼太郎」
「はい。何なら猫娘は、10年位前に水木さんにも会ったことあるけど……紹介していなかったか?」
「全部初耳なんだけど!? 一体どこの男よ!!」
キィーッ!と猫娘は憤ったように、その綺麗な顔を変貌させて爪を伸ばし地団太を踏む。なるほど、その様子は妖怪然としていた。
そんなヒステリックを起こした猫娘を、まあまあと目玉おやじが宥める。
「すまんのお。うっかりしておったわ。本体から目玉だけ分離しているだけじゃ」
「……どうして鬼太郎と一緒に暮らしていないの? 家族なんでしょう?」
「それは――」
「それは、僕だってもう幽霊族として成人している」
黙って聞いていた鬼太郎が口を挟む。自分が出なければ、収集が付かないと判断したのかもしれない。
「言うなれば一人前だ。だから、いつまでも実家で世話になるわけにはいかない……けど、一人立ちするとき父さんが凄く泣いてしまって……それこそ、この世の終わりみたいに」
「可愛い子には旅をさせよ……それは分かっておる。しかし妻と生き別れたことがトラウマになってしまって、どうにも身内が目の届かないところにいないと、心配で心配で溜らないのじゃ……もう二度とあんな苦しい思いはしとうない」
目玉がさめざめと涙を流す。
気を抜くとシリアルになってしまうが、彼にとっては大変つらい出来事だったはずだ。山田は未婚だが、きっと大切な人が急にいなくなったら同じ状態になってしまうだろう。
たとえ少女が成人男性を締め上げ宙づりにしようと、血桜がクリスマスツリーになろうと、元凶の爺が巨大化しようと、つらかった過去に変わりはない。うん。
「そんな経緯で、目玉状態の父さんが誕生したわけです。……この場合、僕はまだ自立できていないんじゃないかと心配になります」
鬼太郎がちょっぴりしょんぼりとした表情になる。自立したい年頃としては、複雑なのかもしれない。
しかし、そんな鬼太郎を猫娘が必死にフォローする。
「そ、そんなことないわ! 身の回りのこと全部自分でやってるし、鬼太郎は充分自立出来てるわよ!」
「だといいけど」
「ところで、水木さんは……単純計算で軽く90歳は超えているわよね? ……以前お墓参りに付き合ったけれど、もしかして……」
「あれは水木の御母堂の墓参りじゃ。水木は確かに100歳近いが、あやつはピンピンしとる。いま儂の本体と仕事中じゃよ。え、これも言っておらんかったか?」
目玉があっけらかんとした調子で答える。ブチッ!と何かが切れる音が、猫娘の方から聞こえた。
「言ってない! 鬼太郎が子供の頃、人間のお世話になりながら暮らしていたとしか聞いてないわよ! てっきり養父だったのかと思ったわ!」
「間違いなく水木さんにはお世話になったし、何なら父さんと母さんと一緒に僕を育ててくれた恩人で、家族だ。
それに母さんも長年行方不明の挙句に〇亡扱いだったから、社会復帰するときも時間かかったみたいだ。だけど水木さんが人間の顔見知りが多かったから、その伝手で仕事の口利きもしてくれたと聞いている……彼に恩があることに変わりはない」
話に出てきた超人・水木はどうやらまだまだ現役らしい。
それにしても本体と仕事中とは……一体どこで何の仕事をしているんだ? 増えたご先祖様たちもいま何をしている?
次々と浮かぶ疑問に、山田は尋ねずにはいられない。
「ちなみに、その水木さんは今どこに?」
「個人情報じゃから、詳細は話せん……が、表向きは都内でひっそりと、ある飲食店を経営している――とだけ言っておこうかの。ちなみに儂は、あまり店には顔を出さん。へるぷには入るがの」
随分と含みを持たせた物言いで、彼はいたずらっ子のように目玉だけで微笑んだ。
====================
鬼太郎はどんな気持ちで話を聞いていたのか、凄く気になりましたね(`・ω・´)!
エピローグまだ入らなくてすみません。先にこっちを描きたかった。
ひゅう……と湿り気を帯びた風が、山田と鬼太郎たちとの間を吹き抜ける。
鬼太郎は始終無表情だし、猫娘も口元を押さえて黙りこくっていた。山田と同じくコメントしづらいのかもしれない。
そりゃあ困惑するだろう。
やたら登場する沢庵にレバニラ責め。
目玉おやじの相棒、水木が臨死体験をしたところはヒヤッとしたが、彼が現世に戻ってきた切っ掛けも沢庵とレバニラ。
その水木も話を聞いている限り人間なのかどうか疑わしい。水上走ったり、落ちてくる瓦礫を足場に十数メートル上を目指して跳ぶって何事だ。妖怪に素手での攻撃が通るとか、脚色しているんじゃないのか?
元凶の所業や因習は悪辣で吐き気をもよおすし、それに巻き込まれた幽霊族は本当に悲運としか言いようがないのに……頻繁に挟まる水木や龍賀一族(特に女性陣)のエピソードがシリアスを全力で妨害してくる。
もし山田がただの通りすがりの人間だったら、適当なところで切り上げていたはずだ。
しかし山田は廃刊寸前とはいえ、プロの雑誌記者である。『妖怪少年・ゲゲゲの鬼太郎』出生の秘密を記事にするために、山田は必死に頭を回転させ取材を続けた。
「……な、なるほど。奥さんは今も息災で、ご先祖様も……」
「はい。順調に復活していますね。祖父母はいま6人に増えました」
祖父母が順調に増えるというパワーワードに、本格的に猫娘は絶句したようだ。見るからに嫌な汗を掻いている。
「……その、ちなみに終盤で出てきた代表さんも、ご健在なんですか?」
まだ頭の中が整理できない状態で、山田は分かり切った質問をしてしまう。最早とにかく話を続けなければ、という使命感に駆られていた。
「最初に復活したご先祖様は……」山田と猫娘の反応など知らんといった風に、鬼太郎はクールに話を続ける。
「あの人は本当にパワフルで……奥さんが復活したら、また一緒に暮らして世界一周旅行へ行くと……凄く張り切ってます。例の血桜の下で、ギリギリ生きていたようで……いまはその資金繰りのために、あちこち飛び回って元気に働いていますよ。
僕たちとは別々に暮らしているはずなんですが、見かけない日が正直無いので、一方的に生存を確認している感じではあります……いや、本当にどうして周りの人間に色々とバレないんでしょうか……不思議です」
どうしよう。謎を突き止めるはずが、謎を深めてしまった。
一体彼のご先祖様(代表)は何をしているんだ? 見かけない日は無いって、どういうこと?
(本人たちは必死だし、間違いなく壮絶な話なのに……予想の斜め上に行ってしまった……!)
山田がチラリと猫娘を見ると、彼女はまだ何とも言えない表情をしている。どうやら出生の秘密をいま知ったらしい。幼馴染という噂があるのに、知らせていないとは。秘密主義が過ぎる。
「え……じゃあ親父さんは何で目玉の姿なの? 今の話だと体は無事なのよね? 私、鬼太郎のお母さんにも親父さんの本体(?)にも会ったことないんだけど……え? そこそこ鬼太郎たちとは長い付き合いのはずなのに、私だけ知らされていない感じ? 嘘でしょ?」
「なんと! いつも一緒にいるから話した気になっておった! のう鬼太郎」
「はい。何なら猫娘は、10年位前に水木さんにも会ったことあるけど……紹介していなかったか?」
「全部初耳なんだけど!? 一体どこの男よ!!」
キィーッ!と猫娘は憤ったように、その綺麗な顔を変貌させて爪を伸ばし地団太を踏む。なるほど、その様子は妖怪然としていた。
そんなヒステリックを起こした猫娘を、まあまあと目玉おやじが宥める。
「すまんのお。うっかりしておったわ。本体から目玉だけ分離しているだけじゃ」
「……どうして鬼太郎と一緒に暮らしていないの? 家族なんでしょう?」
「それは――」
「それは、僕だってもう幽霊族として成人している」
黙って聞いていた鬼太郎が口を挟む。自分が出なければ、収集が付かないと判断したのかもしれない。
「言うなれば一人前だ。だから、いつまでも実家で世話になるわけにはいかない……けど、一人立ちするとき父さんが凄く泣いてしまって……それこそ、この世の終わりみたいに」
「可愛い子には旅をさせよ……それは分かっておる。しかし妻と生き別れたことがトラウマになってしまって、どうにも身内が目の届かないところにいないと、心配で心配で溜らないのじゃ……もう二度とあんな苦しい思いはしとうない」
目玉がさめざめと涙を流す。
気を抜くとシリアルになってしまうが、彼にとっては大変つらい出来事だったはずだ。山田は未婚だが、きっと大切な人が急にいなくなったら同じ状態になってしまうだろう。
たとえ少女が成人男性を締め上げ宙づりにしようと、血桜がクリスマスツリーになろうと、元凶の爺が巨大化しようと、つらかった過去に変わりはない。うん。
「そんな経緯で、目玉状態の父さんが誕生したわけです。……この場合、僕はまだ自立できていないんじゃないかと心配になります」
鬼太郎がちょっぴりしょんぼりとした表情になる。自立したい年頃としては、複雑なのかもしれない。
しかし、そんな鬼太郎を猫娘が必死にフォローする。
「そ、そんなことないわ! 身の回りのこと全部自分でやってるし、鬼太郎は充分自立出来てるわよ!」
「だといいけど」
「ところで、水木さんは……単純計算で軽く90歳は超えているわよね? ……以前お墓参りに付き合ったけれど、もしかして……」
「あれは水木の御母堂の墓参りじゃ。水木は確かに100歳近いが、あやつはピンピンしとる。いま儂の本体と仕事中じゃよ。え、これも言っておらんかったか?」
目玉があっけらかんとした調子で答える。ブチッ!と何かが切れる音が、猫娘の方から聞こえた。
「言ってない! 鬼太郎が子供の頃、人間のお世話になりながら暮らしていたとしか聞いてないわよ! てっきり養父だったのかと思ったわ!」
「間違いなく水木さんにはお世話になったし、何なら父さんと母さんと一緒に僕を育ててくれた恩人で、家族だ。
それに母さんも長年行方不明の挙句に〇亡扱いだったから、社会復帰するときも時間かかったみたいだ。だけど水木さんが人間の顔見知りが多かったから、その伝手で仕事の口利きもしてくれたと聞いている……彼に恩があることに変わりはない」
話に出てきた超人・水木はどうやらまだまだ現役らしい。
それにしても本体と仕事中とは……一体どこで何の仕事をしているんだ? 増えたご先祖様たちもいま何をしている?
次々と浮かぶ疑問に、山田は尋ねずにはいられない。
「ちなみに、その水木さんは今どこに?」
「個人情報じゃから、詳細は話せん……が、表向きは都内でひっそりと、ある飲食店を経営している――とだけ言っておこうかの。ちなみに儂は、あまり店には顔を出さん。へるぷには入るがの」
随分と含みを持たせた物言いで、彼はいたずらっ子のように目玉だけで微笑んだ。
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鬼太郎はどんな気持ちで話を聞いていたのか、凄く気になりましたね(`・ω・´)!
エピローグまだ入らなくてすみません。先にこっちを描きたかった。
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2024-05-19 01:00
Comments (77)
山田さん頑張ってまとめて 買うから
幸運EX+++バディ要素は何処へ、、まぁいっか
なんか光っとるw
この世界の目玉の親父って本体は生きてるけど、変な意味で言えば…呪いのデーボとかワンダーオブuみたいな感じですかね(汗)
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